EP64.カフェで姫とランチを
俺こと
しかし、さっきのように話が盛り上がっている…という訳ではなく、服屋の1件のせいでかなり気まずい状況になっている。
俺は小夜の目のやり場に困る服装を見て、とっくに限界突破しているキャパシティが完全にオーバーしていた。
小夜は小夜で、俺が無意識に言っていた褒め言葉と、俺の顔が真っ赤になっている理由を察したことで色々恥ずかしくなっていた。
そんなこんなで俺、もしくは小夜が頑張って話題を繰り出そうにも、相槌しかお互いに出来ないという状況だ。
俺はどうしようかと頭を掻きながら腕時計を見ると、いつの間にか時間は過ぎていたらしく昼飯を食える時間になっていた。
「小夜」
「は、はいっ」
「そろそろ昼飯の時間だ。どこで食う?」
時間を確認して少し冷静になった時に小夜の慌てぶりを見ると、微笑ましくて完全に復活してしまった俺なのであった。
小夜はハッとして腕時計で時間を確認し、「そうですね…」と唇に人差し指を添えて考える。
ぷるんとした質感に見える唇と、そこに可愛く添えられている小夜に見とれてしまう。
「カフェとかいかがでしょう?」
「定番だな」
すぐに平静を装い相槌をうつ。
カフェは個人的にデートで昼食をとるのに定番だ。
定番になった理由はライトノベルの[ラブコメ]っていうジャンルを読んだ結果だから、完全に偏見ではあるんだが。
「そうかもしれませんが、私は映画をポップコーンをつまみながら観るつもりですので、ランチは少なめでいいかな…と」
「なるほど。それなら俺も同感だし、カフェで昼飯にするか」
「はい」
そうして俺たちはカフェに来た。
やはりこの雰囲気は好きだ、落ち着く。
「今回は俺が奢るわ」
カフェに入ってふと思い出した俺は、そう切り出していた。
EP60の時から夕食を共にしているため、折半用に財布を用意している。
小夜は恐らく折半用の財布で払おうとしているだろうが、今回は奢らせてもらいたい。
「え、どうしたんですか?」
「まあ…な?」
俺は折半用の財布が入っているであろうバッグを見た。
折半用の財布のお礼は出来ていないので、ここら辺で返したい。
…まあ、デートだからカッコつけたいという分かりやすい目的もある。
そこを察してかわからんが、小夜は「ふふ、そうですか。ではお言葉に甘えて」と言った。
というわけで俺の奢りだ。
席に座ってメニューを開き、店員に軽食を注文する。
ご想像通り俺は叫んだ、カフェなのに…
「映画では折半用の財布で払いますね」
「了解だ。なんなら俺が払ってもいいがな?」
「先程とは違って、それは私が申し訳立たなくなるのでやめて頂けると…」
「その言い方は俺の目的をやっぱ察してたな?」
「まあ、何となくですけど」
「ふふ」と笑ってのける小夜に少しの恐怖感と、それだけ距離が近いという優越感を感じつつ、水を飲んだ。
ここは飲み物も注文するのでコーヒーはまだ飲めない。
「さっき思ったんだが、小夜はポップコーンはキャラメルか塩、どっち派だ?」
「私はキャラメルですね」
「俺とは趣味が違うみたいだ」
「ふふ。ということは蓮さんは塩派なんですね」
軽く冗談を交えながらも、さっきの気まずさはどこへ行ったのやらという空気である。
まあ、こちらの方がいつも通りで心地いいし、やりやすい。
「まあな。キャラメルも嫌いではないが、塩の方が甘さ控えめで俺は好きだ」
「私も塩は嫌いでは無いですよ。あとでシェアしましょうね」
とんだ爆弾発言に俺は固まった…シェア…シェア……?
そしたら店員が来た。
注文した飲み物を運びに来たようだ。
俺は固まっていて応答できないので、俺を認識できていない店員を小夜が適当に誤魔化し、俺の前にコーヒー、小夜の前にオレンジジュースが置かれた。
小夜は静かにオレンジジュースをストローで吸っている。
「はっ…シェア…シェアか。ふーん、いいんじゃないか?」
「無理しないでもいいんですよ?」
戻ってきたはいいがコーヒーを持つ手が震えて居るし、顔は赤いだろう。
シェアに対して小夜の反応が薄いため、俺は睨んだ。
「なんで逆に小夜はそんな平気なんだよ…シェアだぞ?」
「実は内心結構きてますよ?意味をわかった上で言いましたゆえ動揺しなかっただけで」
「恐ろしいな…」
まあたしかに、真っ赤とは行かないまでもほんのりと頬は赤いが…
こうもまあ一方的にやられては気に食わないな…
そんな願いが叶ったのか、店員が軽食を運んできた。
またもや小夜に頼んで誤魔化してもらい、叫ばずにすんで運ばれてきた軽食は、俺がオムライス、小夜がパンケーキだ。
そこで俺は名案を思いつき、手を合わせた後に心の整理を済ませ、スプーンでオムライスを掬う。
そして持ち上げたスプーンを小夜に差し出した。
「「あ〜…!?!?」」
ここで驚きなのは、俺が決死の思いでやろうとした[あーん]を小夜もしようとしていたらしく、パンケーキをフォークで刺してこちらに差し出してきたことだ。
お互い前かがみになっているため顔が近いし、奇跡的にお互いの口にスプーンとフォークがダイブしたため、なんとも恥ずかしい格好になっている。
目の前の小夜がみるみるウチに顔が真っ赤になり、スプーンを引っ込めて顔を逸らした。
俺はというと、小夜と違って完全にフリーズしていた。
その後、またもやお互い顔が真っ赤になってカフェに出たのは言うまでもないことだった。
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