第二章

姫様との新学期

EP56.新学期も姫と一緒に

 今日から新学期だ。

 小鳥は囀り、桜も舞い、暖かな春の風が吹いている。


「なんか見覚えのない名前がちょくちょくあるなあ…」


 そんな中、俺こと江波戸蓮えばとれんは、新たなクラスの書かれた紙を見てそんな独り言を呟いていた。

 …まあ、どうせ誰にも聞こえないだろうけど。


 で、余談だが見覚えのない名前があるのは多分特待生が入れ替わったからだと思う。

 一定点数以上の通常生徒は特待生へと上がり、逆に一定点数未満をとった特待生は通常生徒へ。


 まあ今思い出したんだが、うちのクラスたまに赤点取り出した奴いたしな…特待生とは一体。

 ちなみに俺はもちろん残ってた、仮にでも学年末一位だったし。


 二クラスの中から名前を見つけて、他の生徒の名前は見ずに足早にクラスへ向かった。

 どうせ、そんなに人と関わらなさそうだと思ったからな。







 黒板に貼られていた席を確認したら、まさかの窓際一番後ろだった。

 俺この席以外行けないんじゃね?さすがに担任変わるらしいから、席替え方法も変わるだろうけど…


 席に着席して、眠くもないし本を読もうと、読んでいる途中の本を取り出す。

 すると、横から声をかけられた。


「来たな?蓮。今年は一緒のクラスらしいな、よろしく」


 聞き覚えのある声に振り向くと、学園の「魔王」こと黒神零くろかみれいだった。

 こいつは気配だけなら俺を察知できるらしいから、俺が来たことが分かったんだろうな。


 気配だけわかるなら少し声を大きくしただけで分かるか…?あまり叫びたくはないし。


「お〜っす」


 いつもより少し大きめの声で零に挨拶をする。

 まあ試しただけだし、さすがに気づかないか?


「おっと。僕はこれくらいの声でも認識できるようになったらしいな」

「お、見えるのか。おはよう零、今年はよろしく頼むわ…で、なんで隣に座ってんだ?」

「なんでって…ここが僕の席だからに決まってるじゃないか」


 いや、姫様の次は魔王様かよ。


 …そういえば、学園の「姫」こと白河小夜しらかわさよはどこいったんだ?

 まさか別のクラスか…はあ、恋心を覚えちまった途端にこれかよ。


「おはようございます。江波戸さん、黒神さん」

「うおっ」


 急に後ろから声をかけられた。

 聞き覚えのある声に、心臓が高鳴るのがわかる。


 振り返ると、小夜がこちらを見て微笑んでいた。


「おはよう白河。今年は一緒のクラスらしいな」

「そうですね、よろしくお願いします」

「あ、クラス同じなの?」

「そうですよ?」


 ガッカリして損したけど、嬉しい気持ちはやはりある。

 表に出すつもりはないが、二年連続で好きな女と同じクラスだしな。

 …まあ二分の一の確率だけど。


「そうなのか。今年もよろしく頼むわ」

「ええ、よろしくお願いします。楽しい一年になりそうですね」

「そうだな」


 そうやって挨拶を交わしていると、新たな担任が教室に入ってきた。


「みんなおはよう。今日からこのクラスを担当する○○だ。よろしく」


 入ってきたのは若い男の先生だった。

 ふむ、やる気がありそうで期待できるかもな?


「早速だが、ホームルームを開始する。まずは自己紹介をしよう。顔触れが変わったらしいし、先生はみんなの名前をまだ覚えきれていないからな」


 イケメンスマイルを撒き散らす先生。

 いい笑顔だ、数人の女は心を奪われただろうな。


 さて、自己紹介か…ここは一位の威厳というのを見せておこうかね。

 まあほとんど気分とノリ、そして勢いでやるんだがな。


 そんな事を考えながら前のやつらの自己紹介を聴き逃していたら、早くも俺の番がやってきたらしい。


「なんだ?えーっと…江波戸は休みなのか?」


 いやさっそくかよ先生。


「いますよ先生!」

「おぉっ…と、いたのか。すまない、俺も歳だ。少し目が悪くなったかもしれない」


 いや結構歳いってんのかよ。

 思いっきり20後半とか思ってたんだけど。


「じゃあ江波戸。名前、趣味を頼むぞ」

「わかりました。てことで、俺が江波戸蓮だ。趣味は最近だと料理や読書。今年一年よろしく頼む」

「ああ…と、江波戸。学年末考査は一位だったらしいな。凄いじゃないか」


 …え?まだ終わらないのか?

 教師の言葉を聞いた瞬間、教室がざわめき始めた。

 耳をすまして、ざわめきの内容を聞いてみると…


「マジか!あの姫様を!?」

「あんなやつ、初めて見たぞ…?」

「あやつが姫様を…身の程をわきまえないやつめ。はなはだ図々しい…」


 んー、やっぱり俺のことは知られてなかったらしいな。

 あと最後のやつ、学年末の結果出た時もそうだけど、なんでまたどっかの漫画のラスボスみたいになってんだよ。


「ありがとうございます。今年も頑張っていこうと思います」

「ああ、頑張れよ」

「はい」


 やっと着席できたな…

 自己紹介だけでどっと疲れたわ。


「はは、大注目じゃないか。蓮」

「嬉しくない誤算だな。ホームルームが終わったらとりあえず逃げとくか…」


 俺が遠い目をしていると、零はずっと笑っていた。

 少しくらい同情してもくれても良いんじゃないのか?


 そんな零を無視して、まだ席を把握していない小夜を探してみると…一番前のド真ん中の席にいた。

 そんな小夜もこちらに向いていたため、視線が合った。

 すると小夜は、にこりと微笑んでくれた。


 心臓が高鳴るのを感じ、照れ隠しのため手を挙げて会釈だけして目を逸らしておいた。






 暫く自己紹介は続いた。

 少し気になったこととすれば、零と小夜が自己紹介の時だけ歓声があがっていたことだ。

 やはり人気者は反応が全く違うな。


 というわけで、ようやく最後の人の番になった。

 立ち上がったのは、茶髪の爽やかな雰囲気のあるイケメン。


 …そいつが立ち上がった途端、多数の女から歓声があがったんだが…ん?ちょっとまて、あいつはたしか…


若林勇翔わかばやしゆうとです。趣味はスポーツ全般、よろしくお願いします」


 …こいつも一緒のクラスだったか。

 勇翔は学園の「勇者」と呼ばれていて、魔王こと零と同じくらいの人気度を誇るイケメンだ。


 勉強はTOP20くらいと並々だが、そいつが人気な理由は人当たりの良さとスポーツの天才だということ。

 足の速さなど単純な運動なら零の方が上だが、スポーツ全般のセンスが天才的で部活にも引っ張りだこらしい。

 それに加えてかなり人当たりがよい明るい性格だから、人気なのは納得だが…


 実を言うと、小夜が虐められた原因を作った人物でもある。

 実際には間接的にだが、それだとしても俺は好きなやつが虐められた原因になったのは違いないので、少し苦手な相手になる。




 …はあ、それはそうとて、姫様、魔王様、おまけに勇者様が揃っているこのクラス…かなり騒がしくなりそうだな…まあ、少しは楽しそうだ。

 俺はため息を吐きながらも、今後の生活が少し楽しみになってきていた。

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