EP55.姫と新学期に向けて
「…悪かったな。情けないとこを見せて」
俺こと
しかしながら、仮にも女の小夜に泣きつくのは全くもって情けない…
しかし、羞恥と屈辱は消えて少し楽な気分ではあった。
昔のことも、大半はどうでも良くなった。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それにしても可愛らしかったです」
「なっ…」
くっ!別の意味で屈辱を感じることになろうとは…
ここは話を逸らしたい俺は、舌打ちしながらももう始まる新学期について切り出す。
「…はあ、もう二年生だと思うと、時の流れが早く感じるな」
「おっと、無理矢理逸らしましたね?でも、そうですね。蓮さんと会ってもう7ヶ月と思うと、確かに時の流れが早く感じます」
…………なあ、こいつは俺をどうしたいんだ?
最初核心突いてくるし、例えがなんとも言えないむず痒さを感じるものだし。
…ん?そういえば7ヶ月前と言うと…
「小夜、少しいいか?」
「なんですか?蓮さん」
「7ヶ月前なんだが、なんであんな所で突っ立ってたんだ?それも傘もささずに」
よくよく考えたらずっと気になってなかった俺も俺だけどな。
あーでも、重い事情ならそんなに深く聞く必要は無いか…しくったな。
「あれですか?あそこで女子生徒の方にいじめられた後だったのですよ」
「お、おう。それは災難だったな」
やっぱり聞いたことに後悔してしまったよ…
というか、なんでそんな軽く流してるんだ?結構重要じゃないか?
「まあ、たしかに災難だったかもですね。傘を奪われ、暴力振るわれ…最終的には立つことが精一杯の状態でした…」
「もういいから…!無理に思い出さなくていいから!」
聞いてるこっちが辛くなってくるわ!
姫も大変だな…
そう思ってたんだが、小夜は言葉を止めなかった。
「でも、立つことに精一杯でどうしようかと少し放心状態だった私に、蓮さんがあの傘を渡してくれたのですよ」
「お、おう。そうなのか…」
「ええ、それで蓮さんと出会えたのですし、私としてはとても良かったと思っています」
良くはなかったんじゃないのか…と思わなくもない。
平穏と出会いのどっちが大切かって問われたとしたら、俺は平穏を選ぶ。
それも俺みたいなやつと出会いって…ねえ?
「それに、その虐めを止めてくださったのは蓮さん。あなたなのですよ?」
「うん?」
「あれからも私、数日連続で虐められていたんですよね」
「ええ…」
俺は絶句した。
え、なにその地獄…俺だったら多分耐えられないと思う。
よく頑張ったなこいつ。
「まあ、それだけ私に告白してきた男性が人気だったからでしょうけど…」
「そうなのか。ちなみに告白してきたやつの名前は?」
「若林さんですね」
「あ〜いたな、そんなやつ」
さすがにその名前は知っている、本名は
かなりのイケメンで、魔王様と同等レベルで女子に人気らしい。
あだ名は「勇者」、理由はスポーツの天才なのと勇翔という名前から…らしいが、まあ話したこともないやつだし別にいいか。
てかうちの学校、人気なやつにあだ名付けんの好きすぎね?
「蓮さん、あの日を覚えていますか?」
「うん?」
そういえば、俺が助けたとか何とか…そんなことした覚えは…ん?ちょっと待って、あー。
「…あれか、看病してくれた二日後の月曜日」
「鮮明に日付を覚えすぎでは…?」
詳しくはEP4をチェックだ。
「ま、まあそれです。あれから虐めが止まったので本当に感謝してるんですよ?」
「それは素直にどういたしまして。本当に偶然だがな」
「ふふ」
上機嫌に笑う小夜。
俺は一瞬その笑顔に見とれてしまっていたが、直ぐに頭を振って気持ちを切り替える。
「それはそうと…さっきの話、新学期が始まるが、新学期の抱負は何かあるのか?」
「そこは新年でなく?」
「いいだろ別に」
細かいことは気にするな、と言われたことは無いのだろうかね。
「そうですね…」と唇に指を当てて考える小夜。
考えついたのか、両手を合わせてこちらを向いて微笑んだ。
「蓮さんともっと仲良くなる事ですかね」
「お、おう…そんなのでいいのか?学業とかは?」
「それも大事ですけど、私って友情関係に乏しいので、今年はそれを頑張りたいところです」
「そういうことな」
一瞬ビックリしたじゃねえか…
小夜は微笑みを崩さず、「はい」と言った。
「そういう蓮さんの新学期の抱負はというと?」
「俺か?そうだな〜」
正直これまでなんのやる気もなく生活してきたんだが…今となっては少し違ってくるし、何かに努力するのもいいかもしれないな。
何かに頑張ろうとしてる自分に多少驚きつつも…少し変わった答えが頭に思い浮かんだ。
「平穏な日常で暮らすことだな」
「いつも通りでは?」
「いつも通りがいいんだよ」
努力するのもいいかもといいながら日常を求める俺…まあでも、日常は崩れないことが一番だからな。
「あの、その日常って私も入っているんでしょうか?」
一瞬、心臓が跳ねた。
どうなんだろうか…かれこれ会って7ヶ月、少しずつ日常に小夜が馴染んだ気がしなくもなくも…
「…入ってるんじゃないのか…?わからないが…」
「それなら良かったです」
安堵したような、それでいて満面の笑みをする小夜。
…なぜだ?先程から心臓の音がうるさい気がするんだが…
「では、新学期もよろしくお願いしますね?蓮さん?」
「お、おう…」
…はあ、さてさて、新学期も姫様と関わっていくことが確定してしまったんだが…
…不思議と嫌な気分ではない、それは何故か。
もちろん自分ではわかっている。
…''小夜に恋をしてしまった''かもしれないからだ。
…しかし俺は、この気持ちをしばらく表に出すつもりはあまり無かった。
〜第一章 fin〜
【後書き】
どうも、さーどです。
これにて第一章は終わりとなります。
明日からは、第二章を平日4本日、日・祝6本で登校していき、な〇うに追いつき次第同時投稿をしていこうと思っております。
これからも「ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける」をよろしくお願いします。
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