EP57.下校は姫と二人で

 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。

 ホームルーム後の始業式を終えて、早めの下校時間となった。

 まあ、教室の皆は休み明けに学力テストがあるからと項垂れていたが…ここ進学校だよな?


 帰りの│SHR《ショートホームルーム》を終えた後。

 俺は姫こと白河小夜しらかわさよを信仰?してるらしい集団から逃げようと構えたが、見失ったようで無駄に終わった。

 なので春の暖かな風を感じながら睡魔と戦っていたのだが…


「江波戸さん」


 小夜が声を掛けてきた。

 先程まで男共に話しかけられていたようだったが、どうやら退けたらしい。


「どうした?」

「一緒に帰りませんか?」


 新学期早々か。

 まあしかし、今の俺なら願ってもないことだ。


「いいぞ」

「えっあ、はい。ありがとうございます」

「ん?」


 小夜の反応が少しおかしかった。

 最初に声が裏返っていたし、目は丸くなっている。


「俺の顔に髪の毛でもくっついてたか?」

「朝はくっついてましたね」


 軽くボケたつもりなんだが、よく見てんな〜こいつ。

 朝シャンしたら時間がなくなって髪を乾かせなかった俺の悲しい朝である。


「で、どうした?」

「あ、いえ。素直に承諾されるとは思ってもみなかったので、驚いてしまいました」

「まあ、少しな」


 小夜に対しての気持ちを表に出すつもりは今はない。

 そんな小夜に恋愛的好意を抱いているから、嬉しくて断れなかった…だなんて口が裂けても言えるわけがない。

 というか言ったとしても、今の小夜を見てると脈があるようには見えにくい…と思う。


 だから俺は言葉をはぐらかした。

 小夜は地味に心を読んでくる節があるので、多少視線を逸らすのもわすれずに。


「そうですか。ではさっそく行きましょうか」

「そうだな」


 机の中に入れていた本をカバンにしまい、立ち上がって小夜に近寄る。

 そして小夜に手を差し出した。


「カバン貸せ、持つ」

「え?いいですよ?別に」

「いいから貸せ」


 不機嫌気味に促す。

 …なんか、俺じゃないみたいだな、うん。


 …ん?…何故だ?小夜がやけにニヤニヤしているんだが…


「…なんだよ」

「いえ。では、お言葉に甘えて。お願いします」

「おう」


 ふん、と鼻をならし、小夜を置いて歩きだそうとすると、こちらに誰かが近づいてきた。

 そいつを横目に見ると、俺は「げっ」と頬を引き攣らせた。


「白河さん」


 若林勇翔わかばやしゆうとだった。

 爽やかイケメンオーラを振りまきながら、小夜に近づいてきやがった…


「若林さん、こんにちは。どうかしましたか?」

「うん。今年は一緒のクラスなんだなって。嬉しいよ、よろしくね」

「そうですか。よろしくお願いします」


 …言動からして思ったんだが、まだ小夜のこと狙ってんのか?こいつは。

 小夜にあんな事しておいてのうのうと…おっとあぶねえ、危うくヒートアップするところだった。

 一応こいつ自身は何もしていない。


 心を落ち着かせ小夜を見ると、いつものように微笑んではいるが、いつもより少し表情が硬そうに見えた。


 やはり勇翔に対して余り良い印象ではなさそうだな…

 こいつの態度や視線は忠実だが…間接的前科がな。


「勇翔」


 小夜に同情していたら、聞き覚えのある男の声が響く。

 魔王様こと黒神零くろかみれいだ。


「あ、零。今年もよろしくね」

「ああ、よろしく。また仲良くして貰えると助かる」

「こっちこそだよ」


 零と勇翔はかなり親しい仲らしい、去年同じクラスだったからってのもありそうだがな。


「ところで勇翔。少し用事があるんだが…いいか?」

「うん、いいよ。どうしたの?」

「ここではなんだし、少し席をはずしたい」

「わかった。それじゃあね、白河さん」

「ええ、また」


 零と勇翔は教室から出た、そんなに大事な話なんだろうかね。


 しかし、失礼ではあるが勇翔が退場したのは助った。

 胸をなでおろしていると、太ももあたりで振動が走る…チャットアプリの通知だった。


:ZERO:←零

【勇翔が話しかけた途端、白河が表情を固くしていた気がしたから連れていったんだが、良かったか?】


 あいつよく見てるな。

 まあ、かなり良い事をしてくれたの事実だ。


:くされん:←蓮

【おう。助かった】

:ZERO:

【そうか、何があったかは聞かないでおこう。その代わり、貸しひとつな】


 現金なやつだな、おい。

 仕方ねえから承諾の返信を送っておいた。


「大丈夫か?」

「ええ…すみません」

「んや、仕方ないだろ」

「ありがとうございます。行きましょうか」

「おう」


 そう言って、俺と小夜は二人で教室を後にした。








「先程は言えていませんでしたが、また蓮さんと同じクラスになれて嬉しいですよ」


 学校を出て、俺らは帰路を辿っていた。

 一言目からむず痒くなる言葉を言われ、俺は視線を逸らしながら「そうかよ」としか言えなかった。

 自分でも思う、なんとも情けないな、おい。


「ふふ。今年もよろしくお願いしますね?」

「おう。姫様に魔王様…そして勇者様と、メンツが凄くて騒がしくなりそうだ。気が重いな」


 勇者様は少し弱めの声で言った。

 小夜の方は気にせずに笑っていた、それで少し安堵する俺はやはり変わったのかもしれない。


「そうですね。私含め、学年で有名な四人のうち三人はこちらなのですしね。比較的話す女子生徒の方に聞いたのですが、羨ましいらしいですよ」


 言ってなかったな、俺の学年では目を惹かれるハイスペックな美男美女が四人いる。

 その四人の通称は「RPG四聖人」だ…いや分かる、ダサいと俺も思う。

 けどな?俺がつけたわけではないんだよ。


 その四聖人は全員特待クラスであり、それぞれのあだ名は姫様と魔王様、勇者様…そして、魔女様。

 まあ、魔女様と話すことはなさそうだけどな〜…体質的にも、性格的にも。


 で、女共がうちのクラス羨ましがってたんだっけ?


「まあ、男の方はどっちもこっちだしな」

「そうですね。私とは無縁の話だと思いますが」

「勇者様にはともかく、魔王様には全く興味が無いのか?」


 EP35で中学一緒と言ってたし、そこそこ仲が良さそうだと思ってたんだが


「昔から黒神さんはほとんどライバル的立ち位置でしたので、興味が無いといえば嘘にはなりますが…色恋話という話では全く興味は無いですね」

「そうなのか」


 まあ、零は零で反応的に姫様に恋愛感情はなさそうだけどな。

 というか、小夜に恋愛自体、興味がないんじゃないかね…ちょっとショックだ。


「いえ、私も恋愛に関しては人並みに興味はありますよ?」

「いや、心読むなよ」


 こええよやっぱ…ショックなとこも読まれたら俺生きていけないわ。

 小夜は「ふふ」と笑ってはいるが…冗談抜きで読まれないようにしないとな。


 恐ろしく震えてしまったが、その後も普通に楽しく談笑しながら、俺らは家路を辿ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る