EP53.姫への贈り物
俺だ…
なんか「…」つけて自己紹介って新鮮だな。
そんな事はどうでもいい、今日は
しかしな…何故か小夜の母親らしい
急な事で困り果てている俺に、小朝さんは容赦なく言葉を投げかけてきた。
「江波戸くんと小夜ってどんな関係なの?」
「俺と小夜は普通に友達ですね」
「付き合ってるのよね?」
「付き合ってませんよ?」
「あらまホント?偉く仲が良さそうなのにねえ…」
「それは分かりませんけども」
このダルい質問の嵐を流さずにしっかりと答えている俺を誰か褒めて欲しい。
小朝さんはさっきから目を輝かせ口角がつり上がっている。
しかし俺の方は、頬が引き攣ってるのは言うまでもないな。
「お母さん!蓮さんが困ってますよ!」
「あらあらごめんなさいねえ?小夜ったら嫉妬しちゃって…」
「お母さん!?違いますよ!?」
「ふふ、これからも小夜をよろしくね?江波戸くん」
「あ、はい」
何故か俺に淹れさせた紅茶を飲んで、上品に笑う小朝さん。
姉貴も割と似たようなタイプだが…流石にこんなにしつこくないので、どうにも慣れないものだな。
「はあ…ごめんなさい蓮さん。あとでお父さんに手綱を握らせておくよう連絡しておきます…」
「…おう、頼んだぞ。本当に」
「ええ!」
俺たちは握手した、同じ敵がいると仲が深まるものだと思う。
二人で小朝さんを睨むが、問題の小朝さんは更に口角をあげていらっしゃる…なんでだ?
「手を繋ぐなんてまあ…大胆なことをするのねえ」
「知っていますか?この形の握手は基本的に団結や友達としての絆を示すものであり、恋愛感情は全くと言っていいほどないのですよ?」
「あらあら、うふふ」
なぜ笑ったんだ…?
それはそうと、俺の謎の説得は失敗に終わったらしい、くそっ。
「蓮さん、その説明はお母さんには逆効果かと…」
「なんでだ?」
そんな馬鹿な…理屈を言っても納得しないというのか…
いやまあ、たしかに失敗してるから反論が出来ないのは悲しいところではあるな、うん。
「団結や友達の絆って言葉ですが、先程言っていた通り私は昔も友達がいなかったので、それも加味してお母さんには効かず、寧ろ元気になってしまいます」
理由はわかったんだがな、小夜。
それ自分で言ってて悲しくないのか…?
気持ちは分かってしまう俺は、とりあえず「すまん…それとドンマイ」と言っておいた。
で、さすがにそろそろここから脱出したい。
「でも、そろそろ遅いので俺は帰りますね。ケーキも頂いちゃいましたし」
「あら?もっと居てくれても大丈夫なのよ?」
「いえ、遠慮しときます」
正直、こんな地獄は早めに抜けるに限る。
俺は立ち上がったと同時に小夜が着いてくるようにと小突く。
小夜は額を軽くおさえながらも頷き「では送っていきます」と小朝さんに言った。
そして俺たちは玄関へ向かった、脱出成功だ。
「すみません、お母さんが誕生日なので部屋に来てしまいまして…」
「んや、大丈夫だ。それより、誕生日おめでとさん。ほれ」
ずっと持っていた紙袋を差し出す。
小朝さんにこれを追求されなかったのは正直幸運だったと思う、小さめの紙袋だったのも幸いか?
小夜は目を丸くさせながら、紙袋を受け取った。
「私の誕生日、知ってたんですね…」
「チャットアプリに登録されてたからな。画像を編集して投稿欄にカードも送ったし、数日前にこれを用意した」
「あ、ありがとうございます…」
たまたま見つけたものだが、小夜は顔を赤くさせて頬が緩んでいる。
俺の誕生日も祝ってもらったんだ、これくらいは…な?
「開けてもいいですか?」
「ご自由にどうぞ?」
小夜が紙袋の中に手を入れて、俺が渡したプレゼントを取り出した。
中から出てきたのは、手のひらサイズの小さい箱が二つ。
「…ネックレス…とブレスレットですか?」
表面が透明になっている箱だから、中身が見えている。
その中身は、小夜が言った通りのもの。
クリーム色のネックレスに、シルバーのブレスレットなんだが…さすがに烏滸がましかったか?少し心配だったりはしてる。
こういうのを貰うのは、親しい関係でないと少し気まずいからだ。
「…不味かったか?ネックレスとブレスレットなんて」
「い、いえ。嬉しいです…しかし、ホワイトデーを貰ったばかりなのに…」
「ホワイトデーと誕生日は別だ。当たり前だろ?」
たしかに3週間後って結構近いけど、気にしないでもらいたいものだ
小夜はマジマジとプレゼントを見ていたんだが、やがて顔を上げた。
「ありがとうございますっ。嬉しいです!」
その時の満面の笑顔には、さすがの俺も少し仰け反った。
今まで笑顔は見てきたが、ここまで年相応の可愛さと、容姿による美しさが同時に出てきたのは初めてだった。
…何を思ってるのか自分でも疑ってしまうが、頬を描いて俺は「おう…」と返しておいた。
「それじゃあな」
「ええ。また明日」
大変上機嫌なようで、頬が緩みっぱなしな小夜。
しかし俺は、それ以上それを直視することはできなかったのだった。
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