EP45.姫が聞く過去の話ver.1

 ホワイトデーから一週間後、春休みに入って次の日の土曜の事だ。


 俺こと江波戸蓮えばとれんは、今日来ると言っていた双子の姉、江波戸凛えばとりんのお迎えをするために、マンションのロビーに来ていた。

 しばらくすると、凛がやってきた。


 俺と凛は無言の挨拶を交わす。

 凛の横を見ると、凛より少し背が低めの少女の姿がある。


 その少女は、もうすぐ中学生になるくらいの歳にしては高い身長で、俺らと同じ黒髪をお下げにしている。

 顔は年相応の童顔で、小さく、優しい雰囲気のタレ目がメガネの奥から見えてくる。

 紹介しよう、俺ら双子の可愛い妹、江波戸瑠愛えばとるあだ。


 瑠愛は初めて・・・来るこのマンションのロビーを見渡し、興味深そうな顔で凛に視線を向けた。


「姉さん、ここはどこなの?」

「ん〜?まあ慌てなさんなって。もうすぐ分かるから、ね?」

「…うん。わかった」


 瑠愛が頷いたと同時に、俺と凛はスマホをつつき始めた。

 画面に出てるのは、俺と凛のトークルームだ。

 …先に行っておくが、瑠愛は俺の事を見えていない・・・・・・

 結構重い事情があるが、まあ後で話すことにはなるはずだ。


:草連:

【晩飯はもうできてる。瑠愛の好きなハンバーグだが、これでいいよな?】

:ふたりん:

【うん。ありがと】


 OK…で、俺は少し悩みがあるが…どうしようか。

 悩みというのは、白河小夜しらかわさよの事だ、こいつがいたら割とややこしいが…


:ふたりん:

【どしたの。少し悩ましげだけど】

:草連:

【いや、小夜に妹が居ることを話したんだが、あいつ結構興味津々でな…あいつの対処どうしようかって】

:ふたりん:

【そなの?別に居てもらってもあたしは構わないよ?】

:草連:

【なら、対処任すわ】

:ふたりん:

【りょーかい】


「姉さん、さっきから携帯ばかり見てるけど、これからどうするの?」

「友達とチャットしてたのよ。それでね、これからあたしの友達と会って、瑠愛に少し話したいことがあるの。だから、今からその友達の部屋に行こっか」

「わかった」


 正しく言ったら俺の部屋ではあるけどな…

 まあ簡単にまとめるならこうするのが一番だし、ツッコまないが。


 俺は、小夜に妹が来たことを連絡した。

 多少話しずらい事情の軽い説明と、守って欲しい事をチャットアプリで送った。


 俺は、凛にマンション内エレベーターに来るように手招きをする。

 頷いた凛は瑠愛を連れて、俺に付いて来て一緒にエレベーターに乗る。


 俺の部屋がある階に登って、廊下を歩く。

 右に曲がると、俺の部屋の前に小夜がいた。

 俺は軽く手をあげて挨拶をしておく。


「やっほ〜小夜ちゃん!」

「こんばんは、凛さん」

「この子前に言ってた妹!名前は瑠愛。瑠愛、この子があたしの友達の小夜ちゃん」

「こんばんは、瑠愛さん」

「こんばんは」


 瑠愛が挨拶を返す、いい子だ…

 おっとすまん、取り乱した。


 俺は合図して小夜にドアを開けていいように許可をする。

 すると小夜はドアを開けて「どうぞ」と凛と瑠愛を招いた。

 今思ったんだが、ハンバーグ余分に作っといてよかったわ。


 俺たちは部屋に入り、ダイニングテーブルを囲んで座る、凛&瑠愛::小夜&俺という分け方だ。


「瑠愛、これから大事な話があるの」


 凛が口を開き、空気が一気に緊張の色になる。

 瑠愛は困惑している様子だが、頷いた。


「…瑠愛、実は貴方にはお兄ちゃんがいるの」

「…え…?おにい…ちゃん?」

「うん、そう。あたしの双子の弟」

「…初めて知った」


 そう、瑠愛にはずっと俺の事を隠していた。

 瑠愛はかなり驚いているようで、疑心暗鬼の様子だ。


「…その兄さんは今、どこにいるの?」

「実はね、もうここにいるの」

「え?」


 凛がアイコンタクトで俺に合図をする。

 俺は頷き、息を吸い込んだ。


「瑠愛!」


 俺は叫んだ、瑠愛の前で初めての行動だ。

 瑠愛はピクンと体を震わせた、俺に気づいたようだ。


「え、えっ…?」

「…瑠愛、初めましてだな。俺は江波戸蓮、凛の弟であり、君の兄だ」

「え…?」


 初めての兄との出会いに、瑠愛は混乱している。

 それも当然だと思う。


「瑠愛、中学生になるあなたにはそろそろ話す頃だと思ったの。聞く覚悟を決めて欲しい」

「えっと…う、うん。わかった」


 瑠愛は深呼吸をして、聞き耳を立てたようだ。

 俺と凛は頷き、俺から口を開いた。


「俺はな、影がすごく薄くて、父さんや母さんからほぼ勘当と同じような状態にさせられてたんだ」

「蓮を見つけれたのは、あたしと従兄弟のお兄ちゃんだけだったの」


 瑠愛の目が見開く。

 小夜にもこの情報は話してないので、同じく目を見開いていた。


「瑠愛が物心着いた時には既にその状態だった。で、両親からほぼ勘当されてる状態を瑠愛に見せるのはダメだと、俺と凛は決めたんだ」

「あたしは猛反対だったんだけど、蓮が言うことを聞いてくれなかったの…」


 「その件はすまんかった」と俺は謝る。

 凛には色々サポートしてもらっていたし、俺のメンタルケアも全て凛がこなしていた。

 本当に凛には感謝しっぱなしだ、距離感が近すぎるのが少し悩ましいところだが。


「だから、俺はリビングの端で生活していた。瑠愛の生活に支障がでないようにしていたんだ」

「時々、晩御飯はお兄ちゃんが作ってくれてた頃もあったのよ?」


 「え…?そうなの?」と瑠愛は目を丸くする。

 

「そうだ。瑠愛が好きなハンバーグはだいたい俺だったかな?」

「…なんで?」

「ん?」


 気づいたら、瑠愛の目には涙が溜まっていた。

 俺と凛はその様子に慌てるが、瑠愛は身体を震わせ、顔を赤くさせている。

 …どうやら怒っているらしい。


「…なんで兄さんがそんな辛いことになってたの?」

「………」

「私は、もっと早く兄さんと会いたかった。家族として、いっぱい話しかった」


 瑠愛は涙を滝のように流していた。

 ああ…やっぱりとてもいい子だ…


「…すまん。俺の自己満足だ」

「…兄さんのバカ…」

「………」


 嫌われたかなあ、これ。

 ははっ…一応初対面の妹に嫌われるとか、結構来るなあ…


 そう思っていると、「でも」と瑠愛は呟く。


「これから、もっと話そう?家族として、これまでの空白の時間を埋めるように」


 今度は俺が目を丸くさせていた。

 前はさっきからよく見えていない、瑠愛の顔も視界がブレてよく見えない。

 が、聴覚はしっかり仕事をしていたみたいで、俺はその言葉を心に刻み、強く頷いた。


「これからよろしく。兄さん」

「ああ…よろしく、瑠愛」


 涙を拭ってみると、テーブルに座っていた全員、涙を流していた。

 何故かは分からないが、その中で一番頬を濡らしていたのは、俺だということは言うまでもなかった。

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