EP34.姫の元に現れる魔王様
「またかよ……」
俺だ、
唐突だが、俺の通っている学校では、長期休み明けになるとテストが行われるんだ。
仮にも進学校のため、冬休みの課題の内容を覚えてるかの確認らしい。
始業式の次の日に一日かけてテストに取り組み、そして今日は順位を張り出される。
俺はこの冬休み、
手応えもかなりのものだったから、俺は期待して順位表を見にきたのだが……
一年生フロアの中央に張り出されたその内容に、俺は頭を抱えていた。
【一位:江波戸 蓮 498】
【一位:白河 小夜 498】
どうして二学期期末考査の時と結果が同じになっているんだ……!?
大量の疑問符に襲われ、俺は一人虚しく舌打ちをしてしまっていた。
「白河さんすごいよね〜」
「ね、毎度一位だもんね」
……というか、周りの反応も少しはかりおかしいと思うのだが。
周りから聞こえるのは、入学当初から一位を譲らない小夜の賞賛ばかりだった。
俺の賞賛?そんなの一つも聞こえねえし、それどころかもっと酷い声が聞こえてくる。
「黒神くんも惜しかったなあ〜」
「相手が悪いよね〜……」
【三位:黒神 零 493】
小夜と同じく有名で、零も姫様と同じくあだ名が付けられている。
苗字が白河とは対象の色である黒、偉大なる存在とイメージされる神。
それに因んで、黒神零は[学園の「魔王」]と呼ばれ敬われている。
ちなみにあだ名が何故小夜に関係しているのかと言うと、単純に有名になった早さだ。
小夜とは少し劣るものの、零も同じようなステータスなためこうなっている。
完璧超人が多い学校ではあるが、かなり高い偏差値の進学校だし別に驚くことはない。
ただ、何故いつも三位の零が賞賛されて、一位になった俺が賞賛されないんだ……
「あっ、黒神くん!」
「今回もすごい点数だったね!」
はあ……御本人が登場したらしく、主に女子からチヤホヤとされていやがる。
敗北者である俺は更に気分を落とし、その場を去ったのだった。
「──いや、白河と江波戸には勝てていない。今回
「姫様は手強いよねえ〜」
「うんうん。でも、いつか超えられるよ!」
その日の放課後。
俺はさっさと帰ろうと鞄を持ったのだが、どうやら廊下が騒がしかった。
聞こえる限りによると、とても意外な客がこのクラスに来ているらしい。
そいつの名は……黒神零、その人だった。
零は群れる女群を掻き分けつつ、教室へと入ってこちらに近づいてくる。
何故近づいてくるのかは分からないが、それにより、その容姿がはっきりと見える。
過剰ではない長身、さらさらで真っ黒な髪の毛に、メガネから覗く鋭い灰青の瞳。
その仕草はとてもクールで決まっており、言うなればオーラが違う。
少しずつ鼻腔を
そんな零は、俺の隣席で帰りの支度をしていた白河小夜に表情を変えずに話しかけた。
「白河、少しいいか?」
知的な口調の低い声が淡々とその口から発すると、女共から歓声が上がる。
恐らく、零と小夜は恋人関係であるとかの噂をたまに耳にするからそれだろう。
……いつもの小夜を見る限り、それはありえないとは思うがな、うん。
「はい。何でしょうか、黒神さん」
俺としては少し違和感がある微笑みを浮かべ、小夜が零に向き直った。
EP2に初めて話した時も、小夜はこの表情をしていたような気がする。
EP15でもそうだし、察するにこれは表向きの表情なのだろう。
そんな小夜の表情を見ても零は表情を崩さず、周りを見渡しながら尋ねる。
「江波戸蓮を知らないか?探しているんだ。たしか、このクラスだっただろう」
……は?
質問されているのは小夜のはずなのに、隣にいる俺が首を傾げてしまった。
俺の存在を知っているのも謎だし、そもそもなぜクラスも知っているんだ?
聞き耳を立てていた女共も、俺の名前を聞いて「誰?」って言っている。
当然の反応だろう……先生にすら存在を忘れられているからな、俺は。
「江波戸さん、呼ばれていますよ」
小夜はそんな俺の方に振り返り、零とは別の微笑みを浮かべてくる。
零は小夜の言葉を聞いて、微かに目を見開きながらこっちに視線を向けた。
「……白河、今確かに彼の名前を呼んだよな?どこにも見当たらないんだが……」
しかし、零はすぐに小夜へと視線を戻して首を傾げながら尋ねる。
存在はしられているようだが、どうやら見えてはいないらしかった。
「ちょっと待ってくださいね」
そんな零に小夜はそう断りを入れて、席を立ちこちらに近づいてくる。
そして小夜は、身構える俺の肩を掴んだ。
「江波戸さん、叫んでください」
「……嫌だよ」
どうにかして零に視認させたい小夜の思惑を察し、俺は首を横に振る。
姫様と知り合っただけでも問題なのに、魔王様とまで知り合えるかよ……
「白河、そこに江波戸がいるのか?」
そんな俺と小夜の会話など露知らず、零は困惑気味に首を傾げている。
小夜は肩を掴む手の力を入れて、顔をぐっ、と近づけてきた。
「ほら、江波戸さん。叫んでください」
「いや、ちけえよ……」
目と鼻の先という程でもないが、こんな近い距離初めてだぞ……?
じゃなくて、俺は手を振りほどこうとするが、小夜の握力が強すぎてどうすることもできなかった。
首を中々上下に動かさずに抵抗する俺を見て、小夜は口角を上げる。
「(蓮さんのこと、名前で呼びますよ?それでもいいんですか?)」
「ここにいる!」
「!?」
小夜に小声でそう脅され、俺は零に向かってすぐにそう叫んだ。
もう既に名前を呼ばれたが、これ以上大きな声で呼ばれた方がキツい。
それにより、零は俺の存在にやっと気づいたようで目を見開いている。
「……えっと、君が江波戸蓮だな?今までどこにいたんだ……?」
「最初からここに居たよ……」
いつの間にか肩から手を離してすまし顔の小夜を睨んで、俺はため息を吐いた。
どうやら零とは知り合いらしいが、何故こうも面倒なことをしてくれたんだ。
そんな俺の行動で勘違いをしたのか、零は眉を下げて申し訳なさそうに言った。
「そ、そうなのか……すまない。それで、君に話があるんだが、少しばかりどうだ?」
それを聞いて、俺は無意識に小夜の方に視線を向ける。
小夜は俺に向かってにっこり笑っているだけだったが……なんか、怖いな。
「……わかったよ」
俺は観念して、立ち上がったのだった。
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