EP31.姫と姉付き初詣

「やっぱり、もう年変わってから結構経つし人は結構少ないね〜」

「……充分多いだろ」


 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。

 マンションから歩いて約10分、住宅街に紛れ込んでいる神社へと俺らは足を運んだ。


 神社は中々に大きく、参拝の列に並ぶなりりんがそうは言うが年が変わって5日も経っている割には結構人がいた。

 しかし、その中で和服を着ているのは俺ら三人だけで、少し浮いてる印象がある。


「そう?新年は賑やかじゃないとあんまり盛り上がらないと思うけどなあ」

「いや、今日何日だと思ってるんだ?それに、少ない方が並ばなくて済むし良いだろ」


 まだ三箇日気分らしい凛にため息を吐きつつ、俺は肩を竦めながらそう答える。

 新年を盛り上げたい気持ちは分からなくもないが、そうしつこくても困るものだ。


「蓮さんは、もしかして人混みが苦手だったりするのですか?」


 すると、ずっと黙っていた白河小夜しらかわさよがそんなことを尋ねてきた。

 先程のことがあり少し気まずさを感じつつも、俺は首を横に振る。


「苦手なわけじゃねえよ。ただ、煩わしくないしそっちの方が楽だとは思うな」

「なるほど。確かに、私もそう思います」


 同感してきたはいいが、それってもしかして学校での小夜の立場の話だろうか。

 小夜は立場の自覚は足らないようだが、自分が騒ぎの的なのは薄々感じてるのかもな。


「そうか」


 ……と相槌は打ったものの、そう思うとこれ以上踏み込んでいいのかわからない。


「えーっ、二人とも冷めてるなあ」


 しかし、そんな俺と小夜に頬を膨らませて文句を言ってくる姉貴が一人。

 ……正直また気まずくなりそうだから助かったけど、知らない分呑気なもんだな。


「──なあ、あの子ら可愛くね?」

「お前もそう思うか?ナンパ行く?」


 と、姉貴を半目で見ていたら、そんな声がどこからが聞こえてきた。

 そちらの方に視線を向けると、二人の男がこちらを見て何やらコソコソと話している。


 ……やはり、先程言った通り和服は俺らだけだから周りからは浮いてしまうらしい。

 それも、恐らく見えていないであろう俺を覗いた二人の女性はかなりハイスペックなルックスをしているから尚更だろう。



「……視線すげえな」

「だよね。さすが小夜ちゃん」

「お前もだよ」


 その表情、分かって言ってるな……

 姉貴の様子にこれまた俺は肩を竦めるも、そんな俺らに小夜が「ふふ」と笑う。


「視線はあれど、私は気にしませんよ」

「そだね。あたしももう慣れたかな〜」


 ……凄いな、と素直に思った。

 無さすぎるのも少し怖いが、二人みたいにありすぎるのも困るはずなんだが。


 まあ、幸いなことに二人の男は結局こちらに来ることは無かった。

 そもそも、列に並んでいるのにナンパ来られても他人に迷惑かかるしな。


 そんなこんなで参拝は俺らの番に回り、懐から五円玉をだしてそれを投げ入れる。

 パンパン、と二礼二拍手一礼を目を瞑りながら律儀にこなし、俺は一息付く。


 横を見れば二人ともまだ続く様子だったが、俺は行きたいところがあったため待たずにその場を離れたのだった。






「あの!」


 俺はおみくじが販売されているエリアに行くと、そう叫んで店員を呼んだ。

 店員は俺の存在に気がついたようで、目を丸くしつつも営業スマイルを向けてくる。


「おみくじですか?」

「はい。後からすぐ来る連れの二人もやりますので、三人分お願いします」


 あまり敬語は慣れてはいないが、まあこれで失礼はないだろう。

 店員は「わかりました」と頷き、三百円前払いすると数ある筒の中の一本を手渡してきた。


 ……よく考えると、普通って筒を振ってから番号のを貰うのに結構特殊なんだな。

 そんなことを考えて筒を振り、俺は自分の番号を確認する。


「ちょっと、置いてかないでよ!」


 すると、丁度そこで文句を言ってくる凛と苦笑している小夜がやってきた。

 一応謝罪を言っておき、俺はおみくじに使う筒を凛に手渡した。


「おみくじ?」

「ああ。金はもう払ってるから、二人ともさっさと引いてくれ」


 首を傾げる顔を逸らしながらそう言うと、二人は目を丸くする。

 直に二人共何故だか笑って、受け取った筒を一人ずつ振って数字を出した。


 再度店員に話しかけてそれぞれ番号を言うと、一枚ずつ畳まれた紙を貰う。

 それを開いて、おみくじの運勢やら文章やらを確認していった。


「わあ凶だ!やだな〜!」

「私は大吉でした。今年はなにかいいことがありそうかもしれませんね」


 それぞれ自分の運勢を吐露していくが、なんか差がすごいな。

 凛の方は涙目になりながらすらっとおみくじに目を通すと、紐状に折り始めた。


 小夜の方はそれを大事そうに折り畳んだかと思えば、俺の方に振り返ってくる。


「蓮さんはどうでしたか?」

「大吉の奴に言われると少し言いずらいな」


 そう尋ねてきてそうは返すも、どうせただのおみくじなためそれを小夜に掲げる。

 俺のおみくじには、【大凶】というとんでもない運勢が示されていた。


「これは……ドンマイ☆」


 それを見て、小夜ではなく戻ってきた凛がまず感想を述べてきた。

 別に落ち込んではいないが癪に触ったため、少し定番になりつつあるチョップを凛の頭にかましてやる。


「文章の方ですが、悪いものばっかりなのに待人だけ【来る。】って書いてますね」

「ってて……えっ、それマジ?」


 ずっとおみくじを覗き込んできた小夜がそう呟けば、凛が頭を抑えながら俺のおみくじを覗き込んでくる。

 別に見世物のつもりは無いんだがな。


 凛は俺のおみくじをしばらく凝視していたが、「んー」と首を傾げた。


「……よく分かんないけど、とりあえず大凶なんだし結んじゃえば?」

「そうする」


 別におみくじなんだから信じるつもりもないし、待人なんて期待しても無駄である。

 そう考えながら、俺は縦におみくじを折って近くの笹?みたいなやつに結んだ。


「……待人、本当に来るといいですね」


 すると小夜はしみじみとした雰囲気でそう言ってくるが、期待したところでだろ。

 そんなことを考えるも、唯一の存在感があるのは否定できはしないため俺は「そうだな」と頷いておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る