EP29.おまけ その後の姉弟
俺だ、
晩飯を食べたあと、いい頃合だったため
そして双子の姉である
その表情はとても悲しそうで、胸の中がキュッと苦しくなる感覚になってしまう。
「本当にごめんね、蓮」
申し訳なさそうに、とっくに乾いた頬を撫でながらそう言ってくる凛。
俺はふっ、と微笑んで首を横に振り、そんな凛の頭に手のひらを乗せた。
「大丈夫だ。そんなに気にするなよ」
「でも……」
口篭る凛を諭すように優しく頭を撫でると、凛は段々と頬を緩ませていく。
暫くぶりに会うが、やはり昔からこれをされるのが好きなのは変わらないようだ。
最後に頭をぽん、と優しく叩いた頃には、凛の表情から哀愁の気配は消えていた。
それを見た俺は胸を撫で下ろす。
すると凛は、小夜が出ていった玄関を一瞥して、頬を緩ませる。
「それにしても、いい子だね。小夜ちゃん」
「……どうだかな」
友達になってくれた事に感謝の気持ちがないのは嘘になるが、それでも奴の心の中が全く分からない現状恐怖もある。
そう考えて肩を竦める俺の二の腕に、凛は「こらっ」と今度は弱く叩いてきた。
「そんなこと言うのはめっ、だぞ?蓮はそういうところ素直じゃないんだから」
「俺は素直だよ」
今のところ、本当に言いたい気持ちを言えなくて後悔した覚えはない。
そう考えながらやれやれとため息を吐くと、凛はむぅ、と頬を膨らませた。
……ここは話題を逸らしておこう。
「そんなことより、あけおめ。そっちこそ、最近元気にやっているか?」
「うむ、あからさまに逸らされた気がするがあけおめぞ我が弟よ」
逸らされたのとは別に言い方が少し癪だったため、俺は無言で凛にチョップをかます。
手加減はしたつもりだが、凛は「あいたっ」と頭を押さえた。
「………」
いきなり何するのさ、と言いたげに睨んでくるが、ボケにツッコミをしたつもりしかないため俺は無視を決め込む。
「もう……で、最近の話だととある朗報があるのですよ」
仕方ないなあ、という感じに呟いたかと思えば、すぐに嬉しそうにニコニコと笑う凛。
小夜も最近増えてきたが、姉貴の表情はコロコロ変わるため少し楽しい。
そんなことを考えつつ、訊かれたそうにしている凛を気遣って俺は口を開く。
「その朗報というのは?」
「よくぞ訊いてくれた。それはズバリ……ばばんっ!」
子供のようにテンションを上げながらポケットから取り出した手のひらサイズの代物を見て、俺は目を見開く。
「凛、やっとスマホを買ってもらったのか」
俺が言った通り、それは前回来た時にはまだ持参していなかったスマホだった。
黄色のケースに納まっており、小さなキーホルダーが飾られている。
「先月の誕生日にやっと、ね。スマホを持たされるの無駄に遅いから困ったもんだよ」
そう言って、やれやれと肩を竦めながらため息を吐く凛。
まあ、今の時代小学生も持っているスマホを16になったら持たしてくるって、子ども目線は結構ケチだよな。
俺は例外で16になる前に自分で購入したが、両親からの規制が少し厳しめな凛には少し同情する。
そんな凛は苦い表情をぱっと明るくさせたと思えば、そのスマホを俺に掲げてくる。
「だから、まず連絡先交換しよ!」
「ああ、わかった」
その凜の提案に、もちろん俺は快く承諾してポケットからスマホを取り出した。
色々と操作を繰り返し、俺のスマホに凛の連絡先が無事に入手される。
えっと名前は……【ふたりん】?
「名前の由来はなんだ?」
困惑気味に俺は凛に尋ねる。
小夜の【白夜】はまだ納得出来たが、凛の【ふたりん】はよく分からない。
そんな俺の質問に、凛は首をこてんと傾げて答えた。
「凛の部首を分けた結果だよ?
部首を分けたって……名前の由来って俺の【草連】とほとんど変わらねえな。
なんやかんやで俺らも姉弟だなあ、と、俺は一人感慨深く思う。
「【草連】……?──あっ」
凛も根本的なネーミングセンスが俺と変わらないのを気づいたらしい。
俺のアカウントが表示されたスマホを見て、何やら苦笑している。
そんなこんなで連絡先交換を無事に済ませたのはいいものの、俺はずっと気になったことを口にした。
「それで、今日は泊まるんだよな?」
凛が持参してきた大きめのバッグを一瞥しながら質問すると、スマホを眺めていた凛ははっ、としてこちらに振り返る。
「えっ?あ、うん。今回もお世話になるね」
「了解……一応言っておくが、今回こそは別々に寝るからな?」
夏休みの前科を思い出して苦い表情をしながら、承諾しつつも事前に俺は念を押す。
姉貴は俺にとてもよく接してくれているが、たまにそれが度を越してしまうのだ。
それはブラコン、と言えるかもしれないレベルで、一緒に寝たがったり風呂に入りたがったりしてくる。
一緒に寝る……のも良くはないが、流石に一緒に入浴するというのはこの歳の姉弟に絶対あってはならない。
水着ありでしてくるから裸の付き合いではないのの、それでも許容はしたくない。
そんなことを考えながら言ってやると、何故か凛はむう、と頬を膨らませてくる。
だが、さすがに譲る訳にはいかない。
そんなことを意気込んだ俺であったが悲しきかな、それが叶うことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます