EP28.姫と姉の会話
俺だ、
姉である
しかし、今は大丈夫だが内容によってはその話に巻き込まれてはいけないものがでてくる可能性がある。
姉貴は性格上異性の友達に盛り上がるタイプだし、小夜はああみえて積極的な性格なため、そんな凛と波長が合ってしまいそうだ。
というわけで、そろそろ晩飯の仕込みを始めても良い時間なのもあり、俺はキッチンに逃げ込んで料理を始めた。
なお、ダイニングキッチンなためリビングにある二人の会話は筒抜けではあったりする。
「──で?小夜ちゃん。蓮との出会いはどんな感じだったの?」
「いや訊き方よ」
最初から爆弾発言をしてきた凛に、逃げ込んだはずの俺は早速ツッコんでしまった。
いや、それでも出会いってなんだよ。
運命の出会いじゃねえんだから、俺と小夜の中でそんなの芽ばえるわけがないだろ。
そう頬を引き攣らせる俺とは打って変わって、小夜は凛の言葉に「ふふ」と笑う。
……あの、お前らは初っ端からどんな話に持っていくつもりなんだ?
「出会い……というより、話すようになったきっかけならありますね」
どうやら気の所為だったらしい。
正直その返し方は意外だが、小夜が真面目な性格でよかった。
そう考えながら安堵の息を漏らす俺を他所に、小夜は微笑みながら続ける。
なんとなくだが、その微笑みは先程のものとは違ったもののように感じる。
「あれは……四ヶ月前の台風の日、蓮さんが私に傘を貸してくださったことですよね」
「''押し付けた''の間違いだ」
変な方向に話を持っていかなかったのは結構だが、そこは重要だ。
実際、あの日は俺と小夜との間で会話のやり取りは全くなかったからな
「えっ、貸してくれたってことは、小夜ちゃん傘持ってきてなかったの?」
「ええっと、まあ……」
そんな俺と小夜との会話に、凛がそんな疑問を持ちかけてきた。
そんな凛の質問に対し、小夜はなんとも言いにくそうにモジモジとしている。
確かに、予報されてるはずの台風の日に傘を持ってこないのはおかしい、とは思う。
だがそう考えつつ、も小夜のその表情を見ると、事情は知らずとも俺はため息混じりに助け舟を出していた。
「でだ。その後、俺は風呂も入らずに寝たからか、次の日に風邪を引いてしまってな」
「バカなの?」
「うるせえ」
もう俺は完全に二人の会話へと自分から踏み込んでしまっていた。
だがまあ、小夜が感謝するかのようにこちらに微笑む表情を見たら、悪くない、と思ってしまう。
「それを私が見兼ねて──」
「ああ、そうだったな──」
もう二人の会話から逃げることを諦め、俺はあの日、小夜と初めて話した時のことを思い出して凛に語ったのだった。
「いや〜面白いね!他には──っとと、もう晩御飯を食べる時間だね」
出来上がった晩飯を皿にのせてテーブルに運ぶと、それまで楽しそうに笑っていた凛が晩飯に気づいてそう言った。
確かに、思い出話に皆で耽っていたら、いつのまにか晩飯を食べる時間になっていた。
言うてもまだEP4くらいまでしか詳しく話していないんだが、なんでだろうな……
凛の誘いで何故か小夜も一緒に食べることになり、二人の待つテーブルへと順次メインディッシュを運んでいく。
「──おっ、オムレツか〜。あたしの好きな完熟仕様でとてもよき」
「残念ながらレツじゃなくてライスだ。そのソースとこれで二つの味を楽しめ」
そう言って、更に俺はそこそこ大きい鍋をテーブルの真ん中に鍋敷きをひいて置く。
その中身──ビーフシチューを覗き込んだ瞬間、凛と小夜は顔を輝かせた。
「お〜っ!レストランみたい!」
「確かにそうですね!なんだか少し贅沢している気がします」
別にそう贅沢でもないんだが、まあここは言わせておけばいいだろう。
そう考えながら使い終えた料理器具を洗って、俺も元の席についた。
三人でお互いを見合わせた後、同時に手を「いただきます」合わせて食事開始だ。
「はむっ」
早速だが、凛が救ったオムライスをビーフシチューに浸して頬張った。
そして、左手で頬を抑えて満足気に「ん〜っ♪」と声を漏らす。
「うっま〜♪蓮、また料理の腕あげた?」
「最近はしてるってだけだ」
さすがに、小夜に毎日おすそ分けしてることを凛に言いたくはない。
凛は意外そうに目を丸くさせているが、これ以上は口を開かないことにする。
凛からの追撃を免れるよう小夜に視線を飛ばすと、小夜はまずオムライスをプレーンのまま口に含んだ。
そして、スプーンを持っていない方の手で口を抑えてコクコクと吟味するように頷く。
「……本当に美味しいです。何もつけなくてもこれとは、さすがですね」
「だよね〜!蓮の料理は昔なら絶品なんだよ〜?」
なんで姉貴が誇らしげなんだ?
……まあ、褒められているとこに変わりはないし、俺は何も言うことはせずにビーフシチューを啜った。
自分でも中々なものだ、と感慨深く思っていると、二人の間で会話が展開される。
「二人は双子とのことですが、そういう凛さんも料理はできるのですか?」
「うんや、あたしにはできないよ〜。というか、勉強運動もそうだし、家事全般蓮には敵わないなあ〜」
「まあ、掃除はマシだけどね」と笑う凛。
やかましいわ、と思ったが、俺はツッコまずにオムライスを頬張った。
「そうなんですか?」
「うん、蓮がハイスペックすぎてつらい」
やれやれ、といった感じに両手を振る凛に対し、俺は睨んで口を開く。
さすがにここはツッコませてもらう。
「姉貴も頑張ればできるだろ。俺ら外見とか好みとか、元の能力とか丸々似てるんだし」
双子である俺と凛は、二卵性双生児でありながら性格と体質以外はかなり似ている。
俺は努力したからそこそこやれるだけで、面倒臭がりな凛の根は正直図り切れない。
「好きな物はまだ分かりませんが、たしかに御二方って顔立ちとかよく似ていますね」
「まあ、昔っからよく言われるよね。双子だからだと思うけど、''瓜二つ''って」
いや、だから俺と凛って二卵性双生児だからここまで似るのは逆におかしいけどな。
流石に今や身長や体格やの性別の違いはでているが、俺らは好きなものが似ている。
更に、その性別の違いが現れない小さな頃は見た目が''瓜二つ''でよく間違われた。
ただ、そんな瓜二つの俺ら双子の姉弟の中で、やっぱり決定的に違うものがあった。
それは……ほぼ存在しない俺とは違って、凛はかなり目出す存在だということ。
そう、凛は俺と違って影は薄くない。
寧ろ、今言った通りかなり目立つ方で、小中学はいつもクラスの中心にいた。
見た目が瓜二つだったにも関わらず、凛だけはそうだったのだ。
「……蓮?」
……ただ、俺は凛を嫌っていない。
凛はそんな俺の事を気遣って、友人よりも俺を優先してくれていたからだ。
だから、双子仲は今でもいいと思っているし、それを崩すつもりもない。
「蓮、顔が……」
二度凛に呼びかけられて、俺ははっとしながら自分の頬に手を伸ばした。
そこに感じたのは、熱く火照った頬にそれを冷たく濡らす水の感覚。
俺は即座にそれを拭った。
これはもう慣れたことのはずだから、溢れさせてはいけない。
「……ごめん、蓮」
「いや、凛は何も悪くない。大丈夫だ」
先程のことがあったからか謝ってきたが、今回に関しては俺が一人勝手に反応していただけだ。
だから、今回姉貴は何も悪くない。
そういう気持ちを込めて、俺は凛に精一杯の笑みを向けた。
でも、凛の中から不安は抜けていかないようで……俺の頭を撫で始めた。
別にイヤ、では無かったので、俺は凛の好きなようにやらせる。
「本当に、仲がいいんですね」
そんな俺たちのやり取りに、小夜がしみじみとした様子でそう言った。
俺と凛はお互いに顔を合わせて、頷く。
「まあな」
「……うん。こんな自慢の弟は、他に居ないよ」
そう頷いただけの俺の頭を、凛は慈愛の眼差しで撫で続けたのだった。
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