その3 年が越しても、また姫様
EP27.姫が姉と遭遇する
俺だ、
共に水族館に行ったわけで、
まあ、それ以降にお互い予定が空いてたのは小夜が実家に戻ったらしい大晦日だけだったので、結局晩以外に会ってはいないが。
だとしても、小夜の発言的に今後とも姫様との交流が続いていくのは確定……ここも少し悩みどころだな。
<ピンポーン>
今年が始まって四日目の今日そんなことを考えていたら、急にインターホンがなった。
テーブルに頬杖をつきながらテレビを眺めていた俺は、立ち上がって玄関に向かう。
小夜は実家に戻ってるはずだし、ネット通販や宗教勧誘は自動ロック式のマンションだから可能性はない……一体、なんだろうか。
年末年始恒例のだらけ全開でそんなことを考えながら、俺は気だるげにドアを開ける。
「久しぶり、蓮」
そんな俺の視界へ飛び込んで来たのは、片手を上げながらニッコリと笑う見知った顔。
俺は、その姿を見て目を丸くする。
「凛?」
俺と同じ黒色で、ミディアムヘアにされているサラッサラな髪。
綺麗な顔立ちをしており、赤いフレームのメガネ越しに見える緩んみつつある鋭い目。
身長も高く、コートで隠れてはいるがスタイル抜群なモデル体型。
その姉貴が突然一人暮らしする弟の元へきたとなれば、そりゃあ驚くだろう。
しかし夏休みで会った際、別れる前に彼女が言っていたことを思い出す。
「そういえば、三箇日が終わったらウチに来るって言ってたっけか……」
「? そうだよ〜。その約束通り、お姉ちゃんはやってきたのだ」
例のお出かけやらで最近小夜と色々やっていたからかか、その事を完全に忘れていた。
まあ、そういう事なら了解した。
「久しぶりだな、姉貴」
状況を把握した俺は、改めて馴染み深い姉貴に対し手刀を切ってそう言った。
改めて、凛のことを紹介しよう。
凛は知的な見た目とは裏腹にとても人懐っこい性格で、陽気な口調で話す女性だ。
そして、双子だからか俺の事を見つけられる数少ない人材だ。
ほぼ存在しない俺を見つける姉貴には、昔から色々と世話になった恩もある。
そんな姉貴は、俺の挨拶に「うん」と頷くなり様子を伺うように動き回る。
「最近どう?元気にしてる?」
『最近』か……
先程も言った通り、最近は小夜と色々やっていたが……それを言うと、姉貴だったら面倒臭い方向に向かいそうだな……
「それなりに。元気に暮らしてるよ」
少し頬は引き攣った気はするものの、俺は無難にそう答えた。
そんな俺の答えに凛は「ふむふむ」と頷く。
「確かに、顔色は前より良くなったよね」
……小夜におすそ分けする際、ちゃんと栄養バランスを考えていたからか?
が、それをバカ正直に言うと先程も言った通り面倒臭い方向に……
よし、話を逸らそう。
「……まあ、とりあえず入ってけよ」
「は〜い。──って、おっ?ゴミ部屋じゃないじゃ〜ん!どしたの、なんかあった?」
「………」
前に来た時の惨状を思い出したのかそうテンション高げに尋ねてくる凛に、俺は言い淀んでしまう。
なんか、小夜のせいで色々変わりすぎじゃないか、俺……?
あいつの存在の大きさが今になって分かり、俺は盛大にため息を吐く。
そして、どう姉貴に誤魔化したものかな、と悩ましげに頭を掻きながら俺は答えた。
「まあ、ちょっとな……」
「ん〜?……あっ!その表情、双子ならわかるぞ!何か重要なことを隠しているな!?」
いや図星を言ってくるんじゃねえ!
恩がある姉貴相手に思わず舌打ち思想になったが、俺は深呼吸して落ち着く。
「いいから入れよ」
「は〜い」
ゴリ押すように凜を部屋へ招くと、凛はニヤニヤ顔のままズカズカと部屋に入る。
これまた面倒なことになったな……と、俺がため息を吐きながらドアを……
「──あれ?蓮さん、こんばんは」
「げっ……」
閉めようとしたところで、とある声が俺に挨拶をしてくる……そう、小夜だ。
よりにもよって今帰って来るなよ……と俺は頬をひきつらせる。
「およ?」
「っ!?」
そして、聞こえたのかなんなのか、リビングに向かおうとした凛は、首を傾げながら戻ってきやがった……
まさに負のスパイラル……小夜の声まで聞こえたのか、凛は俺を押しのけて外へ顔を出した。
「「………」」
凛が中から顔を出した結果、小夜と凛は目と目があって硬直する。
もうおしまいだ……二人の様子に、俺は頭を抱えてため息を吐いた。
しばらくお互いに沈黙をしていた二人だが、やがて同時に沈黙を破る。
「蓮、この金髪碧眼美女誰!?今蓮に挨拶していたよね!?」
「蓮さん、この知的で美人の方はどなたですか!?どうやら中からでてきましたが……」
……こいつらはお互いに美人やら美女でなに褒めあってるんだ?
いや、確かに凛も小夜も顔はかなり美形な方だがな?
そんなことを考えて現実逃避をしつつ、俺はとりあえずと部屋へ招いた。
二人を連れてリビングを戻ってから、俺は飲み物を出すと二人をテーブルに座らせた。
それから冷蔵庫に向か──うと見せかけて、面倒そうだし今すぐにでも部屋を!
「ねぇ〜
「
出よう!としたところで、凛に腕を凄まじい腕力で握られる。
痛みがテンションがおかしくなり、俺は自分でも意味不明な発音で叫んでしまった。
って、EP25の時の小夜だけかと思ったらこいつもゴリラかよっ……
そう思って凛を睨んだら、突然頬にグーパンが飛んできた。
「喉は乾いたから、飲み物は頂戴。ね?」
「……了解」
こっわ。
威圧を感じる凛に対して恐怖を感じつつ、俺は言う通り冷蔵庫へと向かう。
……つーか、遠慮無さすぎだろ。
頬がジンジンと痛む……あまりの衝撃か小夜も凛を見て目を丸くしてるし……
そんなことを考えながら、凛の前には俺と同じ微糖コーヒーを、小夜の前には新しく買ったりんごジュースを出した。
そして、ニコニコしながら小夜と対面に座る凛の隣へと腰をかける。
凛は座った俺を一瞥すると、肩に手を置いてニパッと満点の笑みを浮かべた。
「こんばんは、あたしは江波戸凛!何を隠そう、この蓮の双子のお姉様だぞっ☆」
俺が紹介をするのかと思いきや、まさかの凛が率先して自己紹介をしに来た。
その笑顔は、相変わらずどんな人でも感染されてしまいそうである。
小夜は凛の突然の行動に目を見開くも、すぐに胸元に手を当ててニコッと微笑んだ。
「こんばんは、あなたがあのお姉さんなのですね。私は白河小夜といいます。蓮さんとはお友達をさせて頂いております」
「以後、お見知り置きを」と最後に頭を下げる小夜……あの、って、覚えてたんだな。
とりあえず、小夜のその微笑みはEP15のように張りつめた空気は感じ取れず好印象だ。
……でも、それはこの間まで毎度と見せてきた微笑みを思い出してしまった。
それは水族館とは違う微笑み、なのか?
…何を気にしてるんだろうか、俺は。
「……まあ、そういう訳だ。凛……っておい、どうした?」
なんとなく暴れだしそうな凛を宥めようとしたら、凛の様子がおかしいことに気がついた。
顔から血の気が覚めており、その瞳はなぜだか涙目になっている。
「……蓮、いくら払ったの?友達が出来ないからって、お金でそれもこんな美女に使うなんて良くないよ……?」
「いや払ってねえよ!?寧ろこいつから友達になれって言ってきてんだよ!?」
そもそも、ほぼ存在しない俺が友達を作ろうとするわけがないのは、他でもない凛が一番知ってるはずだろ……
そう思って凛を睨むと、凛ははっとして俺に両手を合わせてくる。
「ごめんっ、さすがに今のは冗談が過ぎたね」
「……まあ、いい。逆に、いつもありがとよ」
しかし、そんな俺の状況を理解して支えてくれてるのは他でもない凛だった。
さすがに今のは出来ればやめて欲しいが、それだけで凛には感謝しなければならない。
そんな凛は、俺の感謝の言葉に「うん」と微笑み返してくれた。
しかし、今度は小夜の方に向き直り、なにやら神妙な顔で口を開く。
「……さっきから思ってたんだけど、もしかしなくても小夜ちゃんって蓮が見えてるよね」
……今更、ではあるが、凛視点から言えば確かにその質問は納得出来る。
今のところ、俺のことを見つけられるのは凛以外だと同い年の従兄弟しかいなかった。
しかし、小夜は全くの別人……どういうことなのか、俺のことを人一倍気にかけてくれてる凛は気になるだろう。
「はい……逆に、お姉さんもなんですね。双子、だからでしょうか?」
「どうなんだろうね……」
凛が俺の顔を見ていうが、知っての通り俺が一番それに悩んでいる。
凛、従兄弟、小夜……この三人には、一体どんな共通点があるのか。
そんな答えのでなさそうな問題に頭を悩ませていると、凛が「なら」と口を開いた。
「これからも、蓮と仲良くしてあげてね」
俺は目を見開いて凛を見る。
俺の人間関係が上手くいかなさすぎてどうにかなりそうな時、凛は俺が友達を作ろうとすることを止めようとしていた。
結局、見えてる人などほとんど居ないのだから、無駄だと考えていたのだろう。
その凛が、しっかりと小夜に『仲良くしてあげてね』と公認の発言をした。
小夜が俺のことを見えるとはいえ、まさかな……
そしてそんな凛のお願いに、小夜は力強く頷いて。
「友達になったのですから、当然です。これからも、更に蓮さんとは仲良くしていく次第ですよ」
……俺としては、『更に』というのは色々と不都合なのだが、な。
しかし、それを聞いて安心したように頷く凛を見ると、俺は何も言うことができなかった。
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