EP25.姫と観覧車に乗る

「えっ、おま……は?」

「………」


 俺こと江波戸蓮えばとれんは、白河小夜しらかわさよに言われた言葉にただ困惑を隠しきれないでいた。


 『観覧車に一緒に』って、つまり二人きりであのせっまい個室に入るわけだろ?

 そんなシチュエーション、友達になったとはいえ俺的にはかなり不都合だ。


「……なんでだ?」


 とりあえず、どういう経緯でそのお願いをするに至ったのか俺は尋ねてみる。

 小夜にとっても、こんなのは対してメリットも内容な気はしているんだが……


 しかし小夜は、俺の質問に抗議するかのように頬を膨らませて。


「いいじゃないですか、上からイルミネーションを見たいんですっ」


 と、詳しい理由を言ってはくれない。


「……お前が一人で乗れば?」


 ただ、そういう理由ならば一人で勝手に乗っても問題は無いと思った。

 さすがの俺も、下で待ってやるし……ただ、二人で乗るのはな。


 そう思ったんだが、小夜は俺の言葉にますます頬を膨らませる。

 それはもうはち切れそうなほど……が、どうしてそんな顔をされるのか俺には分からない。


「……もういいです!」


 もう我慢できなかったのか、小夜はそう叫んで……俺の腕を掴んだ。


「──っておい!なんで引っ張る!?」

「行く気がないのなら無理やり連れていくまでです!お金の方は奢りますから!」


 いや、無理矢理すぎるだろ……!?

 そう思って俺は腕を振りほどこうとしたが……いや、無駄に力強いな!?


「おまっ、ゴリr──」

「誰がゴリラですか!!」

「ぐぉっ!?」


 いてえ……腕を捻ってきやがった。

 てか、こいつ急に暴力的になったな……


「……はあ」


 もう言葉でも力でも反抗するのが無駄だと悟った俺は、そう盛大にため息を吐いて小夜に引っ張られたのだった。





 観覧車が経営されている場所へ到着し、少し列を並んだ後に二人で乗り込んだ。

 目的のイルミネーションは18時からで、もう10数分にはもう光るはずだ。


「先程は随分と無理矢理だったな?」


 向かい合いに座り、俺は先程の小夜の行動をニヤリと笑ってそう言った。

 どういう意図があったのかはまだ分からんが、捉え方によってはかなりの煽り対象である。


 しかし小夜は俺の言葉にふんっ、とそっぽを向いて黙秘権を行使してきやがった。

 ……ちょっとまて、そこで黙秘される方が俺としてはかなり不都合な捉え方になるんだが?


「………」

「……はあ」


 黙秘を続ける小夜に俺は諦めてため息を吐き、ふと膝に頬杖を付きながら外を見た。


 この観覧車はかなりゆっくり動くため、まだ少ししか登っていない。

 だから駅や木々の向こう側にある街は見えず、ただ光が見えるばかりだった。


「………」


 そのまますぐ下まで見た俺は、ふと気になって横目で小夜を見る。

 小夜はそっぽを向いた方向が外だったためか、そのままの姿勢で外を眺めていた。


 それを見た俺は視線を外へと戻し、再びこの光景を目に焼き付けたのだった。





 ……暫くぼんやりと外を眺めていたら、観覧車はもう頂にまで登ろうとしていた。

 この観覧車は大きくはないが、俺は少しだけ高所が苦手なため少し恐怖を感じていた。


 え?それなのになんで最終的に小夜の誘いを素直に頷いたんだ、だって?

 ……仕方なくだよ、仕方なく。


 そんなことを一人で勝手に考えていたら、水族館前の広場が急に様々な色の光で染まっていく。

 反射的に腕時計を見ると、18時……つまり、イルミネーションが始まる時間になったのだ。


「………」


 ──観覧車から見下ろすイルミネーションで光る広場の景色は、中々の見栄えだった。

 高所にいるからか、イルミネーション全体を視界に捉えることができてとても綺麗である。


「わあ……」


 と、その時に隣からそんな感嘆の声が聞こえてきて、俺はそちらを横目にみる。


 それは、その声の主……小夜がうっとりとした表情で、光りだしたこの景色を眺める姿だった。

 その碧眼は、数々の光を反射して様々な色を彩っている。


 なぜだかそんな小夜に見入っていると、ふと小夜がこちらを向いてきて、目が合った。

 そして小夜は、先程の態度とはうって変わってふっ、と微笑んでくる。


「綺麗ですね」

「……まあな」


 先程の自分の行動に自分で疑問に思いながらも、その感想に俺は頷いておいた。

 実際、高所という恐怖はあれどこの景色''は''綺麗ではあるのだ。


 直に観覧車は頂へと登り、見える範囲がより一層に広がった。

 少しだけ見えなかった端の方も視界に全てがおさまり、幻想的で神秘的な世界のように映る。


「……頂上でこの景色を見れるとは、ラッキーですね」

「……そうだな」


 すると放たれた小夜の呟きに、俺は無意識にそう答えていた。

 

「………?」


 先程から自分の心境が自分でわからず、俺は一人首を傾げる。


「………」


 ──ただ、頂から見るイルミネーションはやはり魅力的で、幸運なのは確かだ。

 心做しか、先程よりイルミネーションの光が強くなっているような、そんな気がした。

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