EP24.姫は腰を抜かす
俺こと
そのエリアとは……この水族館の主人公、ジンベエザメが泳ぐ巨大水槽のエリアだ。
早速巨大水槽を覗き込み、俺も小夜もその景色へと目を奪われてしまう。
「……すげえ。トンネルの方もそうだったが、これはこれでかなりの絶景だな……」
「そうですね……凄まじいです」
このジンベエザメの水槽は、上がどこまでも高く、下は底が見えない。
そして、問題のジンベエザメが2匹もいる。
上で恐らくプランクトンを食ってる1匹と、下の方でゆっくりと泳ぎ回っている1匹。
その広大で良い意味で異常と言える景色を見る、それだけでも感慨深いものがある。
「……あっ、見てください蓮さん!下の1匹が昇ってきます!」
と一人見入っていたら、小夜が無邪気に下を指さしながらはしゃいでいた。
いや子供かよ、その反応。
まあ小夜にそう言われたので、俺は仕方なく下を見ると──ッ!?
「すげえ……」
小夜が言っている通り、下の1匹が弧を描くような体制でで上昇している……!
それも豪快であり、なによりも速い……!
そのジンベエザメは俺ら客の前を<グオンッ>と音を立てそうな勢いで通り過ぎた。
その時、俺や小夜を含め他の客からも「おぉ……!」と感激や驚きの声が上がる。
「………!」
あまりに迫力のある場面を見て、初体験である俺は思わず言葉を失ってしまった。
「はわぁ……」
「──ん?」
と、そこで隣からなにやら艶の効いた声が聞こえて俺はそちらに振り向く。
そこに映ったのは、今の勢いに腰を抜かしてしまったのか、へたりと床に座り込んでいる小夜の姿だった。
そんな小夜は無論立ち上がれないらしく、涙目かつ上目遣いで俺を見ていた。
「蓮さぁん……」
……おいおい、勘弁してくれよ……
甘ったるさを含めた声とその光景を見て、俺は思わず顔を引き攣らせた。
「……どうすればいいと?」
とりあえず、呆れながらも俺はどう対処すればいいか小夜に尋ねる。
しかし小夜は、うるうると瞳を潤ませるだけだった。
「はあ……」
俺は盛大な溜息を吐いて、とりあえず立たせるためにしゃがんみこんで小夜の腕を首に回した。
「れ、蓮さん……?」
とりあえず伺うようなその言葉は一旦無視して、俺は中腰になり小夜を立たせる。
……身長差があるから仕方ないんだが、ちょっとこの体勢腰にくるな。
そんなことを呑気に考えながらも、ゆっくりと近くにあるベンチを目指す。
「よっ……と」
無事、小夜をベンチに座らせる。
「すみません……」
「まったく……」
そう悪態をつきながら、俺は傍にあった自販機でオレンジの缶ジュースを買った。
立てない以上どうしようも無いため、とりあえず飲みながら時間を潰すしかない。
……ん?チョイスがオレンジジュースはどうなんだ……だって?
いや、小夜の好みしらねえんだよ……
「ほれ」
「あ、ありがとうございます……」
とりあえず先に缶ジュースを小夜に手渡してから、俺も缶コーヒーを買う。
もちろん、あったか〜いやつだ。
「ふう……」
「ほ、本当にすみません」
「……もういいから」
隣に腰掛けると小夜がまた謝ってきたが、もう聞くのすら面倒だ。
それ以上何も言わせないよう強く言ってから、コーヒーを啜り水槽を眺める。
運がいいのか、ジンベエザメの1匹がここから見える位置で泳いでいた。
さっきの下の方の動きを見る限り、こっちが上にいた方かね。
「………」
「………」
そんなことを考えながら、俺と小夜は静かに飲み物を啜ってただ水槽を眺めた。
「──おい。時間が押してきてるが、もう立てるか?」
あれから、少し経って。
17時を少し過ぎた時計を見て、俺は焦りを感じ隣にまだ座り込む小夜にそう尋ねた。
小夜によれば、18時から始まるイルミネーションは見たいらしい。
それならば、売店を考えてもうそろそろここ出た方がいい頃合だ。
小夜は俺の言葉を聞いて、「はい」と焦りを含めた声で頷き足に力を込める。
「──……立てました。すみません、ご心配お掛けして……行きましょうか」
「……おう」
そこまでジンベエザメをよく見れてないため名残惜しさがありつつも、俺はただそう頷いて立ち上がった。
水族館最後にある売店へと到着し、そこで俺は記念に手帳を買った。
ミニキャラ?のジンベエザメが描かれている、青い
記念に買ったのはいいものの、正直言うと今後使う時が来る気はしない。
で、小夜はというと、少し悩んだ結果クッキーを手に取っていた。
「……そのクッキー、誰が食うんだ?」
「え?ああ、大晦日から正月にかけて実家に帰るつもりですので、お土産としてです」
ふと気になって訊いたんだが、こいつは実家に帰るのか……いや、普通そらそうか。
そんなやり取りをしつつ、俺たちは会計をすませて水族館を出た。
……すると、小夜が急に挙動不審になりだしてこちらを見てきた。
「……どうした」
「いえ、あの、ですね。蓮さんが良ければ、なんですけど……」
小夜は、何故か顔を赤らめ、モジモジと指を絡ませながら視線を泳がせ始める。
……いや、マジでどうしたんだ。
怪訝な顔になりながら続きを待っていると、小夜は遠慮がちにある方向を指さした。
その、方向とは……
「''観覧車''に、一緒に乗りませんか?」
──急に頼まれたその願望に、俺は唖然としながら……
「は?」
と返していた。
ほとんどEP5の使い回しだが、気にすんな。
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