EP22.姫の興味の差がすごい

 俺です、江波戸蓮えばとれんです。

 頼む、みんな……本当に挨拶のネタが尽きてきているんだ……


 俺はまさに窮地に立たされている……よかったら、案をくれないだろうか?

 じゃないとああなるぞ……!


 あ、どれのことか気になった人はEP20をチェックしてくれよ。

 ……すまん、やっぱ見ないでくれ。


 閑話休題……なんの話だったんだ?


 水族館に来ている俺と白河小夜しらかわさよは、次のエリアに足を踏み入れる。

 そこに広がるのは、主におまけ程度である陸上動物のエリアだった。


 周りを見渡せば、ペンギンやトドなどの水に関する陸上動物。

 天を仰げば、上に金網が張り巡らされているのが見える。


 金網の上に見えるのは恐らくライオン……それに、白虎ホワイトタイガー……え?は?白虎!?


「ちょっとまて、白虎ホワイトタイガーおるのここ!?」


 正直、かなりビックリした。

 白虎て……普通の動物園でさえ中々珍しいらしいのに、すげえな……


「そうですね。動物エリアのメインは白虎ホワイトタイガーとパンフレットには載っています」

「いや、なんでそんなに冷静なんだよ……」


 俺としては、白虎ホワイトタイガーを見て興奮するな、と言われた方が難しいってのに。


「まあたしかに珍しいですけど……魚よりは、って感じで……」

「興味の出るものに対してのテンションの高低がすごいな、お前……」


 珍しくもない魚もあんなに興奮してたのに、珍しい陸上動物の前ではこれか……


 てか、さっきから時々思ったけど白虎白虎うるっせえな!ゲシュタルト崩壊するわ!

 はあ、白虎な話はもうよそう……


 小夜のなんともよく分からない性格に、俺はあごに手を添え……一つ訊いてみる。


「じゃあ、ペンギンやトドとかはどうだ?ほら、あの水槽とか見てみ」


 トドが上下してて、正直目まぐるしい水槽を指差して俺は言う。

 小夜は首を小さく傾げながら、俺が指差す方向を一瞥した。


「……トドって速いんですね。イメージと少し違ってましたので、びっくりしました」


 すげえ冷静になってやがるなこいつ……


 ならば……と、俺はニヤける。


「俺は陸上動物にも興味あるから、結構な時間ここにいると思うぞ。……ま、小夜が興味ないなら先に行ってても構わん」


 はっ、こうなったら小夜は迷わず先に行くだろうな……。

 友達にはなってしまったが、別れて関係は再び疎遠に……完璧な作戦だ。


 そう!俺は小夜と関係を築いていきたいとは、未だに思っていないのだ!


「いえ、蓮さんが興味あるのなら私も御一緒しますよ?」


 ………。


 ……反応に困るんだが?この場合、どう答えればいいんだ……?

 ……いや、諦めるのはまだ早い。


「いいんだぞ?無理しなくても」

「いえ、無理なんてしてませんよ。蓮さんと一緒に来たのですし、一緒に楽しまないと」


 ………。


 こいつ、結構強敵だな……これは、諦めた方が早そうだ。

 俺は「そうかよ」と皮肉げに言ってのけると、動物の観察に集中することにした。





 ………。

 あれからまだ5分しかたってない……無意識にも、早く切り上げてしまったようだ。


 そんな感じで、俺と小夜は動物エリアから次のエリアへと移動している。

 そこで、次のエリアで移動する前の通路で少し興味深い水槽を発見した。


 一つ目は、シュモクザメの水槽。

 ……こんなとこにこんな水槽あっていいのだろうか?


 イタチザメやホオジロザメ等と違って危害はないらしいから、別にいいのかね。

 ……だとしても、見た目は随分と怖えな。


 ハンマーのような突起を持つ、そんな見た目を隣の小夜はまじまじと見つめていた。

 やはり、水棲動物と陸上動物でえらく興味の差がすごいらしい。


「シュモクザメって、どうしてこんな顔の形なんでしょうか?」

「それはしらんが……これの側面に目がついてて、お陰で視界はだいぶ広いらしい。陸上動物で例えるなら、草食動物と同じ仕組みか?」


 だったとしても、こんな見た目になった理由はよく分からんがな……

 見た目怖いし、目の位置わかりずらいし……進化とは不思議で怖いものだ。


「なるほど……しかし、シュモクザメって肉食ですよね?」

「多分な。けど、人間への被害は少ないから、言うほど積極的なやつじゃないのかもな」

「へぇ〜……」


 俺はシュモクザメにも興味が行き届いており、結構な豆知識を頭に叩き込んである。

 しかし、実物を見るのは初めてだ……内心では、やはり興奮気味になっている。


 俺と小夜はそんな感じでシュモクザメの観察暫く続けた。


 少し時間が経つと、この通路の先にあるもう1つの水槽へと向かう。。

 さてさて、中で泳いでるのは……まさかのマンボウだった。


 ……は?


「なんでマンボウがシュモクザメの近くに……?いや、対して近くもないが……」


 シュモクザメの水槽を少し進んでから曲がる角の外側に、このマンボウの水槽がある。

 近いかと言われたら前述の通りそこまでだが、だとしても遠くはない。


 そんな俺の反応に、マンボウについてよく知らないのか小夜は首を傾げていた。


「なんで……というと?」

「マンボウはメンタルが異常に弱くてな……少しの衝撃でも、心臓が止まって死亡する」


 「ほら」と俺は''撮影時にフラッシュ禁止''と書いている看板を指差した。

 これを見る限り、フラッシュでもマンボウは死亡するということである。


「本当ですね……なぜでしょう?」

「いやしらんわ」


 メンタルが悪いことには、俺も最初疑問に思っていたからな?

 それでちゃんと調べたけど、どこにも詳細はなくて結局わからずじまいになっている。


 そう思って払い除けると、小夜は「ふむ」と顎に手を添えた。


「メンタルが弱くて死亡……ですか。死亡例って、例えばどんなものがあるのですか?」

「・水温が低すぎて死亡。

 ・日光が強すぎて死亡。

 ・海水の塩が体に染みて死亡。

 ・ぶつかる予感のストレスでしぼ──」

「もういいです。よく分かりました」


 俺の説明途中に割り込みながら、小夜は遠い目でマンボウを見つめていた。


 俺は40個くらいの死亡例を自慢げに言おうとしていたため、ジト目で小夜を睨んだ。

 気持ちはわかるが、せめて最後まで言わせて欲しかったんだが。


 小夜がそんな俺の睨みに気づき、なぜだか微笑んできやがった。


「そんなに睨まれてしまいますと、怖くて私が死んでしまいますよ?」

「ほざけ」


 何を言ってるんだこいつは……

 俺はまたも必殺小突きを小夜の額にお見舞して、早足で次のエリアに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る