EP18.姫と待ち合わせ

 よおみんな、俺だよ、江波戸蓮えばとれんだよ。

 今日、俺は白河小夜しらかわさよと水族館に行く予定だ……デート、ではないからな。


 そのため、待ち合わせ場所のマンションの最寄駅前の噴水の前のベンチに座っている。

 ''の''が多すぎるが、他の表現の仕方が思いつかないから我慢してくれないか。


 今は、約束の後に訊いた集合時間の13時から1時間ほど前……つまり、正午だ。


 ……ちょっと待って、俺アホじゃね?なんでこんなに早く来てんの?

 というか今思ったんだが、なんで待ち合わせがマンションじゃなくてわざわざ噴水なの?色々おかしくね?


 まあ、もう来ちゃってるわけから仕方がないんだが……

 はあ……まあいいや、せっかくだし俺の素晴らしいファッションをお聞かせしよう。


 トップスは白のハイネックシャツ、ボトムスはベージュのパンツ。

 その上から防寒着として黒のピーコートを羽織り、焦げ茶のチャッカブーツを履いた。


 あとはワックスで髪を上げて、メガネで数多の人々を鋭い視線で貫いているっ。


 ……ちょっと調子に乗ったが、まあこんな感じで無難でカジュアルな感じに纏めてみた。

 久しぶりにお出かけするんだから、変に着飾ってミスりたくはないという気持ちがある俺である。


 ……実を言うと、他の服装を着ようとしたが没にして急遽これにしたんだが。

 まあ、お出かけするにしては文句はないだろう。


 あと追加することと言えば、誕生日に小夜から貰った防寒具セットを付けたことか。

 最悪この間に購入したこのコートでも寒さは防げそうだが、せっかく貰ったしな。



 ん?なんでズボラな生活してた癖に、オシャレに関してはしっかりしているんだって?

 まあ、それに関しては昔からの癖というか、なんというか、という感じだ。


 それに、不本意ではあるが女性と出かけるのならこれくらい礼儀として当然だろう。

 ……ん?お世辞?……それは知らんな。


 ……さて、まだ時間55分くらいあるし、コーヒーを飲みながら本でも読むかね。

 俺はベンチから立ち上がって、コーヒーを買おうと自販機を視認してそこに足を運ぶ。


 ──というか、なんか自販機の方騒がしいな……なんかあったのだろうか?

 そんなことを考えていたら、一人金髪が目立つ少女が目に映る。


「……小夜?」

「──え?……あっ、すみません蓮さん!待たせましたか!?」


 案の定、白河小夜しらかわさよだった。

 運がいいのか悪いのか、発言を聞く限り今頃に来て自販機の方にいたようだ。


 さてさて、早速で失礼だが小夜のファッションチェックを迅速に行う。


 トップスは白のケーブルニットに、シアンブルーのフレアスカートだ。

 その肩には、もはや見なれてきているストレートの金髪を一部掛けていた。


 で、走って揺れるスカートの裾から見える白いソックスに、それを覆うローファー。

 ニット、掛けられた金髪のさらに上に掛けて、結構勢いよく揺れる桃色のバッグ。


 氷や雪のイメージが強い色合いで、先程から目立つ金髪や光を反射する碧眼ともマッチ。

 見た目、質感的には大人しくゆったりとしていて、小夜の性格にも合っているだろう。


 迅速にチェックを済ませて視線を小夜の顔に戻した俺は、手刀を切った。


「よお、つい一時間ほど前に来たばっかりだよ」


 ……皮肉げに言ってやったが、やっぱ俺どれだけ前からきてるんだろうか。

 あ、ちゃんと昼飯は食ってきたぞ。


「……あの、さすがに早く来過ぎでは?」


 ……さすがに、小夜も俺の異常なる行動にはツッコまざるおえないらしい。

 若干白目になりつつある俺、そんな俺を申し訳なさそうに見る小夜。


「しかし、すみません。いつもと違う雰囲気だったので、しばらく気づきませんでした」

「……ん?メガネか?やっぱメガネ一つで結構変わるもんなんだな。似合うか?」


 久しぶりにかけたメガネを片手で支え、ニヒルに笑ってそう訊く俺。

 なんか色々と性格悪いな俺……いや、無論反省はしていないのだが。


「ええ、似合っていると思いますよ。格段と理性的で聡明な雰囲気になっています」

「ほう?そうか。ありがとよ」


 多少過大評価な気がするが、素直に受け取って俺はメガネを一回拭いた。

 ──やべ、掛け直そうとしたら失敗して緩くなったな……メガネを中指であげて整える。


「おぉ〜、様になってますね……」

「……いや、別にメガネの位置を調整しているだけなんだが?」


 急に褒められて胡乱な目で小夜を見ると、小夜はなぜだかドヤ顔になる。


「その調整の仕方が、様になってるのです」

「……あっそう」


 どうなのかね……

 まあ一応、俺の今回のファッションは成功のようだし、俺は再び中指でメガネを整えながらにやけてやる。


「では、行きましょうか」


 ……普通に無視された。


 俺は半目になって小夜を見るが、ツッコむのもめんどくさくなって「おう」と返した。

 小夜はそんな俺をみて、「ふふ」と満足そうに笑っている。


 ……分かってやがったな。

 俺はそんな小夜の額を指で小突き、先頭をに立って駅に向かった。

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