EP16.姫はなにやら上機嫌
俺だ、
以前の騒動から1週間後。
終業式を終えて
号令を済ますと、教室中が騒がしくなる。
まあ気持ちは分からんでもないが、うるさいうるさい。
そんなことを考えている俺は、今日から冬休み中は週4六時間のバイトだ。
本来うちの学校ではバイトは禁止されているが……長期休暇なら、認められている。
俺は貯金癖があるので、その長期休暇中の内にバイトをしておきたいのだ。
ちなみに言っておくが、俺も影の薄さを理解してちゃんと雑用側のバイトである。
接客とか絶対無理だ……
──おっと、帰って少ししたらバイトだし、そろそろ帰らねえとやべえな。
焦り始めた俺は、早々に学校を出た。
帰りにコーヒーを一口。
今は夕方、バイトを終えた俺は缶コーヒーでも飲みながら帰路についていた。
疲れはしたが、接客はしないししかもホワイトな方で給料もそこそこ。
そんなバイト、不満など全くない。
ただ、仕事を任される時に気づかれないのはあったが……まあなんとかなるだろう。
「──……あれ?こんばんは、蓮さん」
近道をするためマンション近くの公園を通っていると、小夜が声をかけてきやがった。
俺は気がついて居たが、用がないのでスルーしようとしたのに……
「……よお」
「こんな時間に、どうしたのですか?」
いや、こっちのセリフすぎねえか?
お前こそなにやってるんだよ……
ちなみに小夜は、なぜだか知らんが設置される照明を活かして参考書を読んでる。
……まあ、答えとくか。
「バイトだ。今日から冬休みの間にシフトを組んでるんだよ」
「冬休みの間ってことは、校則はしっかり守ってらっしゃるんですね」
「授業中寝ますのに」と笑う小夜……うるせえよ、悪かったな。
俺は眉を顰め、小夜を睨む。
「……小夜こそどうしたんだよ」
「あ、初めて名前を呼んでくれましたね」
そこ気にする必要あるか……?
「ふふ」と笑う小夜……様子を見る限り、何やら上機嫌らしい。
てか、俺の質問に答えろよ……
「今日は少し、気分転換に来ておりまして」
ああ答えたわ。
じゃなくて、気分転換……!?
「……読みにくくないのか?もう暗いだろ」
照明がついている夕方とはいえ今は12月……空はもう、濃紺で染まっている。
証明を活かしてもそこそこ暗いし、もう家でやれよ……とは思う。
「読みにくくはあります。しかし、こういう新鮮な事をするのは面白いのですよ」
「……変な趣味だな」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
いやなんでだよ。
まあ、別に悪い意味でも言ってないから構わんのだが……
「それにしても、今日から冬休みですね」
「まあそうだな」
急に何かと思ったが、一応頷く。
やはり上機嫌らしい小夜は、頬を緩ませながらテンション高げに口を開く。
「学校は楽しいとは思いますが、少し疲れますし、テンションが上がっちゃいます」
「そうかよ」
別に聞いてないんだが……相当テンションあがってるんだな、こいつ。
おかげで心の中のツッコミが大苦労だぜ……まったく。
それにしても、冬休みで上機嫌になるとはガキっぽいな、へっ。
俺は暇な時間が増えるだけと考えてるし、長期休暇なんて好きでもなんでもない。
だからどうでもいいことだ……そろそろ帰ろう。
俺はコーヒーを飲み干してゴミ箱に投げ、「じゃあな」と無理やり話を切る。
俺が小夜から視線を外しマンションに歩き出すと、小夜が小走りに俺を追ってきた。
「……なんだよ」
「私も帰ろうかなと。一緒にいいです?」
「嫌だよ……」
面倒くさそうだし、やっぱ「姫」様と一緒に帰る事は極力したくないんだよなあ……
あ、EP13でも一緒に帰ってただろ……そう思ったヤツいるだろ?
実は俺、あの後寄り道してるからまだこいつと一緒に帰ったことないんだわ。
「そういうと思いましたよ。ですので、一緒に帰りましょう」
「いやなんでだよ」
何言ってるんだこいつ……
なんだかもう面倒くさそうだ……俺はため息を吐いて、とぼとぼと再び歩き出す。
そんな俺の隣に、小夜が歩く。
やけに気分が良いらしく、意識してないようだが常に笑っている。
その顔、デコピンでも喰らわそうか……?
「……それにしても、この1週間毎日メッセージを寄越しやがるが、なんなんだ?」
……そう、実は先週に連絡先を交換してから小夜が毎日俺にメッセージを送ってくる。
俺は律儀に返信してやっているが、あんな毎日連絡を交わす必要はあるのか?
俺はそうは思わないんだが……
「別にいいじゃないですか。家族以外で連絡先を交換するのは、蓮さんが初めてなんですよ?」
「いや、他の女友達とかとは連絡先交換してないのかよ」
ジト目になってそう質問すると、小夜は苦笑いを浮かべる。
……なんか俺、地雷踏んだかな。
「してませんよ。そもそもとして、私は貴方しか友達がいないのですよ」
あ〜、そういやこいつEP4の時に虐められてたな〜……
もしかしたら女全般に嫌われてるのか?
もしそうだとしても、無遠慮に突っかかるのもなんか悪いしなあ……
……遠慮した俺は「そうかよ」と返し、渋々ながらも「姫」様と帰路についたのだった。
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