その2 姫様と友達になったのだが

EP15.姫は誘いを断る

 「姫」様と友達になり、クリスマスに出かける約束をした、その次の日の話だ。

 俺こと江波戸蓮えばとれんは、今週最後の昼休みもまた誰とも話さずに過ごしている。


 ……さて、なんだか今日はいつもより隣の席が騒がしいな。

 特に''男子生徒共''が。


 なにやらわーわー騒いでいてうるさいったらありゃあしない。

 こんなにもうるさいと、普通誰でも気になって聞き耳をたてるだろ?


 そうかそうか、分かってくれるか。


 てなわけで、俺は頬杖をついて前を向いたまま、隣の席へ耳を傾けた。

 いや、別に耳を傾けなくても、ほぼ存在しない俺なら近づけば聞けるんだけどな?


「白河さんクリスマスって空いてる!?」

「待てやおい!白河さん!クリスマス俺とどう!?」

「いやいやいや!この俺とどこかへ行きませんか!?」


 ……おう。


 さすがの勢いに、俺は頬を引き攣らせてドン引きする。

 いくら[学園の「姫」様]とはいえ、白河小夜しらかわさよにどっぷりハマりすぎじゃねえのお前ら……


 そんな小夜はというと、前までよく見ていた微笑みを男共に向けている。

 そしてその表情を崩さぬまま、口を開く。


「すみませんが、私はあなた方とはそこまで親しくはありませんので、お断りさせて頂きます」


 ……ん?いつもの小夜と何かが違う。


 これまで俺が見てきた中でも、かなり張り詰めた空気を微笑みから放っていやがる。

 まあ俺自身、興味なかったし学校での小夜をそんなに見ているって訳でもないが。


 それでも、軍を抜いて……わかりやすく言うと、男共を警戒している。

 なんだか発言に抑揚もないな。


 さすがの俺も、小夜のいつもと違う様子に目を見開いて視界に入れてしまう。


 小夜の様子が分からないらしい男共は、テンションを上げ続けて小夜に近寄ってる。


「それじゃあ白河さん!友達になってくれませんか!?連絡先交換しよ!」

「待て!お前ずるいぞ!」

「白河さん!おねがいします!」


 ……はあ。

 告白よりマシな無謀発言とはいえ、さすがにため息を隠せないぞこれは。


 さすがの俺でもわかる、こいつらは''下心が見え見え''だ。


 ハッキリとは言って無かったが、下心のあるやつに小夜が嫌悪感を抱いている。

 ……あ、気になるやつはEP5をチェックだ。


 そんな小夜が、こいつらに気を許すはずがねえよなあ……

 俺はまだ気付かぬ男共に、呆れと哀れの視線を密かに送っていた。


「あなた達には下心が見え見えなので、承諾できません。したく、ありません。」


 おお、ズバッと言ったな……まあ事実だし、男共はここで諦めるべきだろう。

 そんなことを考えていたら、小夜は「それに」と呟く。


「もう、クリスマスには先約がありますので……」


 ……は?


 ちょっとまってくれ。

 小夜、お前がそんなことを言ったらどうなるかわかってんのか?


 小夜は目を見開いた俺と視線を合わせ、警戒心のない微笑みを向けてきた。

 ……しかし俺は小夜の愚行に苛立ちを覚え、これでもかと言うくらい睨みつける。


 小夜に俺の苛立ちが伝わったのか、ハッ、となんだか申し訳なさそうな顔をした。

 そんなのも束の間……


「「「えええぇぇぇ!?!?」」」


 この男共の絶叫によって、教室の中が大惨事になったのは言うまでもない。







 俺は影の薄さを利用し、小夜に「出ろ」という意味で顎を廊下に指した。


 小夜は俺の顔を見ると、なんだか申し訳なさそうな顔浮かべて頷く。

 そして、警戒の微笑みに戻して男共に「失礼します」と断り、俺についてきた。


 それから俺らは、あまり人気のない階段の踊り場に出た。


 先を歩いていた俺は振り返り、再び小夜に睨みを向ける。

 小夜はまた申し訳なさそうな顔をしているが、さすがに今回のは不味いんだ。


「まず言おう、なぜ''アレ''を口に出した?」


 アレ、とはお察しの通り、先約……ぶっちゃけクリスマスのお出かけについてだ。

 具体的には口に出していないが、それでも充分誤解されるような言い方をしていた。


 しかし小夜は俺の言葉を聞いて、申し訳なさそうな顔から一変、きょとんとした顔で首を傾げている。

 どうやら、何が理由で俺が睨んだかは分からないらしい……いや、なんでだよ。


「あのなあ……クリスマスみたいな大イベントでお前が''先客''って言ったら、学校中大惨事になるのは間違いなしだろ」

「そうなのですか?」


 いやさすがに分かってくれよ……

 あの警戒の微笑みしてる時点で、自身の人気度を弁えてるのかと思ってたよ……


「ああ、自分の立場を理解してちゃんと行動しろ「姫」様。無闇に地雷を踏むな」

「はあ……わかりました。善処します」


 なんか不満そうだけどこいつは本当に自分の立場がわかってんのかね。

 ……その人気度を自覚してないというのなら、一応これも念を押しておくか。


「念の為もう1回言うが、もちろん学校で俺の名前を言うのは禁止だぞ。いいな?」

「……わかりましたっ」


 小夜は何故か頬をふくらませていたが、俺は無視して教室に戻った。

 本当に大丈夫だろうか、この姫様は……

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