EP4.姫は虐められる
程々のところで、俺は目を覚ました。
……先程とは違い、ちゃんと記憶はある。
時間をみると、まだ昼を回っていない。
俺こと
起き上がってみてみれば、
「予想より起きるのが早いのですね。では、熱を測ってください」
小夜がそう言って微笑み、体温計を差し出してきた。
それは、額に向けてボタンを押すだけでわかる代物……見た感じ、多分俺のだろう。
俺は小夜の言う通り、早々に測る。
「……36.7だ。平熱よりは少しだけ高いが、問題なく行動はできるな」
「えぇ!?ちょっと待ってください、いくらなんでも回復早すぎませんか!?」
温度計を渡しながら答えると、小夜が驚いた様子で測られた体温を二度見している。
「昔から2回くらい寝れば治ったぞ俺は」
体温がもう下がったことに驚いているらしいから自身の特徴を答えると、小夜が困惑したような表情を浮かべる。
……なんかおかしいのか、これ。
「そ、そうですか……お粥を作ったのですが、いらないですよね?」
そう言って、小夜は盆に乗った粥を一瞥しながら悲しそうな表情を浮かべる。
俺もそちらの方に見ると、ネギが混ぜられた卵粥が入っていた。
湯気がホクホクと上がっており、見た感じは普通に美味しそうである。
それに、小夜が善意で作ってくれたものでもあるし、俺は首を横に振った。
「んーや、せっかくだしありがたく貰う、ありがとうよ。何円だ?」
「いえ、これも返しの1つですし……」
律儀に気にしてんなあ。
俺としては、もう返されすぎているような感覚に陥っているんだが……
そんな小夜の気にする部分に、俺はため息を吐きながら答えてやる。
「もういいよ、風邪は治ったし言っていた理屈ではもう返されただろ。もう1回言うが、ありがとうよ」
「そ、そうですか……」
納得しかねている小夜を後目に、俺はお盆の上に置いてある粥を取って口に入れる。
さてさて、味の程は……?
「……白河ってさ、料理出来る?」
作ってくれたのに申し訳ないし、デリカシーにかけているのも分かっているんだが……
正直に言うと、米に味がほとんどついていなかった。
だから思わずそう尋ねると、小夜はにっこりと笑って口を開く。
「ふふ、死なない程度ですね」
……いや、
「……まあいいか、別に食べられないほどでもないしな」
「そうですか。では、私は失礼します」
「おう、ありがとうな」
一礼するなり、小夜は荷物を持ってさっさと部屋をていった。
それを見届けると俺はキッチンにいって、お粥に塩としょうがを入れた。
それ再び、口に入れる……うん、美味い。
二日後の話だ。
俺は、今日も今日とて誰とも話さずに学校の授業を終えた。
トホホ、慣れたもんとはいえ寂しいな。
今日は天気は晴れだ。
本でも読みながら帰っていると、今度は公園から大声がしてきた。
「あんた、調子に乗ってるんじゃないでしょうね!」
なんだなんだいじめか?だっせえことしてやがんなあ……
俺は横目にその情景を見ながら、ついそんなことを考えてしまう。
「……ん?」
──っておいおい、よく見たら虐められてるやつってまさかの小夜じゃないか?
気分を害していそうな女子生徒に囲まれている形だし、間違いなさそうだ。
……場違いなことを言っているのはわかっているが、俺は影が薄い。
小夜にはこの前の恩があるし、もしもの時のためにスタンバイしとくか。
ってことで、俺は公園に入った。
……俺、この体質で良かったと思ったの初めてかもしれんわ。
まあ、とりあえず現場を撮るか……俺はカメラモードになったスマホを構えた。
「なんか言いなさいよ!」
「……では、一言だけ失礼しますね。虐めている光景を撮影されているのに続けるなんて、中々度胸がおありのようで」
「はあ!?」
虐めてる二人は軽く周りを見渡した後、小夜を睨む。
「誰もいないじゃない!」
「……はい?あそこのベンチでスマホを構えているお方、みえなかったのですか?」
前もそうだが、なんで小夜は俺の事を見つけられるんだ……?
正直言って意味がわからないんだが。
「………」
なんか虐めてるやつがこっちを見てくる。
さすがに気づくか……?
「誰もいないじゃない!」
おいおいマジかよ、俺すげえな。
でも、さすがにこれ以上黙ってたら小夜が危なそうだし、俺はいじめ現場に近づいた。
「白河〜!なんかあったのか?」
「江波戸さん、こんにちは」
もうこれは立派な作り笑顔で声を掛けると、小夜は微笑んできて挨拶してくる。
それから、長ったらしい説明をしてきた。
「今日、告白されたのですが、好意を抱いていなかったためにお断りさせていただいたのですが……どうやら、この方達から逆恨みをされたらしくて」
そういえばこいつ[学園の「姫」様]だったな。
てことは、告白も日常茶飯事なのか。
……というか、本当に今更だがなんでこいつ俺の名前を知ってるんだ?
俺の名前は教師でさえもしらねえのに……
……まあ、どうでもいいか。
「そんなしょーもない理由で虐められてるとか、お前も可哀想だな」
「お気遣い、ありがとうございます」
二人を見ると、やっと俺に気づいたのか俺のスマホに目を向けてきた。
「あ、撮ってたから。これ学校に提出したらどうなるだろうな?」
スマホを顔の前に翳して、俺はニヤける。
やはり俺の存在には気がついているようで、そそくさと二人の生徒は逃げていった。
「まあ、ドンマイだな。ほんじゃな」
「私もこれから帰りですし、一緒にどうです?」
いや、普通に嫌だよ……
俺の影が薄いにしても、「姫」と帰るというのは色々と面倒じゃないだろうか。
そう考えついた俺は、首を横に振った。
「そうですか」
小夜が微笑みながらも、悲しそうに眉を下げていた。
……雑談くらいはしてやるか。
「……それにしても、お前よく俺のこと気づいたよな」
「逆に気づかない方がおかしいと思ったのは、私だけでしょうか?」
小夜はそう首を傾げるが……はあ。
「二人見てたろ?俺って影薄すぎて認識されなくて、ほとんどの人に名前も覚えられてないんだ……そういえばだが、白河はなぜ俺の名前を知っている?」
正直「姫」から名前を覚えられているのは、結構疑問だったりする。
「隣人さんですし、そもそもとしてクラスメイトなので当たり前では?」
……今思い出すと、そういや俺、小夜とクラス一緒だったな。
ただ、俺にとっても、みんなにとっても、それは当たり前ではないだろう。
「俺の場合、クラスメイトは愚か、担任にさえ名前は覚えられてないぞ」
「えっと、それはお気の毒で……」
「……まあその辺色々、もう慣れたことさ」
困惑気味に慰めてくる小夜にそう返したりと、そんな会話を暫くしていく。
その後俺は、「姫」と帰ることを防ぐために適当な理由で小夜と別れたのだった。
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