第5話 魔王城から外出

 エーデルライト王国、王宮、謁見の間。


「よくぞ、参った。勇者よ」

「はッ」

「知っておると思うが、我が、暁の姫が攫われた。場所は、魔国領バール。魔王バールの統べる領域である」

 王国の姫が攫われた。その相手は魔王である。

 姫からの悲痛な手紙が届き、王宮は心傷めた。そして、決意した。なんとしても、姫を救い出すと。皆の総意の元、その後、勇者を探すこととなった。

 王国中を駆け巡れば、神の啓示を受けた勇者は、すぐに見つかった。

 そして、国王陛下は、直々に、勇者へその勅令を下すのだ。

「はっ、そのために馳せ参りました」

 謁見の間、一人の男が跪いた。

「早速だが。勇者アデルバードよ。アウロラ・プリズム・ラ・エーデルライト2世の救出の命を下す」

「拝命いたしました。必ずや、その命、成し遂げて見せましょう!」

「うむ、期待しておるぞ。そして、これに際し、我々より、贈り物を用意した。受け取ってくれるな?」

「はっ、お心遣い感謝とともに、有難く頂戴させて頂きます」

「いずれも、国宝級の逸品である。例えどのような魔族であろうとも討ち滅ぼす力を持っていることだろう。良いな?死ぬでないぞ」


「はっ、姫救出のため尽力いたしましょう」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「こんなの絶対おかしいよ」


 魔王バールが玉座の上で震えていた。


 一週間ほど前の宴会のあと、その翌日、魔王の代が変わった。その日、即日、戴冠式行われ、禍々しい王冠を被せられた。

 先代の五千年と大戦から二千年という節目がちょうどよかったのだという。魔王は代々その名とともに引き継がれるのものであり、世襲のものでもない。

 曰く、魔王は不滅であり、代を変えても永遠につづくものであり、その後継は、天啓によって決められるものであるという。

 それ以外は無いという、魔王はその者の指名によって後継の魔王を据えても、すぐ死ぬというのだ。

 以前、ある別の魔王は、息子を次代の魔王にしたところ、外遊中に、暗殺されたという。こういうことが幾度と起こった。以後、証を持たぬものは魔王になることはない。

 そもそも、証を持たぬものは、弱いという。運命が弱いため魔王という強烈な天命に耐えることが出来ず、すぐに死ぬというのだ。

 そのため、天啓と証を持つものが次代の魔王となる。

 証とは、現在、アウロラの持つ魔王の宝玉である。

 


「どうしてこうなった」

 そうはいっても、こうなってしまったのは仕方ない。のだろうか?

 懐から、宝玉を取り出すと、玉座の間にいる一同がギョッとして固まる。

「なにこれやばい」

 要らないですこれ、絶対にやばいです。持ってちゃいけないやつです。

「レリアーナは居るかしら…」

 レリアーナは、ここに来て、一番最初のお友達である。どこにいても絶対にいるという魔女である。

「呼びましたー?」

「うわ、びっくりした!やはり、突然現れるのですね…。それで、この宝玉だけど…。どうすればいいの」

「食べるんですよー」

「え?」

 意味が解らない。食べる?いやいやいや、食べれないでしょこれ。

「じゃあちょっと、レリアーナちゃん、かじってみて?」

「無理ですねー。そもそも、掴むことさえ出来ませんのでー、ほらこんな感じですー」

 レリアーナの手は、アウロラの手にある宝玉をすり抜ける。

「それに、それを誰かに渡そうとしても無理ですよー?そもそも。その宝玉自体見えてませんからー、手から放たれる光しか見えてませんよー?」

「え?見えてないの?」

「はいー。見えてませんよー?そして、宝玉は果実。果実とは、神に与えられしもの。手から神の力が溢れてるようにしかみえませんー」

 あ、それでみんな、あのような反応を…。合点がいきました。

「つまり、思った以上に手の付けられないものを渡されたということですか…。はぁ」


 そんな話をしていると、一つの連絡が突然やって来た。

「大変です!密偵により報告、勇者が、魔王城攻略へ向けて行動を開始したとの情報を得ました」

 密偵なんているんだ。知らなかった。

「それで誰が来るですって?」

「勇者です」

 んーと、勇者?この人は、何をいってるの??聞き間違いかなぁ?

「勇者?」

「はい、勇者です」

 聞き間違いでは無いようである。勇者本当に来てんの?嘘でしょ?

「そ、その勇者とやらは、どっ、どこにいるの?」

「まもなく、国境へさしかかるとの事です」

 いやいや、勇者って…。今時、勇者って、ないわぁ。勇者ってあれでしょ世界を救うんだ!って魔王を倒しに遠征するやつでしょ!?

 子供の頃、やるよねー、勇者ごっこ。

「…。ぷっ、ぷぷ」

「どうされました!」

 勇者を名乗っているなんて、おとぎ話じゃないんだから。

「続けて」

「はっ、勇者を名乗る者は、魔王を倒す!と宣言し、出陣。国境付近の街を出たとのことです」

 子供の遊びじゃないんだから。大の大人が、俺は勇者だ!魔王を倒すぞーって乗り込んでくるの、だめでしょそれ。勇者が、どや顔して歩いてるの想像したら…。

 駄目ですこれは駄目です。

「アハハハハハハハハハッハハハッ」

 魔王が、勇者の名前を聞き、笑い出したことに、ここに居る皆が騒然となる。

「アハハ、ほっといていいんじゃないかしら」

 もしかして、一人で来ちゃったりしてるのかしら。流石に、そ、それはないわよね。

「流石にそれは…」

「じゃあ、誰か適当にあしらってきてくださる?ふふふ」




 真っ黒な漆黒鎧を着込んだ魔人は、じっと、この若い魔王を見つめていた。


 どこからどうみても只の小娘である。剣技も魔術も何もない。しかし、只の小娘かと思えば、あるときには魔王の波動を見せつける。

 そして、勇者と聞きいても、この余裕である。いったい何が可笑しいのか笑い出す始末。得体が知れないとは、このことをいうのであろうか。

 あの娘と初めて会ったのは、城内の魔王城でのことだ。門前に立つその娘は、覇気を放つ我を一目見ても恐れを見せなかった。

 小娘であるが、魔王が呼び出したのだ、魔王の客人である。丁寧に扱うべきである、だが、

 その後の魔王に対する不遜な態度は不敬そのもので、我が主君である魔王をエロリジジイと罵声するその姿を見ても抑えて、一度目は軽く睨んだ。

 それでも只の人間には強烈とも言える覇気である。だが、全く動じていなかった。

 そして、二度目は、殺気を乗せた、只の人間なら、それだけで死ぬ。そういった殺気である、そしてその目線は、目が合うだけで死ぬ即死の眼光、死ぬことは無かったとしても、精神が崩壊するほどのものである。

 またしても、全く動じない。

 見た所、騎士でも無く、戦士でもない。なにかの訓練を受けたわけでもなく、そういった鍛錬をしたわけでもない小娘、それがそれに耐えたのだ、只者ではない、そう思うに十分だ。

 ただ一つ心当たりがあるとすれば、神の加護を受けている人間、七彩光。

 特に、七彩光は魔王と対立の存在、なぜそんな者がここに居る、どういうことだ。主君が指図したわけでもなく、ただの偶然で、神の使徒がここにいるものか?

 そして、この娘の見せた魔王の波動は本物だった。そして、理解した、只の偶然ではないと。


 この娘は、本物の魔王だ。




「ならば。私が行って参ろう」

 暗黒騎士が歩み出て、そのイケボを響かせる。

「わかりました。じゃあ、お願いします」

「御意に。この暗黒騎士アギセラスが、見事、その勇者。討ち倒してご覧にいれましょう」

 暗黒騎士は、跪き、最高位の敬礼でもって答え、そして、彼は、薄暗い王の間、その柱の影、その闇に消えるようにその姿を消した。



 ん?んんん?暗黒騎士さん、畏まり過ぎじゃないでしょうか。まあいいか。



「もう一つ報告があります。セーラン・ゴブリン治領にて、アレス聖光国ブラターリア辺境伯兵の侵入を確認しました。当該地区、ゴブリン斥候兵と交戦があったとの報告があります。そして、二名の捕虜を捕縛しました。また、同時刻、ジーマ・イナス帝国兵によるブラターリア辺境領セーラン大森林への侵入を確認しました」

 ゴブリンですか、人間族の私としては、ゴブリンは敵ですが…。私は王よね、ゴブリンも守らないといけない?でも私の領地の領土侵犯も許せないわね。

「じゃあ、越境行為をさせないよう警告と牽制。都市までの侵入意志ありならば排除。捕虜は殺さず保全して、大切な捕虜よ、喰わないように言い聞かせて」

 こんなものでいいでしょ。こう言っとかないと、侵入した人間を食べそうですし。



 あと、この椅子。座り心地が駄目です。エーデルライト王国の私のやつ、持ってこれないかしら?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔王になってから数週間、謁見の間で誰かに会って、執務室でまだ把握しきれていない。書類を眺めての暮らし。

 それ以外は、蔵書室でほとんど過ごしている。


 そしてある日の朝だ、目が覚めると体が重い。苦しい。動けない。

 目を開けると眼前に広がる二つの壮大な山岳。その合間に深い渓谷を望んでいる。


「なにしてるんですか?アヴェラさん」

「可愛いからぁん。抱きたくなるんですわぁ」

「離れてください。痛いです」

 起きると、サキュバスが私に抱き着いた状態になっていた。二つの大きな柔らかい物体にうずめられ息がちょっと苦しい。

 二対の柔らかな物体は、アウロラに押し付けられ変形し、ピッタリと吸い付いたそれは、私にその柔らかさを伝えてくる。

 羨ましい。

「(´・д・`)ヤダ」

「そんな顔でヤダとかいわれても駄目です。離れてください。何しに来たんですか、ずっと、私を抱き枕にしていたんですか」

「味見していぃい?」

「一体なんのですか。そして、何を食べたらこんなに大きくなるんですか、離れてください。本当に何しに来たんですか?」

 本当に何しに来て、どうして私の寝床にいるのか。

「じゃぁ。味見」

「だから、なんなんですか。わかりました。わかりましたから離れてください」

 一体なんの味見をするというのか。一瞬考え、一つの可能性に思い当たったがもう遅かった。すると、私の頭を手で押し傾けると、パジャマの首回り布を捲る。

「許可、もらったわぁん。頂きますね。あーん」

「え、ちょっと?何を?や、やめ――」

 アヴェラは、大きく口を開け、その犬歯をさらけ出すと、アウロラのその白い首筋に噛みついた。

「いたぁぁ!いぃい!」

 足をジタバタと蹴り上げ、逃れようとするも、体を密着させて、しっかりとホールドされた体を抜けださせることが出来ない。

 いたいですよー!歯が!歯が食い込んでますよ!味見ってそういう事なのですか!

「何するんですかやめでください!離、離してくだあぁ、んんーーーー!!!?」

 血を吸い上げられる、体を循環する血液が、首から抜けて出ていくのを感じる。今までに経験したことの無い感覚である。

 アヴェラは、足を絡めて、柔らかな太ももを押し当ててくる。あまりのことに全身の筋肉が緊張し、私の腰が浮き上がる。

 結果、豊満な胸部だけでなく下腹部も密着し、アヴェラの体温を全身で感じさせてくる。

「あ、んんー」

 アヴェラに捕えられた身体は、動かない。拘束する腕の中で僅かに震えてはいるものの、それだけだった。

 全く動かない身体、目が白黒して、瞳からは涙が溢れ、開けっ放しになった口からは涎が垂れそうになる。

 ―やばい、死んじゃう。いろいんな意味で死んじゃう。これは、王女としてダメだと思います。


「なにしてるんですかー?そろそろ。アウロラちゃんを放してあげてくださいねー」

 レリアーナの声。

「げ、魔女ぉ!?」

「でー、なにしてるんですかー?」

 抱き締められ吸血されていたところを、レリアーナの介入でなんとか開放してもらえた私。死ぬかと思いました。これはあまりにも酷いです。

「ぜぇぜぇ、私、もう駄目です。女の子としてなんか色々駄目になった気がします」



「襲ってましたよねー何故ですかー?」

「そこに、姫があったからよぉ」

 そこに山があったから見たいな言い方はやめてください。

 羨ましい肌色の霊峰がありましたが、私はそれに食いついたりしません。

「そんな、理由ーでですかー?」

 レリアーナちゃん良い子です。私のために怒ってくれています。私、感動で泣きそうです。

「でもぉ可愛くて、若い女の子の血は美容にいぃいのよ?レリアーナもそう思うでしょ?」

「確かにそうですねー。私もおいしく頂きたいですー」

 え?レリアーナちゃん?

「だからこそー、その子を好きにしていいのは、ポイントが貯まってからと、役員会議で取り決めましたよね。抜け駆けですかー?」

 いったいなんのポイント制ですか!?なんですかその会議、なんで私抜きで決まってるんですか。おかしいじゃないですか。私の感動を返してくださいよ。

 私は、驚きの事実に戦慄するのだった。



「それでー、アウロラちゃんは何故ここで寝てるのでしょうかー。自分のお部屋があるでしょー?それに、あそこなら、アヴェラに襲われないはずですよー?」

 魔王城の魔王城の部屋のことだ。確かに、魔王の私は、自由にあそこが使えるのだが…。

「だめですよ。あそこは、落ち着て寝れないですよ!一々家具が禍々しいですのよ!髑髏の錫杖だったり、髑髏の燭台に、なんだかよくわからない装飾の家具だったり、夜中に何か出てきそうな絵画。おぞましいのですよ。何より一番駄目なのは、ベッド。ベッドが硬いことです。それに比べて、ここは静かです」

「そーなのですかー。でもー今寝てたそれ、ベッドじゃありませんよねー、肩がこりませんかー?」

「体中が痛くなる硬いベッドのアレよりましです。しかし、これでは…。あ、そうですわ。改装すればいいのですわ」

 良くないものは変えてしまえばいいのだ。わざわざ、在るものを使わなくてもよいのだ。

「それはそれはー、城下に行きますかー?魔王権限で転送陣も使えるはずですー」

 何その便利アイテム、エーデルライトにもありませんでしたよ。

「本当に!?さっそく行きましょう!早く行って、パパッとを改装しましょう!」

「え?今なんて?」

 なんか、とんでもないものを聞かされたみたいな顔してるレリアーナちゃん。

「そんなことはいいから、行きましょうレリアーナちゃん。私に変なことするアヴェラさんは留守番です!」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 やって来ました城下です。


「まず、家具屋を探すわ!」

 流石首都というべき繁華街の賑わいである。商店が立ち並び、屋台が並ぶ一画もある。なかなかのものであり、祖国の城下と引けを取ら無い。

 全く違うことは、そこに行き交う人が、人間じゃなかった。角の生えた魔人や、トカゲ人や、獣人が占めている。


「護衛はどーしたのー?」

「連れてきませんでしたが」

「わかってますかー?ここは、魔族やモンスターがいっぱいの街ですー。私達、か弱い女の子二人が歩いてるよーにしか見えませんのよー?」

「よくわからないのですが、フラグというものが存在すると聞きましたわ」

「それは、気のせいですよー」


「どちらにしても、レリアーナちゃんに何とかしてもらいます。早くをなんとかしてください」

「わたしですかー?」


「うまそうな人間。しかもメス、一番旨いやつ」

「食っちまおうぜ!我慢できないぞ。ブホブホ」


 すでにお約束は守られていた。二匹の丸々と太った豚顔の魔族、オークが、行く手を阻んでいたのだ。

 そして、お約束のようなセリフを吐いている。

 一匹はもうすでに、だらしなく涎を口から垂らし、ブホブホうなっている。


「仕方ないですねー。えいー!ファイアー!」


 レリアーナの杖が光りだすと、オークの眼前で爆炎が巻き起こり二匹が吹き飛ばされた。

 弧を描きながら巨体が飛翔し、地面に落下する。脂肪が緩衝材になているのか、心なしか、少しバウンドしたように見える。


「やりやがったなてめえぇ」

「お前ら絶対に喰う!」

 一撃では、まだ、元気が残っていたようでプスプスと煙を上げながらも、威嚇して起き上がろうとしてくる。

 魔族だけあって、頑丈なようだ。それとも、派手に吹っ飛んだように見えて、実はあまり効いていなかったのでしょうか。だが、その直後、火を纏った岩石が落下し、オークの顔面に食い込んだ。

「「ブヒィイギャ」」

 流星という魔法らしい、なんにしてもこれで決着がついた。

 レリアーナちゃんの圧倒的強さ、一瞬である。




「レリアーナちゃん、オーク肉っておいしいって聞きました。私たちで頂きましょう」

 オーク肉、人間の国では、食材である。野生のオークは、人間を食べるので、ハンターが狩ることで旅の安全が守られ、そして、食肉屋に出荷される。

「悪かっだ、喰わないでくれお願いしまず」

「ブヒィブヒィィ」

 二匹のオークが命乞いをする。

「食べようとする割に、食べられる覚悟は、なかったよーですー」

「熊さんのところに持っていけば調理してくれるでしょうか?」

「そーですねー」

 熊さんとは、私の以前の職場の食堂の料理長である。

「やめでぐださい、たずけてください」

 オークが泣きながら、地面に這いつくばった。


「まーってまってくれ、うちの従業員なんだ、こいつらいなくなったら仕事回らないんだ、二人を許してやってくれ、たのむ。無理な相談だとおもうがこの通りだ」

 一人の魔人が走ってきて、二人とオークの間に割り込んできた、そして、頭を下げて許しをこうてくる。

 人を喰おうとしておきながら、自分が喰われそうになれば、許してくれとは都合のいい奴らである。


「どーしましょーかー?」

「この豚肉料理の代わりに、あなたは、何をしてくれるんでしょうか?」

「アウロラちゃん、この人、あそこから出てきましたー。工務店ですー」

 ここから見える、もう少し行った先に、金槌と鋸のマークがついた店があった。

「ちょうどいいです。うちの城の改装でタダで働いて貰いましょう」



「魔王城だとぉぉぉぉぉ!!!?」

「何か不味いでしょうか?」

「な、なにも不味いことはないが。むしろ魔王城を手掛けられる時点で、名誉なことというか、そうなんだが、もっと無理な要求をされるのではと構えていたというか」

「なら問題ないわね。慰謝料分は働いて貰わらないといけませんね、じゃあ、あとで使いを寄越して連絡するので、来てくださいますか?」

「あなた方は、魔王の使いか何かですか」

「本人ですけど」

 私の外見どう見ても魔王じゃないですよね。そうですよね。


「彼女が、本人ですねー」

「は?」

「アウロラちゃんアレだして」

 レリアーナの言われたように懐から例の玉を出すと、それが禍々しい光を放った。

「魔王ぉぉぉぉっおっぉ様!!申ぉぉぉぉし訳ございません。と、飛んだご無礼をおおおお!」

 魔人はその場で座り込み頭を何度も地面にぶつけた。

「あ、うん、大丈夫」




「改装は何とかなりそうですが、寝具です。最大の問題は寝具です」

 次は、寝具店である。先ほどの工務店から、おすすめの寝具店を訊き、やってきたのがここである。


「どのようなものをお探しでしょうか?魔王様」

 私が魔王であるという連絡は先ほどの工務店から行ってるんだろう。

 一般従業員ではなく、支配人が対応する。

「最高の素晴らしい寝心地のベッドです」

「そうですか、なら、これなんてどうでしょうか、最高級花崗岩を贅沢に切り出し、綺麗に磨き上げた逸品です。ひんやりとした感触とこの高級感多ただよう気品ある柄が人気なんです」

 平たく切り出された岩だ。

 こんなもので寝たら全身が痛くて仕方ないですよ!

「もっと、こう柔らかいのを」

「柔らかい…、ならば、こちらはどうでしょう、最高級藁です、通気性に優れ、弾力に優れた逸品です。この自然を感じる藁の匂いはまさに草原。食べてもよし、寝てもよし、とても人気のある商品です」

 牧草である。マットレスの原料は、よく藁を使われますが…。これは、そのまんまの藁である。

 牛じゃないんだから!!

「そうじゃなくて、ちゃんと加工したやつを」

「ならば、フェニックスの巣です。めったにお目にかかることのできないフェニックスによって、丁寧に編み込まれた珍しい逸品です。鳥族の皆さんには特に人気で、鳥の巣に使用される唾液は当然フェニックスのもの、一緒に編み込まれた羽によってたちまちに傷をいやしてくれることでしょう」

 デカい鳥の巣である。

 こんなもので寝れるわけがない。

「なんか痛そうですし」

「痛くなく、柔らかい物…。これです、最高級スライムベッド。魔法生物であるスライムのこの優しく持ち上げるような感覚、全身にまとわりつくスライムの粘液は貴方を優しく包み込みます。全身を這いずり廻り、時には揉み解し、貴方を気持ちよくしてくれることでしょう」

「いや、もうなんかそれ、いけないやつです」

 最後に見せたそれ、完全にダメな奴じゃないですか?私をどうしたいのですか!


「私の魔王領地では、良い寝具は手に入らないのかしら…」

 ここにある寝具はどれもこれも硬いか、藁そのままとか、なんかの動物の巣ばかりで人間の私には合わない。

「お力になれず、申し訳ございません。……ドヴェルグ族などいれば入れば最高の品が手に入るのですが」

「ドヴェルグ族ですって?」

 噂や、伝承でしか聞いたことのない種族。手先が超器用で、工芸品が素晴らしく、身長が小さい人だという事しか知らない。

 エーデルライト王国にもドヴェルグ製の工芸品が入っていたが、とても貴重でもあり、かなりの高額だった。

「ここから、北西の方角の先ー、大森林にドヴェルグ族の自治都市がありますねー」

 レリアーナちゃんは場所を知っているようだ、魔王領内であるようなので、なんとかいけそうである。

「決まりです。そこ行きましょう!」


 こうしてドヴェルグ族の都市行きが決まった。

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