5章-7
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
カオルの魔法を防いでいる魔王に向けて雄叫びを上げながらゴリアンが斧を振るうが、その攻撃は片手で受け止められてしまう。
……やはり強い。
だけど、ボクの攻撃まで受けられるかな!
両手が塞がった魔王の体を、剣で切り裂き傷つける。
「よし! 一撃入れたぞ!」
「……流石に四人相手では無傷とはいかぬか。だが、貴様等をまとめて返り討ちにしてしまえばこの場にいる人間共も絶望するだろう!」
魔王は受け止めていた斧をゴリアンごと持ちあげ、カオルに向けて放り投げる。
華奢なカオルではゴリアンの巨体に潰されてしまうと判断したレイリーが、カオルの代わりにゴリアンを受け止めようとする。
……しかし、勢いよく飛んできたゴリアンの巨体を受け止めることはかなわずに彼の下敷きにされてしまう。
「ゴリアン! レイリー! よくもやったな!」
体勢を崩している二人に攻撃させないよう囮になる為、魔王に連続で攻撃を仕掛けていく。
カオルの魔法による援護のおかげで、一人で戦っていた時よりもこころなしか余裕をもって戦えているように感じる。
「すまない、油断した」
ボクとカオルが時間を稼いでいる間に、体勢を立て直したゴリアンが前線へと戻ってくる。
「ゴリアンこそ、怪我は無かった?」
「問題ない、いくぞ!」
前線に復帰したゴリアンとの連携攻撃で魔王に畳みかける。
ボク達の隙をついた魔王からの反撃を受ける事もあるが、レイリーの回復魔法で傷はすぐに癒やす事ができる。
……しかし、四人で戦っても魔王に決定打を与える事ができない。
傷ついてこそはいるが、その体力が尽きる様子が見られない。
「……埒が明かないわね。一気に決めるわ!」
「二人とも! カオルの援護を!」
しびれを切らしたカオルが、杖先に魔力を集中し始める。
隙のできた彼女を庇う為にゴリアンとレイリーがカオルの前に立ち、防御の体制をとる。
ボクは魔王の前に飛び出て攻撃を繰り出し、奴の注意を引き付ける。
「時間稼ぎのつもりか? そんな事をせずとも人間の脆弱な魔法など受け切ってくれる」
「随分と余裕そうだけど、カオルの準備ができる前に倒されるなよ!」
時間稼ぎではなく魔王を倒しきるつもりで攻撃を続けていくが、その攻撃全てを受け流されてしまう。
……ボクの攻撃で止めを刺せればよかったけど、時間稼ぎだけでも充分だ。
「避けなさい、アリサ! これで止めよ! 『エクスブラスト』!」
カオルの持つ杖の先端から、強大な魔力の閃光が迸る。
カオルの合図とともにボクは後方へと大きく跳躍すると同時に、魔王に目掛けて剣を投げつけると身を伏せる。
「な、何だ、この威力は! まさか、この我がこんな所で――」
ボクの投げつけた剣は魔王によって弾き飛ばされてしまうが、これでカオルの魔法を避ける事はできない。
カオルの魔法が炸裂し、激しい爆発と爆風に思わず目を瞑る。
「……相変わらずの高威力。流石は勇者パーティーの魔法使いだぜ」
周囲の人達を爆発から守る為に障壁を展開しながら、レイリーがぼやく。
「アタシの使える最強の魔法。この威力なら、いかに魔王と言えど塵も残ってないはずよ」
魔法を撃ちきったカオルが呟く。
……もしこれで死んでいなかったとしても、かなりの深手を負っている筈だ。
しかし、その予想は外れてしまう。
魔法の衝撃で宙に舞っていた砂埃が晴れると共に、全身に傷を負った魔王の姿が露わになる。
「グ……流石に痛かった。だが、我を殺すには至らなかったぞ!」
魔王に弾かれた剣を拾い、全力で駆ける。
「それならボクが止めを刺してやる。覚悟しろ!」
魔王の元へ辿り着き、剣を魔王に突き立てようとする。
しかし、どこにそんな体力が残っているのかはわからないが、魔王はひらりと身を躱してボクの一撃を避けてしまう。
「貴様らに殺される気などない。……そちらもようやく本気になったようだし、我も本気を出すとしようか。喜べ勇者たちよ! ここまで楽しませてくれた礼だ。冥途の土産として、他の誰にも見せたことの無い我の真の姿を見せてやろう!」
「させるか! 今すぐに決着を付ける!」
ゴリアンと共に魔王に切りかかり、カオルが魔法を打ち込み、レイリーも手にしたメイスで魔王に直接殴りかかる。
「邪魔などさせぬ! そこで見ていろ!」
しかし、ボク達の攻撃は魔王の周囲に張られた障壁によって阻まれ、弾き飛ばされてしまう。
……障壁の中に存在する魔王の躰へと邪悪で強大な魔力が集まり、その姿を異形のものへと変化させていく。
「……みんな! もう少しだ! 本気を出したという事は、奴も追い詰められているという事! 最後の力を振り絞ろう!」
ここで怯んでは駄目だ。
仲間達を鼓舞して、士気をあげる。
ここまで魔王を追い詰める事ができたんだ。
必ず、魔王を倒す。
*
「あんた、随分酷い事になっていたけど大丈夫なのかよ」
邪魔にならない場所まで下がってアリサ達の戦いを見ていると周囲にいた人達から大丈夫かと声を掛けられる。
……そりゃそうか。
レイリーさんの回復魔法で傷が消えたとはいえ、先程まで死にかけていたんだ。
関係ない相手とはいえ心配もするだろう。
……今更心配するくらいなら、もっと早く助けてくれればよかったのにと思うけど、自分の身の安全が一番大事なのは仕方ない。
「この通り、大丈夫です。……死ぬほど痛かったけど。それよりも、あなた達は逃げないんですか? 見ての通り危険ですよ」
アリサの戦いを見届ける為にこの場に残っている自分が言うのもなんだが、周囲の人達へ逃げるように警告する。
アリサ達と魔王の戦いを見ていて、彼らは何故逃げようとしないのだろうか?
まったく意味がわからない。
「できる事ならそうしていたけど、残念な事に逃げられないんだよ。ここから少し離れた所に見えない壁みたいな物があって、それ以上出入りする事ができないんだ」
そういえば結界がどうこうと魔王が言っていた覚えがある。
アリサの仲間達が結界を破って侵入したはずだが、わざわざ張りなおしたのか。
「それでもなるべく離れていた方が良いと思いますよ」
「見えない壁の近くは、外に出れずにパニックになっている人が多くてな。壁の中で何かあったらどこにいても一緒だろうし、ここにいた方が何かわかるんじゃないかって思ったんだ」
僕と魔王が勝負している最中に外野はそんな事になっていたのか。
それどころじゃなくて、全然気が付かなかった。
その時だった。
轟音と共に、砂埃が辺り一面に舞う。
一体何が起こったのか確認する為、音がした方向へと視線を向ける。
……そこには、傷だらけになった魔王が立っていた。
しかしそのボロボロになった姿とは裏腹に、余裕のある表情でアリサ達に何かを言ったかと思えば、魔王の周りに黒い靄のような物が立ち込め始める。
焦った様子のアリサ達が攻撃を仕掛けて魔王を止めようとするが、その攻撃は魔王に届く前に弾かれてしまう。
そして魔王の姿が黒い靄に完全に包まれたかと思うと、その靄は今までの2倍ほどの大きさへと膨らんでいく。
「……今度は何が起ころうとしてるんだ。勘弁してくれよ……」
周囲の人達の嘆く声を聞きながらも、僕は魔王のいた場所を見つめ続ける。
黒い靄が晴れた時、そこにいる魔王の姿は先程までとはかけ離れた姿になっていた。
元々二メートル近くあった身長は三メートルをこえる巨体へと変化し、浅黒かった肌は漆黒に染まっている。
指先からは赤く鋭い爪、胴体からは蝙蝠のような見た目の巨大な羽が生えている。
瞳は赤く染まり鋭利な牙を隠そうともしていない。
そして、額からは二本の大きな角が天にそびえ立つように生えていた。
その姿はまるで悪魔のようであり、奴が魔王と称されるのも納得できる姿だった。
「これが我の真の姿だ……恐怖で震えろ、愚かな人間共よ! そして無謀にも我に挑んだ勇者たちよ、我がこの姿になったからには貴様らに万に一つも勝ち目はない!」
「ボク達を倒してから大きな口を叩いてもらおうか! たとえお前の言う事が本当だとしても、ボク達は退く訳にはいかない!」
魔王の挑発に対し、アリサは勇ましく啖呵を切る。
彼女の瞳に恐怖の色は全く無く、絶対に勝利するという強い意志が宿っているのを感じる。
「な、何だよ、アレ……化け物じゃないか……」
「絶対にヤバイよ、早く逃げよう!」
「逃げるってどこに!」
魔王の姿に恐怖した周囲の人々がパニックに陥る。
……本当なら、僕も恐怖で逃げ出していただろう。
「あんた、なんでそんなに落ち着いているんだよ? さっきので、どこかおかしくなったんじゃないのか?」
そう、自分でも意外に思うのだが不思議と落ち着いている。
魔王の姿を見ても恐怖心が全く湧かないのだ。
悪魔のように変化する様を目の当たりにしても今までに比べて随分不細工になったなとか、そんなどうでもいいような感想しか思い浮かばない。
「僕がおかしくなったわけじゃないと思う。魔王がどんなに変化したって、アリサ達なら必ず魔王を倒してくれるって信じてるんだ」
「……あんた達、何者なんだよ? 変な恰好で飛び回ったり、さっきまで大怪我を負ってたのに今は平気そうだし……普通じゃないぜ」
……今更な疑問じゃなかろうか?
とはいえ聞かれたからには答えないわけにもいかない。
「僕はどこにでもいるような普通の高校生だよ。特別なのは今あそこで魔王と戦っている彼女達だ。彼女達は皆を守り、魔王を打ち倒す勇者なんだよ」
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