第3話 水晶玉

クマの話が一段落ついたところで、マーレがゼストに話しかける。


「あなた。明日からアルスに魔法を教えるにあたり、ハミルさんの所に行きたいの。魔法適性を調べないと、どの属性の魔法が使えるか分からないから」


 ハミルは道具屋の女主人で、かなり歳を召された方だ。


 昨日、既に話を聞いていた事もあり、ゼストは二つ返事で了承する。


「えっ!! 僕、明日から魔法も教えて貰えるの!?」


 狩りの仕方だけでなく、魔法まで教えて貰えると聞き、更に興奮度が増していくアルス。


「そうよ。これから、道具屋のハミルさんの所に行って、アルスに魔法が使えるかどうか調べて貰うのよ」


 もうワクワクが止まらなくなっていた。


(僕、魔法使えるのかな? お母さんは魔法が使えるって言ってた。お父さんは使えるのかな? 聞いたことないや。僕はどうなんだろう? その為に調べるんだろうけど、魔法使えなかったらどうしよう……。お母さんをガッカリさせちゃうのかな)


 段々とワクワクが緊張に変わっていった。





「ハミルさん、こんにちわ」


「「こんにちわ」」


 ゼストが挨拶をし、二人も続いて挨拶をする。


「おや。珍しいお客さんだね。今日はどうしたんだい? あ、そうそう。クマ肉を分けてくれるそうじゃないか。ありがとね、ゼスト」


 どうやら、クマ肉の話は既に村中に知れ渡ってるようだ。


「いえいえ、どういたしまして。今日は息子のアルスが魔法を使えるか調べて貰いに来たんです。妻が言うにはこちらで調べられると言うんですが……」


 と、マーレに会話の主導権を渡す。話を振られた事で後ろに控えていたマーレが前に出てきた。


「なんだい、そんなことかい。それなら、ここで出来るよ。マーレもよく知ってたね。誰かから聞いたのかい?」


「いえ。前にこちらに買い物をしに来た際に、そちらの水晶玉が見えたものですから」


 と、視線だけを水晶玉に移す。


 尚、テーブルカウンターが邪魔でアルスには水晶玉が見えない。


「そうかい。そうかい。良く気付いたね。じゃあ、早速始めてみようかね。ただ、あたしゃ生憎あいにく魔法が使えなくってね。あたしが水晶玉に触っても何の変化も示さないのさね。マーレは確か魔法が使えるんだったかい? 先に水晶玉が反応するか、確認させて貰えるかい」


(やっぱり、魔法が使えない人も居るんだ。もしかして、使える人の方が少ないのかな?)


 アルスは隣りに居るマーレを見上げる。


 マーレはアルスの視線の意味に気付かず、首をかしげていたが、不安がってるのだと思い、大丈夫よとうなずいてあげる。


 ここじゃあなんだからと、ハミルは皆を引き連れて、店の奥に案内する。





(これが水晶玉……)


 アルスは、ゴクリ……。と喉を鳴らす。


「じゃあ、マーレ。お願い出来るかい?」


「はい」


 マーレが触れると、無色透明だった水晶玉の中で、青色と緑色が渦を巻くようになる。


「わっ! 色が変わったよ!」


「どうやら水晶玉はちゃんと反応するようだね。安心したよ」


 ハミルはホッと胸を撫でおろした。


「マーレはどうやら、水と風の魔法が使えるようだね。合ってるかい?」


「はい。私は水と風の魔法で、間違いありません」


 世界には六属性の魔法が存在する。すなわち、『火、水、土、風、光、闇』である。何の魔法が使えるのかは、水晶に現れた色で判断出来る。


 火はレッド。水は青色ブルー。土は橙色オレンジ。風は緑色グリーン。光は黄色イエロー。闇はパープル


 今回、水晶玉には青色ブルー緑色グリーンが現れた。つまり、マーレが水と風魔法が使える事を表している。


 それぞれの色は別になり、混ざり合ってはいない。


 魔法が使えるとしても、基本的に表れるのは単色である事が多い。二つの属性魔法が使えるマーレはまれといえた。


 それは、の影響だとも言われているが……。


「しかも、この渦の動きの速さからいって魔力総量も多いようだ」


 魔力総量、すなわち一度に行使出来る魔力の総量である。


 魔法は使用すると魔力を消費する。


 ただ魔力は、魔法使用後、徐々に回復していく。


 魔力総量は、魔力を使用した経験により、総量自体も徐々にではあるが、増えていく。


 すなわち今回の結果は、マーレの生まれながらの結果ではなく、経験も含めての結果である。




 アルスは、マーレが触れている水晶玉を食い入るように見つめていたが、視線をマーレに移した。


(お父さんだけじゃなくって、お母さんも凄いんだ!)




「水晶玉が問題ないと確認出来た事だし、アルスといったかい? 触れてみな」


 ハミルにうながされた事により、マーレはアルスの前に水晶玉を置く。


 マーレが水晶玉から手を離すと、また無色透明に戻っていた。


「アルス、触ってみなさい。どんな結果になっても、お母さんは構わないから」


「そうだぞ、アルス。お父さんもここで見ていてあげるからな」


 そう言って、ゼストは後ろからアルスの肩を抱く。




 アルスは自分の番が廻ってきた事で、心臓が早鐘はやがねを打ち始めていた。

 

 どっくん。どっくん。どっくん。どっくん。


 肩に触れている手を通して、心臓の鼓動がゼストに伝わってしまうかと思えるほどに……。


 何もしていないのに、喉もカラカラである。



(どうか。どうか。水晶玉に色が現れますように! お父さん、お母さんをガッカリさせなくって済みますように!)




 アルスはおそおそる水晶玉に触れる。


 すると……。






 水晶玉に現れた色は一色。

 だが、もの凄い勢いで渦を巻いていた。


「-----------」


「「「えっ!」」」


「お、お、お母さん、やったよ! 僕にも色が出た! やったー! やったー!」


 上手くしゃべれなかったのは、喉がカラカラだったためだ。


(良かった…。良かった…。良かった…。これでお父さんもお母さんも喜んでくれる。こんな綺麗な色、見た事ない! ……光ってる)


 アルスは褒めて欲しくって、ゼスト、マーレ、ハミル、三人の顔を交互に何度も見つめる。


 しかし、三人が三人ともアルスが触れている水晶玉から目を離せずにいた。

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