第2話 食べるということ

 そして翌日、三人は予定通りに麓の村に来ていた。


 ゼストは狩りで捕獲した獲物を売り払ったり、食材を買い込んだりする為、よく来ているが、アルスとマーレは久しぶりの来村であった。

 

「村長さん、こんにちわ。昨日、武器屋のトマスに仕留めたクマの解体を任せたんですが、状況はどうなんでしょう?」


「おお、誰かと思えばゼストさんでしたか。クマ肉を村にも分けて下さるそうで。村にはゼストさんほど腕のたつ狩人は居ないので、非常に助かります。そちらは息子さんですかな? いやはや、大きくなりましたなあ」


 アルスをあまり村に連れてくる機会も少ない為、感慨深いものがあるらしい。


「クマの解体の進捗具合の話でしたな。トマス一人では事足りず、今は村の女性陣も解体作業に加わってるようです。先ほどようやく皮を剥ぐ作業が終了したようですぞ。なんせ、あの大きさですからなあ。だいぶ苦労しているようです」


「そうでしたか。息子にクマの毛皮を見せてあげたいんですが、今どちらにあるか分かりますか?」


「それでしたら、村の広場で天日干しと虫抜きをしてると聞きましたな。広場に行けばすぐに分かるでしょう」


 剥ぎ取った毛皮はこうやって、天日干しと虫抜きをしてから使用するのが常である。


 村長さんにお礼を言い、三人は村の中央にある広場へ向かう。クマの毛皮はすぐに見つかった。


「アルス、これがクマの毛皮だ。どうだ? 大きいだろう」


「うん。凄い! おっきい! こんな形の動物、初めてみたよ」


 クマの毛皮を見れた事でおおはしゃぎなアルス。


 六才児には毛皮状態だとクマの元の形が想像出来ないのかもしれない。毛皮からクマを知れってのは流石さすがに無理がある。


「お父さん、こんなおっきい動物、どうやって捕まえたの?」


 未だにアルスにとって『狩りは鬼ごっこの延長的なもの』だと思ってるようだ。その辺の考えも改めさせなければと気付くマーレ。


「このクマは捕まえたんじゃなくって、アルスに分かりやすく言うと、お父さんがクマをやっつけたのよ」


「やっつけたって、クマは何か悪いことをしたの?」


「-----------」


(ハチミツ? クマはハチミツを食べちゃうの?)


「いや、そうじゃないんだ。クマは特に悪いことをしたって訳じゃあない。俺たちが生きていくのに必要だから、やっつけたんだ」


 と、説明するゼスト。更に説明は続く。


「アルスも毎日お腹がくだろ? その為には何か食べないとならない。それに肉を食べないとアルスも大きくなれないからな」


アルスは同年代の子供に比べて背が低い。アルス自身もその事を気にしていた。


「うん。僕、毎日お腹ぐーぐー鳴るし、大きくもなりたい」


「そうだよな。お父さんだって、お母さんだってお腹が空く。なので、今回お父さんがクマをやっつけたのは食べる為に必要だったからなんだ」


 続けてゼストは話す。


「これから話すことは、アルスにはまだ難しいかもしれない。ただ凄く大事な事なので、憶えておいて欲しい。例え今は分からなかったとしても、いつか分かる日の為に」


 ここで一度、アルスの様子を確認するゼスト。アルスも直感的に大事な話だと分かるのか、聞き逃すまいと多少顔が強張こわばってるような感じに見えた。


 ゼストはアルスの両肩を掴み、聴覚からだけでなく、触覚的にも憶えさせようとする。


「いいかアルス。『』って事なんだ。これはなにも肉に限った話ではない。魚にしろ、野菜にしろ、みんなそうだ。その命を頂いて、アルスは大きくなる。その事に感謝しなければいけないよ」


「うん」


「俺はクマの命を奪った。だからその命は大事に扱わなければいけない。家族三人だけだと食べきれなくって無駄にしてしまうかもしれない。今回、村の人にも分けたのは無駄にしない為なんだ」


「うん」


 アルスはそういう事だったんだ! と、大きくうなずく。


「アルスにも明日から狩りの仕方を教えるが、必要以上に狩りをしてはいけないよ」


 アルスは明日から狩りを教えて貰えると聞き、興奮しているのが見てとれた。

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