第10話
俺は新たな問題に直面していた。相変わらず自体に直面しないと問題を認識できない楽観的性格は悩みの種ではあるが、自分には甘く行きたいので無視しておく。まぁ目下の悩みというと……
「スザク、お前って何食うんだ?」
「キュー?」
あの後日課を終え、部屋を暗くし、眠りにつくまでは良かった。部屋を暗くしたあと謎の赤とオレンジの光がチラチラと壁や天井付近を舐めていたが、元引きこもり故寝付きが良かった俺はスザクを無視して寝ていた。そして起床し、朝食を取ろうとしてから気づいた。スザクの餌問題を。
危ないところだった、スザクが賢いので忘れていたが、飼い主として餌を与えなければいけないのであった。最悪もう動物虐待と不満を持たれても文句は言えない……
とはいえ、スザクは何を食すのだろうか。虫や小動物か?手乗りサイズなのでネズミを食うにも……
「よしスザク、言葉がわかるお前だからこそ使える技だ」
「きゅー」
「今から魔物や生き物が乗った教科書のページをペラペラめくっていく、餌のページで止めろ」
「きゅー?」
おいおい何言ってんだこの人間みたいに首を傾げられたがわかっているのか、お前の餌だぞ。早速本を広げると、覗き込むために俺の肩に止まる。ついでに俺の肩を啄むな。まさか餌は人肉だとでも言うのか。
……ありえるな、魔物って人間食う種類いるし。いやいや、しかしそういう魔物は大抵もっとストーリーでも先、終盤の魔王城近くにいるタイプだ。間違っても二頭の蛇程度に負ける裏山出身鳥ではない。
問題を解決する前の問題が解決したところで、本をパラパラめくる。挿絵がない部分は説明しスザクに聞くも全てのページで俺の肩を喙で突いた。
こいつ本格的に人間を主食として見て……と思いつつも別に俺の体に傷がついているわけではないのでそんなことはないのだろうとはわかってはいる。しかしだとしたら俺の肩を啄む行為に先を促すこと以外の意味があるのか……と思い立ち、一息吸いこんで気が付く。俺が一定の値・濃度に保ち外に出さないようにしている魔力が小さく、本当に小さく穴が開いていることに気付いた。それはちょうどキリで付いたような、というか小鳥が突いたような小さな……小鳥。
試しに普段やっている、魔力をこねくり回して遊んでいる物と同じだが、普段よりは小さく抑えた球状の魔力を出す。ピンポン玉程度のサイズのそれをスザクへ近づけると、嬉しそうな鳴き声をあげながら勢いよく啄み始める。
……餌代かからなそうでいいな。
◆◇◆
そんなわけでスザクの餌問題は解決した。今日は自由時間……つまり休日である。ゲーム内で休日というと、パーティーメンバーと過ごして絆を深める『お出かけ』、一日休むことによって訓練などの数値にバフを付けたり、次回戦闘時に効果を付ける『休息』、熟練度や経験値を得ることができる『訓練』のどれかを選ぶことができた。
……なんで現実となった今でさえ休日の過ごし方をゲームと同じようにしようと思ったんだ。休日なんだから好きに過ごせばいいじゃないか、と思っただろう。俺もスザクに餌をやりつつ食事を済ませ、そう自分自身につっこんだ。
しかしそこで、引きこもりだった故に毎日が休日だったので現実世界の休日の過ごし方がわからないという致命的欠陥に気付いてしまった。まさか己にそんな弱点があるとは……いや元引きこもりは結構な弱点だが。
とにかく休日の過ごし方なんて、この世界にはネットがないのでグーグルの検索ボックスに打ち込んでオシャレなブログを眺めることすらできない。インターネットなんて便利なものがないファンタジー世界で情報を集めるならばただ一つ、自分の足で集めるしかないのだ。
「Heyオクタ、『有意義な休日の過ごし方』」
「僕の部屋に来て第一声がそれ?」
貴族である俺と違い平民は2人で1つの部屋を使う。オクタの部屋に訪れると同室であるどことなく陰を感じさせる……確か帝国関連のサイドクエストがある男子生徒が、俺を一瞥し読書に戻った。
「休みって何すればいいんだよ。俺今までまともに休んだことなんてねぇぞ」
「まぁ珍しい考え方だよね。僕もこの学園に来るまでは連休、なんてこと考えたことなかったし気持ちはわかるよ。でもエインツ君は一応貴族なんだから、趣味とかないの?」
一応ってなんだ、貴族オーラ出てるだろ、顔面から。日に日にオクタから遠慮が取れてきている気がする。俺としてはいいことだけど。
「実家にいるころとかに習い事とかしてなかったの?楽器、絵画、天文学に数学なんてしてる人とかもいるって聞いたけど」
「そこら辺天才的だから片手間にこなしてきたんだよ、休みの日にまでやることじゃなかった」
「相変わらずぶっ飛んでるね……」
この身体のスペックが高いんだ、自慢じゃないが前世では運動も勉強も並み程度だったぞ。さすがはエインツとしか言いようがない。
「うーん、ゼクスとかは……ああ、同室の、この人のことね。彼は読書とかが趣味だよ。僕は授業の予習復習したり、軽く運動するくらいかな」
そういって視線で同室の、ゼクスという男子を指し視線を向けられた彼は軽く会釈した。読書はわかる、実家にいたころは前世では知りえなかった情報を本から得ようと必死に読み漁ったものだから。しかしオクタ、お前のは参考にならねぇ。真面目がすぎないか。
「とにかく学園から出て散歩でもしてみたら?それだけでも結構気晴らしになるよ」
「おっけー、足で稼いで来いってことだな。当初の予定通りだ」
よし行くぞスザク。散歩の時間だ。……お前はポケットにいるだけだから散歩でもないか。
◆◇◆
ベルティ学園前街。その名の通り学園に通う生徒、貴族、学園関係者に学園で行われる研究に招集されたり、それを視察しに来た軍の人間など様々な相手を対象に一気に発展をしてきた街だ。基本的にはショッピングや食事を楽しむ学園の生徒や関係者たちでにぎわっている。その街並みを行く人々の多さからも、学園の大きさがわかる。
そんな街の中央に設置された学園創立十年記念の噴水広場、その中に設置されたベンチに深く腰掛け、ため息をついていた。
「スザク……暇だな」
「きゅー」
おい火を出すな、バレるだろ。【確固不抜】によって無理やり火を押さえつけると、不満そうに翼をはためかせるので、指の腹でスザクの羽を撫でつける。気持ちよさそうに目を細め、指に戯れるスザクを見て癒されはするが、そんなこと部屋でもできる。
「オクタでも誘えばよかったか?でも勉強しているらしいからな……」
今から考えれば勉強を教えるなり一緒に勉強するなりも寮暮らしの休日の過ごし方としては悪くなさそうではないか。でもそこまで陽気なわけではない俺には読書をしているゼクス殿がいる場所でボケたりつっこんだりをしながら楽しくお勉強、なんてこと難しかっただろう。
俺ってよく考えたら友達少ないのか?最初に話しかけてきてくれたオクタを除いては、怯えているかやたらめったら下手に出てくる取り巻き希望のやつしか出会っていない気がする。
いやまぁ例外はいたが。クラスの女子、遠巻きに眺めてくる女子生徒と違いいきなり喧嘩を売ってきたやつがいた。
「エインツ・ルートルー!」
そうそう、こんな感じに……って、は?
ベンチに腰掛けた俺の背後から声をかけられ、背を支柱に首を上を越え、限界まで背側に倒し背後を見る。いやまぁ要するに後ろを見ただけなんだが、そこには強気そうなつり目、長い金髪を二つに纏め、腕を組みながらもこちらを見下ろす私服姿の少女、ミリアデラ・アズライトその人がいた。
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