第9話

 みすぼらしい姿をした小鳥は、確かに魔力が流れているが、その魔力も少し弱々しくなっている。二頭の蛇の毒は確か最大HPの32分の1ずつとかだったので、そこまですぐに死ぬようなことはないと思うが……


 二頭の蛇には悪いことをしてしまったかもしれない。確かに人間としての感情では小鳥側に憐憫の感情を抱くが、蛇も生きてるからな。餌を取る行為は別に悪いことではない。


 まぁ、すでに倒してしまったので、後の祭りだ。これも何かの縁というわけではないが、小鳥を救うとしよう。と言っても別に俺自身解毒の心得はない。この世界に解毒魔法はあるのだが残念ながら習得していない。ならばどうするのかというと。まぁいつも通り確固不抜君の出番なんですけど。もう便利すぎて自分でも困惑してくる。いいのかこんなもんが存在して。


 良くないから後半のストーリーで消えたんだろうなぁ……。


「キュー……」

「おっと、考え事してたわ」


 二頭の蛇の毒は魔力毒だ。自然由来……といえば自然由来だが、どちらかというと二頭の蛇のユニークスキルとも言える。つまり俺の魔力で毒が体に与える影響を固定することができる。


 小鳥の身体は俺の手の上に置かれる。毒の魔力が止まったことが確認できる。当然これは応急手当だ。俺が効果を解除した瞬間にまた毒は小鳥の体を蝕むだろう。なのでここから解毒剤を作る。


 手に小鳥を抱えたまま、山を登る。解毒剤の材料は確かこの山に自然に群生していたはずだ。まずは群生地を探す。少し歩けば見つかるはずだろう……早速見つかったわ。この間もはや30秒程度。このルートを偶然見つけたのでタイムを数十秒縮めることができました。


 解毒剤を作る草、その名も解毒草。ゲームならではだけどそのまんますぎる。確か一応ちゃんと草自体に名前があるんだけど解毒効果のある草はゲーム内でこれ以外使わないから解毒草としか言われないんだよな。

 ギザギザとした葉は緑と紫の中間色を取り、その葉の中心を通る葉脈は黒。とんでもない毒々しい色をした葉だが、これが解毒草である。


 と言ってもこれを直接食べたり飲んだりしても見た目通りの毒状態になる。これを解毒剤にするためには……なんだっけ。


 思い出した、まずはすり潰す必要があるのだった。解毒草をいくつか片腕で摘んでいく。この際一般人は茎から滲む紫色の汁に触れた後に粘膜には触れないようにしようね。お兄さんとの約束だよ。目とかは最悪失明します。


 これを石などで潰すのは小学生まで……とはいえ専用の道具なんて物はサボり中の俺には当然ない。ならばどうするか?


 まずは手元に教室で出していたものと同じ魔力を出す。次にそれをミリアデラとの模擬戦のように捏ね、窪ませる。そして窪んだ部分へ解毒草を置く。これで台が……当然魔力の塊が持つ性質、斥力やら何やらで解毒草とその汁がスプリンクラーのようにぶち撒けられた。

 うん……咄嗟に小鳥を体の影に隠して正解だった。というか誰だこれでできると思ったやつ。蓋のないミキサーにぶち込んだらそりゃそうなるさ。


 というわけでミキサーというところから着想を経て、今度は縦長にしつつ蓋を付けてみました。蓋というが解毒草が底に達する前に上からも魔力を被せる力技仕様だ。

 魔力細工が得意になってきたことに口角を上げつつ、今度は解毒草を余さず潰す。


 ……どうやって取り出そうこれ。蓋開けたらその瞬間同じこと起きるよな。とりあえずそのままにして地面に置く。倒れたりする心配はないが、気を付けないと地面ごと爆散するので意識を逸らさないようにしなければ。次に薬草だ。これはポーションの材料にもなる草で、種類があるので名前も覚えている。シレノクサだ。この山は当然生息地であるし、大きな木の下を見れば結構な確率で生えている一般的な薬草だ。


 こいつの花を火にかけ……


「しまった、火がない」


 思わず口からこぼれてしまった。うーん、どうしようか。今から街までひとっ走り行くか?鳥を持ったままだと負荷がやばそうだから置いていくしかないが、置いていったら数十秒で餌行だよなぁ。


「きゅ…」


 ここは俺の筋力に物を言わせて摩擦熱で……と枝を手に取ると小鳥が口から炎を吐き、枝に火をつけた。おいおい、やるな。魔物とはいえ火を吐けるとは思わなかったぞ。


 火さえあれば問題ない。手ごろな大きさの石の上に薬草を乗せ、熱を加えていく。すると熱に弱いシレノクサはだんだんと液状化、つまりとろけてくる。ここに解毒草の汁を足していき練っていくと……結局枝と石でほとんどやってるわ、魔力ミキサーなんで作ったんだ。


 一人でいると現れる引きこもり時代からの癖、自分に対するツッコミをしながら青色のとろみがある液体、これの余熱をとれば完成だ。


「ほら小鳥、お前さっきから人の言葉わかってるだろ。解毒薬だぞ」

「きゅー」


 小鳥に解毒薬を近づけると弱弱しくも嘴で啄み、嚥下していく。ここで毒の魔力の固定を外すと、解毒薬の魔力と合わさり無害な魔力となっていく。そしてシレノクサには微量の毎ターン回復……リジェネ効果の付与がある。毒の効果が完全に消えると次はリジェネが始まり、小鳥の少ないHPであればいずれ動いても問題ない程度に回復するであろう。


 その証拠に少しの間見守っていると、毒が打ち消されだした瞬間にみるみると傷が塞がり、広げた翼の下、羽の隙間から小さい火が漏れ出てくる。何それカッコいい。

 数度翼が空を打つと、小鳥の体を空にあげる。一度宙へ浮かんだ小鳥は小さかった火が勢いを増し、その体を宙へ固定する。ジェット機か?


 治ってよかったわ、達者でな……


 そう心の中で語り、首は頷き、自分でもわかるほど満足げな顔をして、片手を挙げ小鳥に背を見せ去る。ふっ、いい気分転換になったぜ……と山道を歩いているとちりちりと熱を感じる。ハッキリと何が起こっているか確信は持てるが、観測したくないので無視して歩みを早めると頭の上にぽふっ、と何か小さい物が乗った気がする。


「おい小鳥、はよ親のところに帰れ」

「きゅー!」


 首を上に向けると、かぎ爪でつかんでいるわけでもないだろうに頭の上から離れないので、視界には映りもしない小鳥が高く鳴く。さすがに魔物を学園に持ち込むのはなぁ。


「帰る気ないのか」

「きゅ!」


 それ肯定でいいのか?


「まぁ、バレなきゃいいか」

「きゅー!」


 今度は高く鳴きながら翼をはためかせる。喜んでるのかな。俺も愛着湧いてきてしまったのは確かだ。こっちの言葉がわかるくらい賢いんだから最悪バレた時用に、普通の鳥の真似をしててもらおう。ペットの持ち込みくらいは許してくれるだろう。


 ただ頭にいるとバレるからポケットの中に入っててもらった。たまにチリチリと熱を持つ、息苦しくない程度には顔出していいぞ。


 ◆◇◆


「ただいまー」

「エインツ君おかえり……帰りのHRギリギリだね。そしてなぜ律義に窓から」

「玄関口に教師いたらなんか気まずくなるだろ」


 実際巡回の教師かなんかはうろついていたぞ、生活指導室に生活指導担当の教師がいる時点で、そういうことが起こりえるという危惧にはつながる。俺は優等生でありたいわけではないが、不良でありたいわけでもないんだよ。

 じゃあサボるなって?いや授業は受けたくないし……


「ところでオクタ、ペットの名前を考えてくれ」

「えっ、うーん、そんなこと言われても……急にどうしたの」

「いやペットを飼おうと思ったのはいいんだが、冷静に考えてみたら俺は今までの人生で動物を飼ったこともなければ名前を付けたこともない」


 本人……じゃなくて本鳥にはキューキュー鳴くしQでいい?って聞いたらポケットが燃えかけた。魔力なので反射的に無効化したが、危うくポケット部分に穴が開いた改造制服になるところだったぞ。

 理由を告げるとオクタは困ったように苦笑し、「そういう時はどんな名前でも、自分で考えてつけてあげたほうがいいよ」と言われた。それが拒否されたんだよなぁ。


 うんうん唸りながら帰りのHRを過ごし、ルートルー伯爵と繋ぎを持ちたい有象無象をあしらい、サボったことに文句つけたそうなミリアデラから逃げ出し寮の自室へ戻る。部屋に入った時点で小鳥はポケットから飛び上がり、ホバー移動している。やがて衣装をかけるラックのようなものを気に入ったのか、そこに留まった。


「うーん、お前の名前何がいいかな……自分のセンスがないことがわかっているからこういう時悩むんだよな。Qでもいいと思うんだけど……」

「きゅー」

「火の鳥、鳳凰、朱雀……スザクとかどう」

「きゅー」


 それでいいよと言わんばかりに鳴くと羽づくろいし始める。ちょっとカッコよすぎな気もするけどこれでいいか。


 というわけでペットを手にした。

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