第11話
スザクと戯れながらもあと半日以上は残っている休日の過ごし方について、脳内に浮かび上がる問題をこねくり回していると、なぜかミリアデラ・アズライトと出会った。彼女一人かと思ったがさすがに学園前街とは言えそれほど不用心なことはなく、いつも通りタリヤ嬢も控えていた。二人とも私服姿だが、どちらもゲーム内では見ることがないものだ。
「って本当にエインツじゃないの、こんなところでいったい何してるの」
「休日の過ごし方について考えるって休日を過ごしてんだよ」
「意味がわからないわ……」
額に手を当て、頭を振る。俺自身悩んでるけど、要するに暇潰しているんだよ。
なんてこと言ってやりたいがこちらをなぜかライバル視しているミリアデラの前でそれを言えば、鼻で笑われそうで嫌なので詳しくは言わない。
「ちなみにこちらはお嬢様の気まぐれに付き合い、金銭を消費することに尽力していました」
「おいおい下々の者に慈悲として金をばら撒いてきたってことかよ」
「言い方!?ただ買い物していただけでしょう!」
主従とはいえ学園の休日にお洒落して女子二人で買い物……青春してるな。もしかしてだが学園の生徒で暇しているの俺だけなんではないか?そんな被害妄想にすら襲われる。
俺も買い物でもするか……
「というかあなた、その、指の……」
視線が宙を彷徨う。ある一点で止まったり、見つめ続けるのに躊躇ったのか視線を外す。俺自身何を言っているのかわからずに指を見ると、そこにはピンと伸ばした指を止まり木にするスザクがいた。ああ、スザクのことか。
「うちのペットだ、攻撃するなよ」
「しないわよ!私のことをなんだと思ってるのよ!」
「喧嘩吹っ掛けてきた人」
「うぐっ……」
最初の絡み以降、これを言うと精神的ダメージを与えられるらしく、これを言うことで今まで撃退してきたが、今回ばかりは俺よりもスザクに興味津々らしく、引かない。それはミリアデラだけではなく、隣にいるタリヤまでもスザクを見ていた。
「フワフワの毛玉みたい……」
ミリアデラは遠くから小さくため息をこぼした。どうやらスザクのフォルムは彼女の審美眼に適うものだったらしい。
そういえばスザク、お前なんか羽増えた?
感情的に見つめるミリアデラとは対照的にタリヤは顎に手を当てながらスザクを間近から観察する。
「ここらでは見ない品種ですね。トリン領では一般的な品種なのですか?」
「いや、裏の山で偶然保護しただけだ、家でも見たことはない」
「なるほど……それにしても賢い子ですね」
そういいながら観察を続けていると、スザクがピョンと跳ね俺のポケットの中に入る。そしてポケットの中に小さな熱源が発生する。火はやめい。
飛びながら炎を撒き散らすやつそこら辺にいてほしくないなぁ。成長したらお前どうなるんだ?
スザクが隠れたことに落胆すると同時に、ポケットの中に入ったことが愛らしく見えるのか、身悶えをするミリアデラ。
「くっ……その子なんて名前なのかしら」
「スザクが隠れたからって俺を睨むなよ……」
「スザクちゃんって言うのね!」
隠しておくとうるさそうなのでポケットから促す。あまり気は進まないのかいつもより精彩さにかけたのそのそとした動きで肩に止まる。
「エインツ様は寮住まいでしたよね。寮でこの鳥を?」
「ああ、と言っても餌やってるくらいしか世話してないけど」
「スザクちゃんウチに来ない?そいつより待遇よく迎えることは保証するわよ」
すぐに引き抜きをかけるな。裏山で探して来いよ、いるのか知らないけど。
よほどにスザクのことが気に入ったらしく、会話を途切れさせても中々離れようとしない。というか俺の隣、結構近くに座っているので、なんというか圧がすごい。周りの視線もペットを餌に女子二人を侍らせている男を睨む男、って感じで辛いし。
それじゃあ……と席を立とうとしたその時、俺の指に止まっていたスザクがぴょん、とミリアデラの肩に乗る。それを見て乗られた方は、声にならない声をあげながら恐る恐る壊れ物に触るかのようにスザクの羽の感触を確かめていた。
「ふわぁ……」
「タリヤ嬢、俺はそろそろお暇したいんだが……」
「申し訳ありません、ミリアデラ様もこういう時、お譲りになられない方なので……」
主人を諫めるのも従者の仕事なんじゃないかなぁ。スザクも俺以外の人とふれあえて楽しいのか羽をパタパタとしながら喜んでいる。
「ではエインツ様、よろしければ私と少し歩きませんか?」
どうにかしてスザクを回収できないかと目論んでいると不意に思いがけない提案をされる。タリヤ嬢と二人で?
「実は今少しお嬢様が購入される予定のリストが埋まっていないのですが、お嬢様はこの通り……」
「ふわわぁ…ふふっ…」
「今少し脳味噌が埋まっていない状態ですので、エインツ様には申し訳ありませんがスザク様をお貸し頂ければと……」
言語化できない言葉を放ちながらスザクと触れ合うミリアデラに対して毒を吐くも、それすら聞こえていないのか反応すらない。確かに役に立たなそうだけど。
「まぁ暇ではあるしいいが……」
言外になんで俺?という雰囲気を立てていると、ふわりとスカートを翻しながら微笑んで言う。
「少しエインツ様とお二人で話してみたくなったもので」
タリヤ嬢!めっちゃ女子っぽいですね……!主人と違って…!
もし前世の世界に戻ったらタリヤ嬢に人気投票入れそう。
◆◇◆
「まぁ本音を言いますと、学園前の街とて治安の良し悪しはありますし、私のような者は狙われやすいので」
「知ってました」
ゲーム的に言うとトラブルイベントだ。喧嘩に巻き込まれたり、学園の生徒と知らず絡んできたり、不良が喧嘩売ってきたりすることがある。華麗に解決すると好感度が上がったりアイテム貰ったりとプラスのイベントが発生する。
実際に発生する確率は極稀ではあるものの、そこはタリヤ嬢が言うように治安の良し悪しだ。確率で貴重なポーションの材料が並ぶ店、といったリスクがあるがハイリターンの店は街の奥や路地などに設定されているというだけである。中にはそういった雰囲気の場所を嫌い、休日イベントでそこへ連れていくと好感度が下がるパーティーメンバーもいた。
ゲーム的に仕方ないのかもしれないけど、周回要素やDLCなどでレベルが大変なことになっている主人公とかでも絡んでくる不良とか何を考えていたのだろうか。世紀末のモヒカンでももう少し喧嘩を売る相手は選ぶぞ。
「それで、ミリアデラのおつかいリストは?」
「えー、ヒュドラの鋭牙、毒山羊の胃石、炎天草……」
俺が記憶する限りそれは強力な毒薬の材料ばかりだったと思うのですが、なぜ必要なのでしょうか。なんてことは口に出せない。なぜならばその毒薬は強力なため、合成方法は秘されている設定だったはずだからだ。ゲーム後半のサイドクエストで知ることはできるが。少なくとも伯爵家の嫡男程度が知っている情報ではない。
「は、はーん。何に使うんだ?」
「御実家で使われる用ですね……何に使うのでしょうね」
そういうとタリヤ嬢は何か含むところがあるように微笑んだ。そして少し歩幅をあげ、かつかつと先へ進んでいく。そういえばタリヤ嬢の実家、ウェルド家は暗殺術も教えられるんだっけな……あれ、そうなるとミリアデラの実家ではなく、タリヤ嬢のご実家からのおつかいか?でもさっき……
と思考を巡らせていると、不意にタリヤ嬢の足が止まる。どうしたのかと前を見ると細い道の十字路、その角に人がいる。それだけなら通行人だろうが、なぜかこちらからの死角となるその位置に立ったまま動きを止めていた。
「エインツ様」
「二人、だな」
タリヤ嬢もさすがに従者、敵意には気付いているようで聞こえぬようにこちらへ耳打ちしてくる。魔力はそこまで高くない。恐らく遊ぶ金欲しさに若者を脅そうという程度のチンピラ……
しかしこれは、先ほど考えていた通りだろう。トラブルイベントだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます