第7話
え、まだやるのという俺の顔と、タリヤの顔がシンクロする。ミリアデラは詠唱を開始し、魔法陣の輝きが増す。先ほどまでよりも足元に広がる魔法陣は巨大で、詠唱も長い。もし剣士が止めようとした場合ギリギリ届かない絶妙な位置だ。
それに先ほどは片腕で放っていた魔法を、今度は両手を前に突き出している。これはまさか。
「【
並列詠唱。片手や一つの杖で放つ魔法を両手で放つことにより二倍以上の数打てるようになるスキル。そして
マジックミサイル、結構序盤のダメージソースとしては優秀なんだ。主人公パーティーの魔法使いが初めて手に入れる範囲攻撃だからな。その分並列詠唱を含むから消費MPが多い。
当然だが、敵方が放ってくることはないので少し感動するぜ。主観で襲われた際のエフェクトって見えないので。
ここまで余裕ぶっているのにも理由がある。飛んできている矢の数は10程度。
例え全弾命中してもちょっと痣になるくらいだろう。つまり大したダメージではない。とはいえ、積極的に痛い思いをしたいわけでもなく。
まず一つ、先頭を進んでいた矢をこちらから前に進み、掴み取る。次に反対の手でその後ろを飛ぶもう一つをつかみ取る。そうすると両手が埋まるので、【確固不抜】の力を使い、魔力の矢を魔力で固め……?
何言ってるかわからないが、チョコでコーティングしたようなものだと想像してくれればいい。矢を投げ、他の矢を打ち落とす。2回ほど繰り返し全ての矢を打ち落とすと、地面に落ちる前に何個か拾って手でこねる。
こねることができた。魔力の矢を球状に丸め、手のひらで成型する。泥団子を作っている気分だ。泥が魔力で、砂が自分のユニークスキル。不定形な
「ほっ、はっ……」
足の甲、膝、体や頭を使って玉を地面に落とさないように蹴り上げ続ける。高く蹴り上げ、次は手に持ってドリブルする。この辺りに至った所でミリアデラは両腕を地面について打ちひしがれていた。
地面を魔力が弾むたびに削れて行く。たのしー。
◆◇◆
「認めましょう……あなたが今年の首席に相応しかったと」
「お嬢様、足が震えております」
「ふふふ震えてないわ!武者震いっていうのよ!」
あの後ボールを使ったトリックを見せつけ続け、再起したミリアデラの足元へ向け魔力ボレーシュートを叩きこんだ。その段階で降参とタリヤからのストップが来た。
そして俺は凸凹になった地面をローラーを引くことで均している。攻撃魔法打ったのはあっちなんだけどな……闘技場の床、どうにかして再生とかするようにしないか?
「お嬢様もお手伝いなされたらどうですか?」
「嫌よ」
「元はと言えばお嬢様がエインツ様に無茶を言いなさったのが原因であるのに……ああ、おいたわしや。お嬢様のご実家の方々にはなんとお伝えすればいいのか……」
「わかったわよ!手伝えばいいんで……ってもう終わってる!」
「俺はローラーのプロだ」
前世だがローラーで床塗ってたからな。ゲーム内だけど。いや、今もゲーム内みたいなものだし間違いではないのか?
「で、なんで喧嘩売ってきたんだ?」
「あなた、結構口悪いのね」
「親の前だと綺麗になるぞ…そんで?」
こんな感じに喧嘩を売られるのは正直めんどい。ミリアデラが特殊なケースなら別にいいのだが、もし俺が知らないところで恨みでも買っているのだとしたら対処しなければいけないしな。
「お嬢様は入学前は首席入学確実……そう謳われていらしたのですが、現実にはエインツ様が首席として入学されました。と言っても入学時の話、学園生活で追い抜かせばいいと仰ったのですが……」
タリヤが言いづらそうにするミリアデラの言を代弁する。
「追い抜かそうとする段階早くないか?」
「常に同年代では一番でいらっしゃったので、恐らく……」
「タリヤすとぉっぷ!私がすごい恥ずかしい感じになってるわ!」
「嫉妬から決闘を挑み、躊躇なく攻撃魔法を撃つ。そのうえで怪我させられないように降されることは間違いなく恥ずかしいので、問題ありません」
顔を真っ赤にして俯いた。ちやほやされてて自信満々だったけどいきなりポッと出てきた男に一番を奪われたと……ありがちだなぁ。
俺は俯いているミリアデラに向けて、親指を立て笑顔を作る。
「俺はありがちな展開好きだぜ!」
「タリヤ、私の仇を撃ちなさい。物理的にあの男を黙らせて」
「エインツ様の相手、お嬢様が無理だったのに私では到底無理かと」
寸劇を繰り返していたところで、授業の終了を告げる魔法の鐘が鳴り響く。俺たちの行動は結果的に自主練で模擬戦をしていたということで授業態度にマイナス評価がつくようなことはなかった。
今日あまり動く気なかったんだけどな、ちょっと調子に乗って動き過ぎた。この後の授業大丈夫かな。
◆◇◆
【Side:ミリアデラ・アズライト】
授業が終わり廊下を歩く私の隣を、タリヤが静かについてきてくれる。校舎に入った段階で空調を整える魔道具が、初春にしては暑くなった今日の空気と、血が上っていた私の頭を優しく冷ましてくれる。
エインツ・ルートルー。ルートルー家の麒麟児として社交界でも話題には上がるが、秘蔵っ子なのか噂だけなのか、中央の社交界で姿を見せることはなかった。控えめに言ってもルートルー伯爵の贔屓目だろうと、身も蓋もない言い方をすれば実績もないのに何をと思われていたその嫡男。ルートルー伯爵に対する信頼だけが噂の火元だった。
私の同級生だということは知っていたし、私も噂だけが先行しているタイプだろう、実際に相対すれば家格も、実力も、全てが勝っているのだとあの頃は自信を持っていた。
「完敗でございましたね」
「タリヤ、ちょっとは主人を気遣おうとか思わないの?」
「気遣ったうえでこれでございます」
ぐぬっ、と言葉に詰まった。この真顔を一切崩さず、躊躇なく毒を吐くが、有能であるタリヤが私に現実を押し付けてくる。そもそも入学していきなりの決闘など反対していたから、私が強硬手段に出たのに内心不満なのだろう。
手も足も出なかった。首席を取られたという不満があった、実際の戦闘では私のが上だという自信があった、話してからの飄々とした、悪く言うと軽い言動に苛立ちもあった。
「お嬢様は……控えめに言わして頂いても少々直線的すぎますね」
「隠さず言うと?」
「脳筋ですね」
折角冷めた頭にまた熱が戻ってきた。タリヤを睨むといつも通り涼しい顔をしている。はぁ……
「ただ、あれは規格外ですね」
「そうよね。所詮噂は噂と思っていたけど……」
「しかしお嬢様、よかったではありませんか」
とタリヤが本心からの声を上げる。主人が負けたというのに何がいいというんだこいつは。と半目で睨んでいると
「昔から同年代の殿方を『
「げふっ、ごほ、ごほ!」
それは言ったけれど!ただ貴族というのは家の繋がりもあって。それに小さいころの話であって別にと早口で口から漏れ出す。
「家格も十分、年齢も同じ。ルートルー伯爵家も勢いがあり、エインツ様本人の資質も」
「バカバカしい……ほら、着いたわよ」
タリヤに続きを言われる前に教室の扉を開ける。あー、顔が暑い。
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