第5話

トロルを倒しルコットナルムに帰ってきたアデラとシーグリッド。


「ただいまー」


家の玄関の扉を開け中に入る。


「おかえりー」


帰ってきた二人を出迎えたのはリサだ。


「あーリサ、帰ってたんだー」


「そうよ、待ってたよー」



リサ、年齢は19歳

ダークブラウンの髪を持ち、パフュームメンバーの中では一番身長が高い。

専用武器は少し特殊で『弓剣』と呼ばれる剣にも変形可能な弓と矢を使い戦う。

そのため『弓戦士』という名称で呼ばれているが、リサ自体は狩人戦士(ハンター)を自称する。

パーティー内では唯一遠距離攻撃が可能なため、空飛ぶモンスターと戦う時や後方支援要員として重宝されている。



「お疲れ様ー」


リサはキッチンルームからコップに水を注いで二人に手渡した。


「ありがとう」


そう言うと二人は一気に飲み干す。

さすがに喉がカラカラだったからだ。


「あー、疲れた」


そう言うとアデラは玄関の傍に置いてある椅子に座った。

同じくシーグリッドも座る。

とりあえずお風呂の用意が出来るまではここで座って待機である。


「サンドイッチあるよー」


ニコニコしながらアデラに話しかけるリサ。


「ああ、あるなら貰うよ」


「シーグリッドは?」


「ああ、私も貰う」


「待ってて」


そう言ってキッチンルームに向かった。


「あー、何か帰ってきたなー…て実感する」


「だ……!」


言いかけてシーグリッドは階段から一人の女性が二階から降りてくるのを見た。


「……」


顔にやや笑みを浮かべ、ゆったりとした動きで一階に来たその女性はシーグリッドに近づいてくる。


「お疲れ様」


ゆっくりとした口調で言う。

ヴィオラとはまた違う落ち着きのある雰囲気と声だ。


「ああ…ありがとう」


シーグリッドはやや雑な声でそれに応えた。


「おひさー、ディアナ」


片手を胸元まで上げて応じるアデラ。

それにディアナと呼ばれた女性は微笑んだ。



ディアナ、年齢は20歳

ゴールドの髪とブルーの瞳を持つ『聖戦士』

白金の鎧に身を包み聖剣を武器に戦う。

シーグリッドが持つ闇の闘気(オーラ)の対極に位置する光の闘気(オーラ)の使い手。

その戦闘能力はパフュームの中でもシーグリッドと並び最強の一角とされる。

一応パフュームのメンバーではあるが本業は別にあり、冒険参加数は少ない。



「はいアデラ、これどうぞ」


キッチンルームからサンドイッチを皿に乗せて持ってきたリサはアデラに差し出す。


「ありがとう」


「どういたしまして、はいシーグリッド」


「ああ、ありがとう」


リサから渡されたサンドイッチを食べながらアデラはディアナに聞いた。


「ディアナ、本業の方どう?、忙しい?」


「忙しいわ、何かとね」


「まぁ、それは良いことかな」


「でもないわよ、何も考えずに眠りたい時もあるしね」


「そりゃお疲れ様だ」


「本当に…髪が全て抜け落ちそう」


「ストレスによる抜け毛?」


「最近は多いわ」


そう言うとディアナは自分の髪に触れた。



お風呂の用意が出来たので先にシーグリッドが、次にアデラが入る。

とはいえあくまでも旅の汚れを洗い流すぐらいの簡単なモノだ。

浴槽に肩までゆっくりと浸かる長風呂は夜に行う。


パフュームの家は剣の王国の暮らしを踏襲してはいない。

外見や内装は似たようなモノだが機能が違う。

キッチンで使う火・水、バスで使う水・お湯、トイレで使う水洗、夜の照明…それらの機能は全て『魔導国』の技術が使われ、極めて快適な空間になっている。

暮らしと言うならば王国は魔導国に比べ100年の差があるとされ、かなりの後進性を持つ。

最近では魔術が大の嫌いだった老齢の王が亡くなり、新たなる現国王の下で魔法による先進文化と最先端技術を積極的に取り入れ始めようという動きも見られが、しかしそうそう遅れは取り戻せる訳ではない。


「良い気分だな~」


頭や体を洗い、泡を流しながらアデラはお湯を楽しんだ。

やはり家が一番落ち着く。



「さっぱりした」


タオルで頭を拭きながらアデラはバスルームからリビングルームに出る。

見るとソファーにはシーグリッドとディアナとリサ、それにいつの間にか帰ってきているヴィオラが座っていた。


「ご苦労様」


コーヒーを飲みながらヴィオラが言う。


「あー、ただいまー」


「宝箱は下ろしておいたわ」


「あー、サンキュー」


アデラはシーグリッドの隣に座ろうとしたが、リサが隣の空いている所をポンポンと叩く。


「あー、悪い…」


そう言うとアデラはリサの隣に座った。

そしてディアナが口を開く。


「宝箱の中身は見たわよ、結構な数の宝石類ね」


「だよねー、すごいよ!!」


「あー、予想外に大量だ」


頭を掻くアデラを見ながらヴィオラはコーヒーカップをテーブルの上に置いた。


「とりあえず細かい分類作業は明日からよ、今日は夜にご馳走とお酒を取り寄せましょう」


「今夜はパーティーね」


手をパンッと叩き喜ぶリサ。


「酒って事は今晩は泊まりか?、ディアナ」


「そうよ、迷惑かしら?」


「いやいや、まさか」


「たまにはパーっといきましょうよ」


「そうそうパーっといきましょう!」


「ははは…」


本来ならばこういう時は外に出て食べに行くのだが、ディアナの都合上それは出来ない。

それにこの都にはディアナ本来の家があるため、基本的にはパフュームのこの家には寝泊まりはしていない。

だからいつもは帰宅しなければならないため、酒も大して飲む事はない。

しかし泊まりとなれば話は別である。


「今夜は勝負だな、ディアナ」


「あら?、勝てるつもり?、シーグリッド」


「今日は勝つ」


「ふふ、やってみなさい」


ディアナとシーグリッドは火花を散らす。

剣のライバルである二人は酒でもライバル同士だ。


「そう言えばさ…」


「なに?」


アデラはヴィオラに気になった事を聞いた。


「ポエルとノーラとフレドリカは?」


「三人なら一緒に小旅行に行ったわよ」


「はぁ!?」


驚くアデラにリサがもたれ掛かる。


「酷いよねー、三人だけで旅行なんて」


「あいつらーーっっ!!!!」


怒るアデラにヴィオラは苦笑した。

ちなみにフレドリカとはパフュームのメンバーの一人である。

今回リサと組んでハーピィの群れを倒し、帰ってきた…のだが直ぐに二人と旅行に行ってしまった。


「それはそうと事務所には?」


「あ…もうちょっとしたら行く」


アデラはヴィオラの言葉に溜め息をつく。

事務所に行って書類を書かなければならない仕事がまだ残っていた事に。




アデラは目を覚ました。


「んー……」


時刻は午前4時前後。


「んー……」


水を飲みたくてベッドから起きたアデラは部屋を出て一階に降りた。


リビングのソファーにはシーグリッドとディアナが横になって寝ている。

二人の体の上には毛布が掛けられていた。

恐らくヴィオラかリサが掛けたのだろう。


「んー……」


半ぼけの頭を起こしながらキッチンルームからコップに水を汲み、飲み干す。

アデラもかなり飲んだため、今だ酔いは覚めてはいない。


「……」


キッチンルームから出たアデラはソファーで寝ているシーグリッドとディアナを見る。

シーグリッドはともかく、ディアナが酔い潰れるのは珍しい。

本職が忙しいと言っていたが、やはりストレスも半端ないのだろう。

現在司祭職を勤めるディアナが唯一解放されるのはパフュームの中だけであるだろうから。



パフュームは香水を表す。

これがパーティー名になったのはディアナが知り合った冒険者の卵達に冒険時の体臭を抑えるための香水をプレゼントした所から始まる。

それを皆が気に入って、冒険には必ず携帯するとパーティー内で決めた事から付いた名だ。


ディアナ自体に目を向けると貴族の娘であるという立場から、素性を隠すためパフュームメンバーとして人前に出る時はローブのフードで顔を隠すかフルプレートアーマーに身を包み素顔を隠すかしている。


冒険自体は楽しいらしく、剣の腕もシーグリッドと並んで凄腕で指導力もあるため副リーダーとして皆から見られているが本人はきっぱり否定している。


最近は司祭に昇格し多忙を極め、パフュームのアジトに来る事も少なくなっていた。

けれどもディアナに取っては自分の素顔を出せる場所であるため、僅かな時間を取っては来る事を楽しみとしている。



「………」


いつもの稟とした表情と違い何やら穏やかで楽しそうなディアナの寝顔を見ながらアデラは外の空気を吸おうと玄関の扉を開け、外に出た。


暗い空を見上げアデラは澄んだ空気を肺一杯に吸い込む。


街灯の火の灯りは点々と点いて通りを照らしていた。

火はそれを専門に付ける職の人間がいて、一定時間毎に消えていないか点検に廻っている。

そして消えていれば再び付けるという作業の繰り返しだ。

雨の日も風邪の日も関係なく街の明かりを提供してくれるその存在と仕事。

アデラ的には一度やってみたい職だが夜中を通して起き続ける必要があり、それが出来る自信はまったくない。


ちなみに魔法で光らせる方法はあって、パフュームの家もそういうシステムを取り入れているが明る過ぎて情緒は全くない。

火がランプの中で直接燃えてボンヤリと光る明るい感じ、その幻想的な色合いの雰囲気がアデラに取っては最高であり好きなのだ。



「あー、また1日が始まるかー」


暫く街灯を見ていたアデラは、そう言って「んーー……」と伸びをした。


外の空気を吸い少しは酔いが覚めてきたアデラだったが、このまま街灯の明かりをまだ楽しみたいと思った。


「歩くか」


そう考えたアデラ家の中に入り、上着を羽織り鍵を取る。

そして玄関の扉に鍵を掛け、散歩に出た。


「………」


街灯の明かりを見ながら家の近辺を暫く散歩アデラ。

途中で街灯の火が消えていないか見回っている人とすれ違ったり、パン屋から漂ってくるパンを焼く香ばしい匂いに満足したりとしながらいつも昼間に散歩ルートを一周し家に帰ってきた。


「んー……」


のびをする。


このまま起きていようかと思ったが、まだ外は暗く夜明けの薄明空になるには少しだけ早い。


「寝るか…」


早くに目が覚めてしまって酔い覚ましのために散歩に出たが、帰ってきたら少々眠くなってきた。


玄関の扉を開け、中に入り再び鍵を閉める。

戸締まりは大事である。


リビングのソファーではまだシーグリッドとディアナが寝ていた。

アデラは起こさないようにそろそろとトイレに行き、そして階段を上って二階の自室に入る。

そしてベッドに寝ころび、そのまままた寝た。



「……」


再び目を覚ますと外はすっかり明るくなっていた。

時間は午前10時ぐらい。


「……」


ベッドからのそのそと降りたアデラは自室を出て一階に降りる。


一階ではヴィオラがソファーに座り本を呼んでいた。


「おはよう」


「おはー…」


そのまま洗面所に向かう。


しゃこしゃこしゃこしゃこ……


「あ…」


洗面所ではディアナが歯を磨いていた。


「おはよう」


「おはよう」


口をゆすぎ顔を洗うディアナ。


「今起きた所?」


「そうよ、いつの間にか寝てしまっていたみたい」


「ソファーでよく寝てたもんね」


「あら?、知ってるの?」


「あー…夜明けに目が覚めてね、ちょっと散歩に出たんだ」


「そう?、全然気づかなかったわ」


「よく寝てたし」


アデラの言葉にディアナは苦笑した。


本来なら少しの物音でも気づき目を覚ますディアナだったが、昨夜は流石に飲みすぎたのとストレスからくる疲労で完全に熟睡してしまっていたようだ。

もっとも、それだけではなくパフュームの家で何人かいるメンバーの中にいるという安心感もそれに加わる。

安心しきるのはよくないが、ここは緊張感なく過ごせる数少ない場所であるのだ。


ディアナが終わりキッチンに向かったあと、アデラは歯を磨き始める。


「う……」


すると後ろから体重を掛けて抱きつかれた。

いや、接近してきているのは分かっていたが…。


「重いっちゅーの」


歯を磨きながらアデラは言う。


「おはよう、アデラ!」


「おはよう、いや…重いし…」


リサの後ろからの攻撃に、しかしアデラはいつのも事なのでそのまま歯を磨き続ける。


「今日空いてる?」


「予定はないけど」


「やったー!、じゃあ今日は買い物に付き合って」


「何買うの?」


「服だよ」


「鎧?」


「違う違う、普通の洋服だよ」


「まぁ、別にいいけど…」


「じゃあ、昼からね」


「ん…昼からね」


そう言うとアデラは口をゆすいだ。


しかしそうは言っても暇な訳ではない。

持ち帰った宝箱から宝石類を分別するという作業が控えている。

しかしアデラ的にはそういった作業は苦手だ。

できれば誰かにやってもらいたい…という思いはある。

そんな訳で家から脱出したアデラ。

名目はリサがどうしてもと言うのでしょうがなく買い物に付き合ってあげた…という言い訳。

まぁ、家に帰ったら否応なく作業に掛からなければならないので午後はリサとブラブラ二人買い物散歩である。


「服屋か…」


「そうだよ」


リサに引っ張られ、アデラは西の市場にある洋服店が立ち並ぶ通りにやってきた。

西の市場は食料品店が圧倒的に多いが服屋も少なからずある。

特にリサが気に入っている可愛らしいを全面に打ち出した洋服店屋はこの通りに沢山ある。


「たまにはお洒落しなくちゃ」


そう言うリサにアデラは「勝手にやっとくれ」という感じだ。


「なに言ってるの?、アデラもだよ!」


「はぁ!?、私?」


「そうだよ、いっつも同じ様な服着てるじゃない」


確かにアデラの着ている私服はいつもTシャツに長ズボンという動きやすい服装だ…と言うか正直こういった服しか持っていない。


「今日はアデラの分も買うよ!」


「え…いや…私はかわいい系の服はちょっと…」


「大丈夫、東の市場にも行くから!」


「あ…そ」


そう言うとアデラは大人しくリサの後ろに付いていった。



西の市場から東の市場に足を運び、買い物が終わったのは夕方頃である。


「ごめんね、付き合わせて」


大量の袋を手に下げ、リサは言う。


「いや、私も服が買えて良い感じだ」


リサと同じくアデラもまた大量の袋を持っていた。


おおよそ世の中の流行云々というものとは縁のない暮らしをしているアデラに取って現在都で何が流行っているのかの把握は出来ていない。

特に興味はないし、着飾る趣味も持ち合わせてはいないからだ。

しかしリサはこう言う。


「服を変えてもっとお洒落すれば男性が声を掛けてくるよ」


そうか…そうだったか…

恋人が出来ないのは着飾っていないからだ…と考え方を改めるアデラ。

そして今日は服を買いまくった。


「ただいまー」


二人は家に到着。

既に日が沈みかけた黄昏の時だ。


「おかえり」


ヴィオラが出迎え、二人が手に持っている袋を見て苦笑する。


「たくさん買ったわね」


「服を少数…」


「服?…ああ」


「そう言えばディアナは?」


「少し前に帰ったわ、宜しくって」


「そうか、見送りたかったけど残念だな」


「もう少し早くに帰ってきたら良かったね」


リサが申し訳なさそうな声で言う。


「ま、また来るだろ」


あっけらかんと答えるアデラにヴィオラはメガネのブリッジを指でクイッと上げる


「そんな事より…」


「ん?、何?、ヴィオラ」


「宝箱の分別はいつするの?」


「んー…まぁ…明日でいいかな?」


「良いわよ、なら明日の午前中に全員でやってしまいましょう」


ヴィオラの決定にアデラとリサは「おー!!」と掛け声を出した。



翌日、アデラとシーグリッドとヴィオラとリサの四人は朝から宝箱に入ったトロルの財宝の仕分けを始める。


リサはその宝石類に目を輝かせながら嬉しそうに作業をし、ヴィオラは事務的に淡々と作業を行う。

シーグリッドは少しトロル臭い宝石類に眉を寄せながら黙々とただ手を動かして分けていった。

アデラはと言うと「あーでもないこーでもない」と呟きながら頭を悩ます。


アデラに取っては宝石はどれを見ても同じに見える。

リングやネックレスといった形状が明らかに異なる物の区分けはともかく、宝石の種類と言われるとチンプンカンプンだ。


元よりそういったものに興味がないため、名称を覚えるのも一苦労となる。

だからリサに聞きながらの作業になるが、効率は芳しくない。


とは言え始まりがあるのなら終わりもまたある訳で、宝箱二つ分の選別作業は言うほど時間を経ずに終わった。


残りの一つに入っている金銀の方はざっくりと大きさ順に床に並べる。

これはアデラも簡単なため、ホッとした。


しかしこれで終わりではなく、今度は洗浄に入る事になる。

水と柔らかい歯ブラシと柔らかい布を使って宝石類を綺麗にしていくのだ。

トロルが所有していただけあって汚れは目立つため、このままでは売りには出せない。


「傷つけないようにね」


「へ~い…」


ヴィオラに釘を刺されたアデラは神妙に洗って拭いていく。

「分かってるよ!!」…と言いたいが以前傷を付けた苦い経験があるため、言い返せないし自分でも雑なのは自覚しているため多少なりとも慎重にはなる。


これはかなり地味な作業だ。

地味過ぎで投げ出したくなるが、そういう訳にもいかない。

よくリサは楽しそうに出来るモノだと感心する。


アデラとリサとは同い年ではあるが、見た目も性格もまったく違う。

正反対とまではいかないが、雑で大雑把なアデラとは違いリサは何かしら細かく動ける。

戦闘においても先頭に立って派手な一撃必殺の攻撃を好むアデラに対して、リサはどちらかと言うと一歩引いて補助的な役割を担って皆のサポート役に回る事が多い。

そして背こそ高いが、男っぽい容姿のアデラに対してリサは大人しい女性の雰囲気を漂わせた容姿だ。


そんなリサだが何かしらアデラに甘えてくる。

アデラは素っ気なく対応する事が多いが、リサはアデラと接するのを好んだ。



「終わったー!!」


「終わったな…」


「終わったね!」


「お疲れ様」


宝石類・金銀の洗浄が終わり、ようやく作業は終了となる。

どうこう言っても午前中いっぱいの時間は掛かった。


「そろそろお昼ね」


「うおー、腹減ったーっっ」


苦手な作業を終えてヘロヘロになって言うアデラの横顔を見ながらリサは少し口元を緩ませた。




冒険者事務的が管理している仕事はおおよそ6つに大別出来る。

戦闘バトル探索サーチ採集ピッキング護衛ガード催事イベント運搬トランスポーターである。


戦闘バトルとは魔物モンスター退治の事であり、一般的に冒険者の仕事と思われている有名な仕事である。

当然の事ながら戦う魔物は冒険者のクラスに応じて変化し、依頼も中級以上や上級以上という指定が入る場合がある。


探索サーチ迷宮ダンジョンの探索であり、洞窟や塔、遺跡や迷宮等を調べる仕事だ。

基本的には『発掘』や『探索』といった特殊技能を持つ者が仲間パーティーにいる事が依頼を受ける上での最低条件である事が多い。


採集ピッキングは山や森といった場所に生えている薬草等の採集である。

その多くは余り人が立ち入れない場所での依頼採集が多い。

薬草と一言で言ってもその数は数十種類に及び、似た形のモノも多いためある程度の知識は必要とされる。


護衛ガードは警備や用心棒といった職種だ。

依頼人によってはコミュニケーション能力や最低限の礼儀作法が要求されるため、それなりの腕と知識を持つ中級以上の冒険者しか採用されない。


運搬トランスポーターは依頼を受けた品を遠方まで届ける役割を持つ。

依頼品によっては高額な品や特殊な品を取り扱う事もあり、この仕事を受ける冒険者は事務所から一定の信用がある中級以上の冒険者達が採用される。


催事イベントとは工事等の力仕事や街や村で行われる催事において軽作業等の仕事である。

誰でも出来る事から主に下級冒険者が従事している事が多い。

ちなみに上級冒険者はこの仕事には従事出来ない。


冒険者は下級・中級・上級という三区分に分けられるが、これらの中にも等級分けがなされていたりする。

下級冒険者の上位たるB級ライセンス持ち

中級冒険者の上位たるA級ライセンス持ち

上級冒険者の上位たるS級ライセンス持ち

依頼の中にはそれらのライセンス持ち指定がなされている場合もある。



ファングをクビになったフィンは故郷に帰るか冒険者を続けるかで悩んだが、取りあえず冒険者を続ける事にした。

とはいえパーティーをクビになった事からそれが心の中に残り、誰とも組まず一人で活動する事を選んだ。

しかしフィンが行える単独での仕事は採集か催事しかなく、今は難易度のかなり低い通常薬草の採集をしている。

本来ならば下級冒険者の仕事だが、手持ちの金が無くなりつつある現状においては四の五の言っていられない。


「えー…と…これが…これで…違うか…」


山に生えている薬草を図鑑を見ながら採集するフィン。

本来ならこういった薬草類はトールが詳しく、皆もほぼトールに頼っていた。

今は一人で行動する事になったフィンはこれらを全て一人でこなさなくてはならない。

依頼を受けるのも、知識も、金の管理も、戦闘も。


「はぁー…」


出来る事なら採集の最中に魔物に出くわさない事を祈りながら。




アデラは目を覚ました。


「……」


ここは一階のリビングルームのソファーの上。

どうやらうたた寝してしまったらしい。

特に疲れもないが、ここで昼寝するのは初めての事だ。


「起きた?」


「ん…」


上半身を起きあがらせ、アデラは向かい斜めに座っているリサに寝ぼけ眼を向ける。


「ふぁ~あ~」


大きな欠伸が出て、アデラは伸びをした。


「ここで寝るのは珍しいね」


「ん…何か急に眠気がきて…だな」


何処でも寝られそうと人から思われているアデラだが、実は自分のベッド以外だど余りキチンとした睡眠が取れない。

それ故に冒険中は睡眠時間が少なく、その逆に家に帰ってきたら睡眠時間は長くなる。

しかし一階のソファーで寝たのは初めての事だ。


「ふぁ~あ…」


もう一度欠伸をして伸びをした。

それを見てリサは笑んだ。



アデラが冒険者になったのは3年ほど前の16歳の時。

腕っ節には自信があったので、田舎から都に来て腕試しとして冒険者になった。

リサとはその時に知り合った。


出会った当時のリサは別のパーティーに入っている冒険者だった。

性格はおっとりとした感じではなく、どちらかと言うとかなり怒りっぽい面があった。

それは若さもあったが元々組んでいたパーティーの問題点が大きかったからだ。


リサは戦闘においては接近戦による攻撃力は大した事がなかったが、弓の腕はかなりのものであったため後方支援役としてのスタイルをその頃には既に確立させていた。

しかしそのスタイル通りにはパーティーメンバーは動いてはくれず、リサのイライラは募るばかりで…。


そういったパーティー内でのゴタゴタを経て、パーティーを抜けたリサは一人で冒険者として戦っていたアデラと組む事になった。

最前列で突撃するアデラと後方でそれをサポートするリサの図。

前衛が崩される事がないため、リサは後方支援に集中出来た。

前のパーティーの時は前衛がすぐ崩されてしまったため、結局はリサも十分な支援を行えないまま接近戦闘を強いられたからだ。

戦士として見れば何ら不思議ではないのだが、リサに取ってはそうした戦闘は完成された形から離れてしまうため力量不足の仲間達に不満が募る一方だった。

アデラが出会った頃のリサがカリカリしていたのはこういったストレスが原因である。

しかしアデラとコンビを組んだ後は本来の性格に戻り、以後はカリカリのリサを見る事はまったく無くなった。

当時を知らない現在の仲間達にその話をしても『カリカリのリサ』の事は信じてはもらえない。


とにかく二人だけのパーティーになり冒険者とし活動しだしたアデラとリサ。

しかし二人だけのそれは、それ程長くはなかった。

二人の噂を聞いたとある者達から新しいパーティーを立ち上げるので入らないかという勧誘があったからだ。

最初は断った二人だったがやたらとしつこい奴がいて根負けしたアデラは取りあえず入る事にした。

アデラが入るならとリサも同意して入った。

そして今に至る。



「ただいま帰りましたです~」


宝の仕分けから数日後、旅行に行っていたポエル達が帰ってきた。


「お帰り」


ヴィオラが三人を出迎える。


「あー、なんかめっちゃ疲れたわー」


「そうですか~、私は楽しかったです~」


「何やろな、人がめちゃくちゃおって人混み凄かったやん」


「ですけど~、そこはまぁ…仕方がないんじゃないかとぉ~」


ノーラとポエルのやり取りを聞きながらヴィオラはキッチンルームに行き、飲み物を持ってきた。


「どうぞ」


「ああ、おおきに」


「すみません~ありがとうです~」


ノーラとポエルが盆に乗ったコップ手に取る。


「フレドリカもどうぞ」


「………ありがとう」


そう言うとフレドリカはコップを手に取った。



フレドリカ、年齢は18歳。

腰辺りまで伸ばしたストレートロングの髪でブルーブラックの色のヘアが特徴。

正直その容姿は端から見ると戦士にはまったく見えない。

どちらかと言うと魔女のような雰囲気を醸し出していて、戦士ではなく魔法使いのようである。


「………」


フレドリカはコップを片手に無言で中身を飲みだす。


「……」


「……」


「……」


「ごちそうさま…」


飲み干し、ヴィオラの持つ盆にコップを置いた。


フレドリカは余り喋らない。

寡黙というならばシーグリッドもそうではあるが、フレドリカの場合はそれに輪を掛けている。

そして余り感情を出さないため何を考えているか分からない一面を持つ。



「あーー!!」


ポエル達の声が下から聞こえた気がしたので二階から降りてきたアデラが声を出した。


「あ~、アデラ発見~」


「発見じゃぁーないよー」


「うにゃ~ぽにゅぽにゅ~ゅゅゅ」


ポエルに寄ったアデラはポエルのほっぺたをぽにゅぽにゅと引っ張る。


「なーに三人だけで旅行行ってんのかなー?」


「そ…それはですねぇ~うにゅにゅ~」


「しゃーないやん、アデラやシーグリッドは遠出しとったんやから」


残りはヴィオラとリサであるが、ヴィオラは旅行には興味を示さずリサはアデラを待っておきたいという理由から旅行には加わらなかった。

なので三人での息抜き小旅行を決行した次第だ。


「ほう、それはまぁそうだな、それで勿論…」


「お土産は買ってきたで」


「なら許す」


ポエルへのほっぺぷにぷに攻撃を解除してアデラは満足気に頷いた。


「アデラさん~酷いです~」


「ごめんごめん、大丈夫だった?」


「ぷにぷに~」


「ぷにぷにー」


ぷにぷに停戦協定が結ばれ戦いは終息の運びとなった。



「帰ってきたんだねー」


一階の騒がしさにリサがいそいそと階段を降りてくる。


「リサ、お土産があるってさ」


「そうなんだー、ありがとう皆」


「いやいや、実はアデラだけは無いんや、ホンマは」


「何だって?」


ギロリと睨むアデラにノーラは手を振る。


「ウソウソ、冗談やん、そんな睨まんときーな」


「ふん、別にいいよーだ、お土産の一つや二つ無かったって」


「何や、いらんのかいな」


「いや…いる」


「どっちやねん!!」


そう言いながら苦笑するアデラとノーラ。

それを見ながらヴィオラは言う。


「今日の夜は外食にする?、したい人」


それにアデラやポエル、ノーラやリサが手を上げた。

その場の空気を読んでフレドリカもしずしずと手を上げる。


「あれ?、シーグリッドは部屋なん?」


「今は出掛けているわ」


「まぁ大丈夫やんな」


「帰ったら聞いてみるわ、多分大丈夫よ」


「ほな今日は夜行こか」


ノーラの言葉にアデラは茶化す。


「ノーラの奢りで?」


「何でやねん!!」


「違うのか!!」


「ちゃうわ!!」


そんな二人のやりとりにポエルはリサに言う。


「相変わらず~面白いですよね~」


「ん……そうだね!」


そう言いながらリサは少し控えめに笑んだ。

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