★彼の半分

 隣で寝息をたてている彼をじっと見つめる。



 彼は私のものではない。


 半分は私のものかも。

 でも半分は彼の家族のものだ。



 彼は家族を捨てる気はないし、私も彼にそこまで望むことはできない。

 分かっていて付き合っている。




「知香?」

「起こしちゃった?」

「目が覚めただけだ。知香は寝ないの?」

「寝るのが勿体無いの」

「えー?なんだよ、どういう意味?」

「あなたの寝顔が可愛すぎるから」

「可愛い? 俺が?

そんなこと言う知香が可愛いよ」

 彼の腕が伸びてきて私をベッドに誘う。




 彼の家族には悪いと思っている。

 でも、どうしても彼から離れることができない。好き過ぎて。

 こんな関係を続けてもいいことなんて一つもないのも分かってる。

 でも、恋とは恐ろしいものだ。

 彼以外のことはどうでもいいとまで思ってしまう。


 時々無性に彼の全部が欲しくなる。

 半分じゃ足りないと。

 その癖全てを得るのは怖いとも思う。

 だから今の関係が私にはベストなのだ。



「寛樹さん、好きよ」

「俺もだよ」


 彼の嘘の言葉でさえ嬉しい今が幸せ。

 これ以上望んではいけない。






 半分。

 それはとても都合のいい幸せの度合い。



                        了


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