028-2 天才軍師あらわる!(後編)
チョロ右衛門は思惑通りに喜び勇んで作戦会議を仕切り始めた。
アレはどうだ、コレはどうする、コッチをこうでアッチはああだ、かくかくしかじかウンヌンカンヌン。
やれやれこれでひと安心。あーよかったよかった。後は頑張ってくれ珍右衛門さん。
僕は王様チェアーの上でズリ下がる様にグデっと脱力し、行儀悪く作戦会議の進行を眺めていた。
参加者の視線はシャカリキ珍右衛門に集まり、僕の行儀悪さを咎める人はいない。
いつもならウザ絡みしてくるであろうトラ子もいない。アイツはいつの間にかどこかへふらっと消えて行った。
疲れ果てた今、アイツの厭らしいニヤケ面を見なくて済むのは幸いだ。
諸悪の根源であるムキムキアナルマッチョ悪魔と同じ、あのニヤケ面を。
そうなのだ。
僕が追い詰められた時に見せた、あの粘つく見下したような笑み。
ぽよんぽよんボディの美少女然としていても、所詮アイツも悪魔の手先なのだ。心を許していい存在では無かった。
奴らこそ諸悪の根源、真の敵、これからは一線を隔して接しよう。
とは言っても、もう色んな意味でズブズブの関係だが。
もうズブズブどころかズボズボしちゃってるんだよなー。はぁ……。
「どうしちゃったんすか? 妙にたそがれちゃって?」
「おおう!?」
油断しているところを背後から、
思わず尻が椅子から跳ね上がる。
振り返ると、トラ子はいつも通りの股のユルいヤリサーパリピ勢の頭パッパラパーな雰囲気を醸し出して、僕をにこやかに見つめていた。
目の奥は笑っていない、なんてチャチなものじゃ無い。むしろ怖ろしいことに、徹頭徹尾、目の奥までキッチリ微笑んでいるように見える。見た目は完全に頭パッパラ隊だ。
あの時の悪魔のニヤケ面はどこにいったんだ。
「しかしあんなに軍事関係に詳しいとは思ってなかったっすよぉ。オタク特有の知識ってヤツっすか? これなら天才軍師oreueeee系のジャンルの配信もイケるかもしれないっすね!」
会議中のゴミ虫を見る目つきから一転しての、このおバカな言動。
ギャップが大きすぎてこちらが困惑してしまう。メンヘラと付き合ってる男の気持ちとはこういうものなのだろうか。
それとも、もしかしてあのニヤケ面は僕に発破をかけるための演技だったのだろうか。
うーむ。どうなんだろう。疑心暗鬼ここに極まれり。
残念だがもう僕にはコイツの何が真実で何が虚像なのかがサッパリ分からない。
はは~ん。なるほど、これが無知の知か。
「このまま予想通りの展開でゴブ美の村が勝っちゃったら、本当にソッチ系の配信に切り替えても良さそうっすね。いやー激アツ展開っすよ! で、実際のところどうなんすか? 読み通りに上手くいきそうっすか?」
期待を込めた目で僕を見つめるトラ子。
てっきり気付いていると思っていたが、コイツまで何を言っているんだ。
そんなの決まっている。上手くいくはず無いないじゃないか。
そもそも前提条件からして、僕の虚言なんだから。
だって考えてもみろよ。
騎馬? 駄馬? 僕にそんなの区別がつく訳ないじゃないか。
当てずっぽうに指を差した所が馬の居場所だって言うから、今さら確かめようもない適当な嘘をでっち上げたまでだ。
その後はそのホラ話があたかも本当だと思えるように、僕の虚構を補強するように、皆の会話を誘導しただけだ。
まあ、こういったプレゼンで上手くいくコツは、馬鹿に質問しながらマウントを取って頭の良いフリをして、他人の発言をさも自分の意見のように肯定することだね。
結果的にみんな僕の虚構を事実と誤認してくれた。
なーに、どうという事も無い。社会に出ればこのようなことは日常茶飯事である。
スタートは役員の根拠の無い決め付けだ。
そこに勝手な推測を積み重ねていく現場を知らない幹部連中。
ライバルを蹴落とす為に鍛えられたディベート能力。
不毛なマウントの取り合い。
コンサルタント会社を盲信する無能な二代目社長。
掛け間違えたボタンを憶測と推論で塗り固めた、事実に基づかない無意味な会議。
そこから生まれるものは非現実的な決定事項だけである。
これが実際ありがちだから困るんだ。
ホントにビジネスマンや経営者は、『ビジネスで活かす孫子の兵法書』みたいな胡散臭いビジネス書籍を読むんじゃなくて、四季報でも読んどけってハナシですよ。
いや、四季報を読む前に部下の日報をまずきちんと読め。
というわけで、この作戦会議は無為徒労に終わることでしょう。村の命運も風前の灯。ここは僕のフカシがバレる前に、さっさとトンズラするのが吉ですね。
内心そんなことを考えながら、僕は予測の成否をしつこく問うてくるトラ子に若干ウンザリしながら答えた。
「偉い人はこう言ったよ。『仏の方便、武士の武略』ってね。いやーそれに比べれば、僕なんて可愛いもんだよ」
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