026 Muscular Chrihtianity
「よしオッサン、次はコレやってくれよ! この『荒野で悪魔の誘惑に耐えるイエャス像』のポーズ! ……そうそう、上腕二頭筋をアピールするようにッ。いいね、ナイスチョモランマ!」
イアコフからのリクエストに答え、フロントダブルバイセップスのポーズを取る。どうだ、デカイか?
「じゃあボクはコレをやって欲しいな。『川で弟子と漁をするイエャス像』のポーズ! あっ、もうちょっと脇を締めて。……うわー、すごいなー。大胸筋がお尻みたいだー」
ヨハネからはサイドチェストのオーダーが入った。ふふっ、バリバリに仕上がってるだろう?
「旦那、こいつはどうですかい? 『通姦の女を刑から救うイエャス像』、コレはなかなか難しいですぜ! ……あーもうちっと手は腰の上、おっとその辺りで。はあーこいつは大臀筋の仕上がりが土台から違ぇなぁ。ナイスカット!」
ゼベダイはバックラットスプレットか、またマニアックなものを。ほれほれどうだ、この秀逸極まりない背中とグレートケツプリは?
先程からこんな感じでゼベダイ一家から次々とリクエストが飛んでくる。彼らは教会のどこからか持ってきた大小様々な神像を見せ、僕に像と同じポージングを要望するのであった。
どうやら彼らの宗教の教義には【偶像崇拝の禁止】というものは無いらしい。
どちらかと言うと反対に、神像を信仰対象とするように推奨しているようだ。故に、いずれの神像も美術品や現代のフィギュアのように精巧に作られている。
もしかしたら日本人で言うところの仏像みたいな感覚なのかもしれない。
そんな神像だが、どれもが仁王像のようなムキムキマッチョなものばかりだ。
三角チョコパイ、肩メロン、腹筋板チョコ、背筋クリスマスツリー、全てがバリバリに仕上がっていて見事にキレている。まるで筋肉の豊洲市場だ。
……自分で言っておいてなんだが、単語を羅列するとよく分からないな。何にせよ、言葉の意味はよく分からないがとにかく凄い筋肉マンなのだ。
さて、問題なのはその筋肉マンこそが彼らの崇める神『イエャス・キリヒト』だということ。
そしてその神が、僕=ムキムキHENTAIアナル悪魔の肉体にそっくりクリソツだということだ。(顔もどことなく似ている気がする)
これまでの状況に鑑みて、あのHENTAIアナル悪魔が異世界の住人に自身を神として信仰させ、自分そっくりのフィギュアをその信仰対象として崇拝させているのは最早確定的に明らか。
つまり……。
もうこれ完全に自己顕示欲のかたまりですネー!
「『鍛えられた肉体に、鍛えられた精神が宿る』。【パリピ人への手紙・第三章】や【インド人を右に・第六章】などに記されたキリヒトを称える賛歌の一節です。これは健康や男らしさを説く教えであって、信仰とともに強健な肉体と快活な生活を主義とする、力強い男らしさの理想と結びついた活気ある福音主義の必要性を強調するものなのです。我々はこれらを総じて筋肉的キリヒト教と称しています」
「へー。キリヒトの賛歌ね。へー」
長ランのような黒服を着た豚人、神父シメオンが僕に解説をしてくれた。
だが僕はアナル悪魔を信奉するイカレた邪教には興味がなかったのと、虫プロダ●ションと揉めたくなかったという理由もあり、馬耳東風の塩対応をしてしまった。
許せ神父シメオン。許せ漫画の神。
暫くの間そんな会話をグダグダとしていたが、程なくして珍右衛門さんが皆に呼びかけた。
「さて皆の衆、卿と面を通すのはこれぐらいでよかろう。危急の時にてあまり悠長にもしていられぬ故、早速だが評定を始めようぞ。卿は姫を起こしてくだされ」
仰るとおり。
村の外では世紀末モヒカン集団が今にもヒャッハーするかも知れない状況なのだ。ミスターオリンピアをしている場合ではないぞ、まったくもー。
珍右衛門さんに促されて、僕はゴブリンちゃんの元へ歩み寄った。そしてゴブリンちゃんの体をユサユサと優しく揺する。その時にさり気なくゴブリンチッパイに手を添えていたことは僕だけの秘密だ。
「う、うーん。もう食べられないですぅ。むにゃむにゃ……」
コヤツ、なんて古典的な寝言を!
再度ユサユサとしてみたが、ゴブリンちゃんは一向に目覚める気配が無い。なんという寝つきの良さ。
もしかしてユサユサでは刺激が足らないのかもしれないな。
なるほどあり得る。仕方が無いので、僕は心を鬼にしてユサユサではなくコリコリすることに決めた。
いや、しかし待てよ。
もしかして先程の寝言は、『王子様のキスで目覚めるお姫様』という古典的流れの伏線なのではないだろうか。
なるほど有り得る。ならば仕方が無い。その伏線、回収しようではないか。
僕は心を鬼にして、ゴブリンちゃんにベロチューしながらコリコリするという二正面作戦を決行することに決めた。ホント仕方ないよね。
僕は自身の唇をベロリと舐め上げる。適度なぬめり気によって粘膜接触率を向上させようという企みである。
そして唇をタコの様にムチュッと突き出して、ゴブリンちゃんの桜色の唇を目掛けて顔をよせる。我知らず、タコ
いざ鎌倉ッ。
しかし、桜色の唇に触れる寸前にゴブリンちゃんの頭がストンと落ち、長椅子の座面にゴチンと打ちつけられてしまったではないかッ。何者かが秘本ちゃん枕を抜き取ったのだ!
「プギッ」という声と共にうっすらと目を開けるゴブリンちゃん。
「う、うーん。よく寝ました。あっ旦那様、おはようございます……?」
むむっ。残念ながら、どうやらお目覚めのようだ。
憤懣やる方なし。僕はゴブリンちゃんとのペロペロコリコリ大作戦を妨害した犯人に、怒りをこめて視線を向けた。おのれェ、許せぬ!
「いやもう撮れ高とかウンヌン以前にキモくて耐えきれなかったっす。無理、キモい、隠キャキモっ、エグッ!」
「エグくないし! そんな人を下処理に失敗したタケノコとか山菜みたいに言わないでもらえますか!?」
「いやーエグいっす。陰キャ特有のエグみに一同ドン引きっすよ、ほらっ! ……あれ? そうでも無いっすね」
ほれ見ろ、やはりペロペロコリコリしても良かったんじゃないか!
確信を持って一同へ振り返ると、皆が驚愕したように僕らを見ていた。
イアコフは目を皿のように見開き、ヨハネは跪き
ほらーやっぱり皆も露出プレイを期待してたんじゃん!
「天恵語だな……」「やっぱり
……???
いったいどうした事だろうか?
皆はまるでゴブリンちゃんのまな板ショーには興味が無いかのように、厳かな空気を醸し出している。
これじゃまるで僕らが日曜礼拝の最中にコッソリXYZし始めた変態カップルみたいじゃないか。ナニソレそそる!
僕の困惑(もしくは興奮?)を感じ取ったのか、珍右衛門さんがコッソリ教えてくれた。
「皆、姫が天恵語を話しておられるのに驚いておるのでござる。
実際には秘本ちゃん式翻訳法(通称ひほんやく
あれ? まてよ。ということは――
「ということは、珍右衛門さんにとっても驚くべき事だったのですか?」
「当然でござる。儂こそあの時に奇跡を目の当たりにした張本人といっても過言ではござらぬ」
そういうことー!?
出合った当初の珍右衛門さんが手の平返したように急にフレンドリーになったのは、てっきりヤリサー共が下半身で繋がった事が理由だと思ってたよ。
ホントは秘本ちゃんのミラクルヒカルを目の当たりにして気が変わったのね。
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