021 若人、仲人、次の人
「「前回までの、あらすじ!」」
「超絶美形でオシャンな僕は、クリスマスの夜にDAI☆BAKU☆HATU! おミンチになってフワフワお空に浮いていたらなんとビックリ!」
「スーパーイケメンDEVILにスカウトされて、大・感・激☆彡 そのままデビューが決まってスター街道をまっしぐらっス! ええ~っ、イケメン社長に迫られて、このままどうなっちゃうの~☆??」
「そんな僕を待ち受けていたのは、HENTAI悪魔の片割れ、お漏らし肉便器! ペロりペロられしているうちに、きゃわゆい秘本も加わって僕らの森は大騒ぎ☆」
「そして出会った愉快な5人組み。ヘタレ陰キャのクソ雑魚ナメクジを最高プリティー女神が華麗にアシストして、見事撃退っす☆彡彡」
「新たに仲間になった小鬼ギャル&豚まんと共に、無駄肉ヨゴレ邪神を介護しながら超☆イケ☆てる僕は進む。すると行く手を遮ったのは、謎の怪生物、樹人!」
「樹人を前にしてあっけなく敗れた役立たずインポ野郎の陰キャ。そこをメチャメチャ頭のいい才色兼備の美の化身が☆颯爽☆と助け、見事樹人を打ち倒したのであったっす☆彡」
「……」
「……」
「おいトラ子てめー! 誰がクソ雑魚ナメクジだやんのかコラー!」
「そっちこそ何が無駄肉っすかビンビンに欲情してたクセにこのムッツリくそ野郎め!」
お互いメンチを切り合ってオメェドコチューダァとやっていた僕とトラ子の間にゴブリンちゃんが割って入った。
「……あのー、旦那様、トラ子様、なんで先ほどからお空に向かってお話しされているのですか?」
しまった。ゴブリンちゃん聞いていたのか。
「ご、ごめんねゴブリンちゃん。べべっ、別に大した事じゃないんだよ」
「旦那様、トラ子様とナイショ話ですか?」
ゴブリンちゃんの悲しげな声が辺りに響き、僕は息を呑んだ。追い討ちのように潤んだ瞳で見つめられ、無垢な眼差しが僕の――
「チョップ!」
ゴチンッと後頭部を痛打されて、視界に火花が飛ぶ。振り返るとトラ子が手をグーにして立っていた。トラ子、それチョップやない。パンチや。
「章またぎの天丼ネタは視聴者が付いてこれないからNGっす。あとそもそも面白くないからやる価値無いっす」
トラ子にバッサリ酷評されてしまって、僕はドラ泣きした。
いや別にネタでやってるつもりは無いんですけどね。だって、『同じ人間』が『同じシチュエーションに遭遇』したら『同じリアクション』をしちゃうんじゃない? 小説じゃあるまいし、表現のバリエーションなんざ気にしちゃあダメだ。だから今後、あの例の野苺の表現は『お気に入りの覚せい剤』で統一する!
トラ子にダメ出しを喰らった僕は気分転換にお気に入りの覚せい剤を一粒取り出すと、ゆっくりと味わって――
ってやっぱりダメだわコレ。アウトアウト。
僕は野苺をペッして、ゴブリンちゃんに言い訳をした。
「さっきのはねゴブリンちゃん、トラ子が動画にナレーションを入れたいから何か喋ってくれって頼まれたんだ」
「なれーしょん?」
そう説明すると、ゴブリンちゃんの顔にクエスチョンマークが浮かんだ。
「まあまあの撮れ高になってきたんで、そろそろ編集も考えなきゃなって思ったんすよ」
「とれだか??」
トラ子が補足説明をしたが余計にゴブリンちゃんの顔にクエスチョンマークが増えた。フォローになっていない。
「素材が有っても動画作品にするには他にも止め画だったりアテレコしたり色々と――」
「テロップとエフェクトなんかのオブジェクトを高ビットレートでコーデックして――」
「???」
ゴブリンちゃんの顔いっぱいにクエスチョンマークが浮かぶ。うーん、人間ってこんなに分かり易く困惑が顔で表現できるんだね。漫画で表すと(?_?)こういう感じになっちゃうだろう。
だがゴブリンちゃん安心してくれ。実は僕も動画編集なんかサッパリわからない。適当な横文字を羅列して知ったかぶりをしているだけなんだ。やはりハッタリとハットリは大事でござるなニンニン。
「まあ録画も休憩もこれで十分だろうし、そろそろ出発しようか」
「そうっすね、知ったかぶりクソボッチ君」
ワ~オ、バレテーラ。
※※※※※※※
樹人を打ち倒して夜を明かした僕らは、仮眠と休息をしっかりと取った後に珍右衛門さんの里に進むこととなった。幸いにも樹人をSATSUGAIした後はとくに怪現象も起きずに、無事に休息が取れた。
僕らは身支度を整え、休息地を後にした。
ちなみにやっちまった樹人は地中に埋めて無かったことにした。敵兵だろうが儒者だろうが高速鉄道だろうが、面倒なモノは地中に埋めていく中華スタイルだね。グッバイ樹人よ、森へお還り。
既に再出発から数時間がたっており、日も傾いてきた。また昨夜の二の舞になるかと心配になったが、珍右衛門さん曰く、もうすぐ里に着くそうだ。
「ところでゴブリンちゃん。珍右衛門さんの里ってどんな感じなの?」
「え~っと、闇の森の端に新しく拓いた村です。バロメルという名前で、とっても賑やかな所ですよ!」
「へぇ~。新しい村なんだ」
「左様。森には幾つもの小さな集落があり、その中にはひと家族だけのところもある。そういった者たちは各々で疎らに暮らしておっても先が立ち行かぬによって、いっそ纏めて新しく里を拓いてしまえ、と相成った次第じゃ」
「でもなんでワザワザ森の端に村をつくったの?」
「海側の森の端にちょうど住み良さそうな入り江があっての。森の中だと縄張り争いが起きる心配があったが、儂らは海にはあまり慣れんゆえ、そこなら森の衆との諍いは起きぬと勘案したわけじゃ」
「そうなんすか。じゃあ方々から集まってきたってことは、ゴブリンとオーク以外にも他の亜人とかもいるんすかね?」
トラ子の何気ない問いかけにゴブリンちゃんがビクリと肩を竦ませた。そうした後に困ったような悲しいような顔をして答えた。
「トラ子様。申し訳ありませんが、亜人という言葉は里ではお使いにならないでほしいです。亜人とは、人に次ぐという意味です。私達は人です。まがい物や二番目ではないのです。申し訳ありません」
ゴブリンちゃんがシュンと肩を落として頭を下げた。思わぬところに地雷が。
僕らの間に重苦しい気まずい空気が流れた。
僕は戸惑い、トラ子も珍しくあたふたしながら答えた。
「いや、あのね、ゴブ美、アタイは、アレっす、そういうね、つもりじゃなくって、あーその、なんというか――ギャンッ!」
「ゴブリンちゃんぼくはべつにひとがどうこうじゃなくてよのなかいろいろあってみんなちがってみんないいというか――グフッ!」
慌てふためくトラ子と僕の言葉を遮って、珍右衛門さんの槍の柄が二人の頭を打ち据えた。突然の暴力にドン引き。ドン引きバイオレンス。DVだ。
「姫よ、気にしてはなりません。この娘こんな
なんなのこの豚? 妙に良いこと言ってる風だけど結婚式の仲人なの? あと槍で叩く意味あった? 僕は姫の婿殿なんでしょ。しっかり忖度召されよ。
悔しいので僕も何か良いこと言おう。
「そうだねゴブリンちゃん。人という字は人と人とが支えあって一つの文字になるんだ。それか三つの袋だ。助け合いの精神だよ」
「えっ? そうなんですか?」
すぐさまゴブリンちゃんが地面に落書きを始めた。小首を傾げ、ひと、と呟きながら『 ξ 』みたいな文字を地面に書き込んでいる。
あっ、そうだよね。言葉は通訳されてるけど、文字は違うんだよね。何かゴメンね良いこと言おうとしてスベッちゃったや。
僕は地面にカキカキしているゴブリンちゃんの両脇に手を差し入れてスックと立たせた。もういいんだゴブリンちゃん。やめてくれ恥ずかしいから。
「ほ~ん。んで、畜生ども。結局アタイはお前ら畜生どもを何て呼べばいいんすか?」
僕を含めた三人にトラ子は言い放った。トラ子センパイご機嫌ナナメ! 相変わらず心が狭すぎだろ。
「ふむ。それならば、合い人、と言うのがよかろうな。儂の筋目を只人の言葉で表すなら、『バオ・アクゥに在りし猪神との合い人、豚人のゲオルギオス』となるでな」
「私の場合はまだ
「つまり儂らは氏神や祖霊と合わさり、この体を頂いたと考えておるのだ」
なるほど。身体的特長は神様から授かったという考え方なのか。加護的なものなのかな。
「まあ反対に言えば、只人は祖霊や祖神を持たぬ不心得者という見方もできような」
「小さい頃にはよく、悪いことをするとご先祖様が体から抜け出て只人になってしまうよ、と叱られました」
只の人になることが罰になるとは、まさに所変われば品変わる、だな。
「じゃあゴブリンちゃん達からすれば、僕はご先祖様への畏敬が足りてない不信心者って思われちゃうの?」
「ま、まさか、そんな事を思うわけありませんっ。旦那様はご立派ですし、素晴らしい方です。それに、あっちもご立派なので、もしかしたら只人ではなく、へっ、蛇人の合い人かも知れないですし……」
そう言うと、ゴブリンちゃんは僕の股間を見つめて顔を赤らめた。
えっ? なんだって?
なんだか急に難聴系主人公みたいになってしまった。だが僕をあんな軟弱な奴らと一緒にしてもらっては困るな。
僕はすぐさまゴブリンちゃんを問い詰めた。
「ゴブリンちゃんそれはいったいどういう意味だい? 僕のどの辺りが蛇人っぽいと思ったのかな? ちなみにそれは蛇の中でもヒバカリみたいな小さいヤツの事? それともアナコンダ級? どうなんだい?」
「ええっ!? それはその、すごく……大きいです……」
「へえ~。具体的には?」
「具体的っ!? 具体的に言うと、あの、太くてゴツゴツしているというか、エラが張っているというか、わっ、分かりません!」
「なら、『好き』か『嫌い』かで言うと?」
「す、すき、じゃないでしょうか……?」
「じゃあ最後に。それは、『気持ちいい』か『気持ちよくない』かで言うと?」
「きき、きもち、い、――」
「チョップ!」
げふぅッ!?
言うや否や、横合いから頭を抱えられると同時に、脇腹に衝撃が走った。肝臓の辺りを強打されて息が詰まり、僕は膝から崩れ落ちる。
息も絶え絶え振り向くと、トラ子が右膝を高々と上げて片足立ちで残心をしていた。トラ子、それチョップやない。ティー・カウ・コーンや。
「セクハラでーす。それ以上はR18になるのでやめてくださーい。編集がメンドイでーす」
今更!? 散々ピーしといて今更なの!?
「和姦はいいけど強姦はダメでーす。同様に、言葉攻めはいいけどセクハラはダメでーす」
なんなのそのBPO基準は。エログロ系もあるってゆーてたやん。あとその喋り方も気になるからやめて。
僕は四つん這いになりながら呼吸の回復に努めた。
コヒューコヒューと笛のように鳴る喉をゆっくりと鎮める。
すーはー、すーはー。くんか、くん…………んん?
あれ、おかしいぞ。
笛の音は鎮まるどころか、加えてチンカラチンカラ鳴りだしたではないか。しかもさらに加えて、微かだがワイワイと声を上げて騒ぎ出した。
こりゃあ、お祭りだ。まるで喉のお祭り騒ぎやぁ。
僕が食レポみたいに呟いて皆を見ると、ゴブリンちゃんと珍右衛門さんは僕を一顧だにせず、道の先を見ている。
ちょっとやめてくれよ。無視?
「里の方からでしょうか?」
「いささか剣呑でござるな」
二人は顔を見合わせると、足早に先へ進み始めた。置いてけぼりになる僕とトラ子。僕らは顔を見合わせ、慌てて二人の後を追った。
その時になってようやく気付いたが、お祭り騒ぎになっているのは僕の喉ではなく、どうやら前方の何処かのようだ。
チンカラチンカラドンドコドン、ワーワーワーのピーヒャララ、と前方から祭囃子が聞こえてく。
里が近いって言ってたから、これが珍右衛門さんの里なのかな。賑やかな所ってゴブリンちゃんも言ってたし。
進むにつれて騒ぎ声がはっきりと聞こえるようになってきた。
ドーンドーンと太鼓の音がする。
パピーパピーとラッパの音も聞こえる。
ようやくゴブリンちゃん達に追いついた。ゴブリンちゃん達は木々の途切れた森の境い目に立ち、その先を見つめていた。
その視線を追って、僕もその先を見た。
そこには荒涼とした荒地が広がっていた。
その向こうに海が見えた。夕日を受けたさざ波がキラキラと輝いている。
そんな輝く海を背に、頑丈そうな塀に囲まれた集落が見て取れた。あれが珍右衛門さんの里なんだろう。
その周りに何百人かの人だかりがいて、ワイワイギャーギャーと騒いでいる。
長柄の物だったりヒカリモノだったり石だったりを持って、塀の外側の人と内側の人が一生懸命打ち合ってるみたいだ。
太鼓の音に合わせて寄せたり引いたりしている。
ラッパに合わせて走ったりしている。
煮えたぎった何かを押し寄せる群集に振舞ったりもしている。
あぁ、なるほど。確かにこれは祭りだ。血沸き肉踊るお祭り騒ぎってやつだ。
「さ、里が……」
呟き、くらりとゴブリンちゃんが倒れ込む。トラ子が直ぐさま支えた。
顎を撫でながら、妙に落ち着いた珍右衛門さんが独りごちた。
「ふむ。戦でござるな」
まさに、とんでもないお祭り騒ぎの始まりであった。
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