013 鎮まり給え

「バあっバあぅばばばバぁうばっ」

『え~っと。……や、やったか?』


 ふぎいっ! 


「あばバばぅバあばぁばうっバっばばあバっ。」

『う~ん。……ここはオレに任せて先に行け?』


 痺れるっ!


「あばうババ、アバぁばぅばっばばぁあ!」

『素晴らしい、究極生命体の誕生だ? あの、旦那様、コレなんの話なんですか?』


 おいトラ子! 僕のセーフティ機能を勝手に起動するんじゃない!


「ふーむ。なるほど、だいたい分かりました。ゴブ美、ありがとうございました」

『……? どういたしまして?』


 ハタ迷惑なことにトラ子は勝手に僕のセーフティ機能を発動させて、実験を始めてしまった。

 僕がセーフティ機能発動時に発してしまう謎言語と、ゴブリン語の因果関係を調べているらしい。


 トラ子が秘本ちゃんの表紙をフリックする度に僕の体に電撃が走る。


 ていうかソッチの都合でビリビリをオンオフできる仕様だったんかい!

 いま明かされし秘本ちゃんの謎機能。やめてくれよ。お陰で僕は、『やめて、もう僕のHPはゼロよ』状態だ。


「はぁ、はぁ、んで、何がだいたい、分かったんだ?」


 僕は息も絶え絶えにトラ子へ問うた。セーフティ機能は冗談抜きにシンドイので、何かしらの成果は欲しいところだ。


「はい。アタイには全く分からない、という事が分かりました。ソクラテスの言う無知の知ってやつっすね」

「ほーん、やってくれたな馬鹿トラ子が! スカート捲り上げてケツをこっち向けろ! デカイのブチ込んでやるぞクソが!」


 このアホ子、無意味に痛めつけてくれやがったな!

 僕は怒りのあまり一瞬にして我を忘れた。股間のアナコンダも怒りでいきり立つ。

 いかん、トラ子を襲う気だ! 荒ぶる神よーっ、鎮まり給えー!


「ひ~ん。アタイの指先ひとつで、このマッチョサタン様ボディがのたうち回るが快感だったんっすよぉ~。は~ん捗るぅ」


 反省の色無し!

 本当にスカートを捲り上げたアホ子を川に放り投げて、反省を促す。川万能説ふたたび。

 まったく下らない冗談を本気にしよって。流石にゴブリンちゃんの眼前でイタシたりはしないぞ。今更ではあるが。


 ちなみに、さらに本当に今更だが、僕は未だに全裸だ。

 だって矢継ぎ早に色々な事が起こるので、服を着る機会を完全に逸してしまったんだもん。そもそも服自体が、暴れまわったせいでボロ雑巾のようになってしまっている。


 最早ゴブリンちゃんからは、僕は全裸がデフォルトだと思われているに違いない。

 そのゴブリンちゃんは先程からチラチラと僕のいきり立ったタタリ神を盗み見ている。

 恥ずかしそうに顔を手で覆いながら指の隙間から覗くという高等テクだ。はわわっ、とか言ってる。

 トラ子がスカートを捲り上げた時は、ぐびびって言っていた。

 さてはこいつ初心な振りして相当の食いしん坊だな?


 とにかく全裸状態から脱却せねば。文明人たる僕が裸でウホウホ言っている訳にはいかない。かと言って前述通り僕の着ていた服はボロ雑巾同然だ。

 まあせっかく洗濯したので最悪は腰巻程度に使ってやるウホ。


 という訳で死体漁りタイムと相成った。

 僕がヤッちまったと思われる5人組の亡骸から、使えそうな服をリサイクルするという寸法だ(服だけに)。

 品行方正を地で行き倫理を守る僕であるが、生きるために少しだけ、必要最低限の逸脱をすることは咎められまい。

 お天道様よ、許し給え。


「ひゃっほ~! トラ子よ、二ノ宮金次郎のヤツ、金貨なんか持ってやがったぞ! コイツはツイてるぜ!」

「うへー。こっちのヤツは素寒貧っすね。銅貨なんて今時あるんすか」

『旦那様っ。こちらのお召し物なんていかがですかっ? お尻がキュッとなって、きっと素敵です!』

「おお? これはもしかして酒なんじゃないか? おいおいコイツ酒飲んで人に襲い掛かるとはヤリサー大学生か?」

「ヒューっ! こっちには干し肉があるっすよ。これをアテにして一杯やりましょう!」

「ばばアバばうあばっバあぅば!」


 かくしてトレジャーハントは大盛況の様相を呈するのであった。不謹慎!

 ゴブリンちゃんなんて途中から秘本ちゃんほっぽり出して盛り上がっちゃってるぞ。もう何言ってるか分かんないな。


 いやはや、しかし予想外の収穫でしたなぁ。金、酒、肉、剣、弓矢、旅装具一式、装飾品が少々。大儲けだぜ。

 服? 知らんウホ。全裸で行くぜ!

 あぁ……、いや。やっぱり服は着よう。

 何故ならさっきからゴブリンちゃんが嬉しそうに、トレジャーハントした組み紐やら指輪を使って僕のアナコンダをやたら装飾しようとしてくるからだ。

 なんなのコレ? 僕のアナコンダがデコりケータイみたくなっちゃうよ。

 異文化交流の闇が深い。そして痛い。


 誠に心苦しいのですが、チンデコを続けるゴブリンちゃんにやんわりとお断りをお伝えした。ちょっとそういう蛮族文化には馴染めないんだ。ゴメンね。


 僕は5人組から一番大きいサイズの服を剥ぎ取り、身に纏った。それでもムキムキボディには長さが足らず、七分丈のパツンパツンになってしまった。デカァイ!


 ピチピチズボンにアナコンダを無理やり仕舞うと、ゴブリンちゃんは名残惜しそうに股間へ手を振って別れを告げた。その瞳に涙が浮かび、表情に寂寥感があふれる。えっ、そこまで?

 僕の股間に手を振っていたゴブリンちゃんだが、しばらくすると涙を拭い吹っ切れた様子で僕に問いかけた。


『あの、旦那様、そろそろゲオルギオスを起こしてもよろしいでしょうか?』


 ええっ!?

 その突然の申し出に、僕は、『誰のことですか?』という疑問よりも先に、『さっそく僕のチンアナゴさんからその男に乗り換えるんですか?』という強いNTR感を受けた。

 ゴブちゃんもしかして彼氏が途切れた事がない系女子だったの? ビッチ、ビッチよこの子!


 やっぱりチンデコを断ったのが風習的に良くなかったのか。

 そう思い直してもう一度チンデコして貰おうとズボンをゴソゴソしていると、ゴブビッチちゃんが僕の手を遠慮がちに引いてきた。


 あら、もう! そんな男慣れして無い感じでボディタッチしてきても、ゴブリンちゃんが男を取っ替え引っ替えしてるの、僕には分かんだからねっ。でもゴブリンちゃんがヨリを戻してくれたみたいで嬉しいぞ。

 まさに男心を手玉に取る魔性の女ゴブリンちゃん。悔しい、でも感じ入っちゃう! 


 トテチテとゴブリンちゃん手を引かれ歩いていくと、どうやら倒れているあの鎧武者のところへ行くようだ。

 アレがゴブリンちゃんの今彼ゲオルギオスなの?

 和風の鎧姿だけど渋いファンタジーイケメン風の名前なんだな。

 蜷川珍右衛門とかそういう名前じゃないのか。

 てっきりあの兜を脱がすとケツアゴのトンチ親父が出てくると思っていたぞ。格好と名前の世界観がマッチしておらぬ。


 その鎧武者、珍右衛門さんに向かおうとすると既にトラ子が身ぐるみ剥がそうとしていた。行動が早いよ!


「あ、こら、この泥棒猫やめなさい! シッシッ! それはアンタのもんじゃないよ! あっちへお行き!」

「ふしゃー!」


 ノリの良いトラ子は猫の威嚇マネをしながら、兜を咥えて走り去っていった。お兜咥えたトラ猫だ。まったくもう、トラ子は兜を咥えるのが大好きなんだから!(意味深)

 僕らのおふざけによって兜がもぎ取られた珍右衛門さんは、その拍子に頭が後頭部からゴチンと落ちた。


「おっと今のがトドメじゃ、悪いからダメ寝覚め! トラ子め、やるなら寸止め! オレはトラ子へキツめの戒め! チェケラ!」


 僕がライムの効いたバイブス上げ上げの注意をすると、それを察したゴブリンちゃんはトラ子を庇った。


『大丈夫ですよ。ゲオルギオスは竜殺しの古強者なんです。あれくらいへっちゃらです』


 竜殺し? 厨二病全開のパワーワードじゃないか。竜殺しゲオルギオスとはなかなかカッコイイ。

 それに比べてこっちは陰キャ奴隷とHENTAIガチ痴女肉便器なんですけど。うーん、これぞ格差社会。あぁ他にも、ちょいマゾむっつりエロ本もいたな。メインヒロインを忘れちゃいけないゾ。


 ゴブリンちゃんがトテチテと竜殺しの珍右衛門さんに駆け寄り、ゆさゆさと揺さぶりだした。あの、一応頭を打ってるんで優しく起こしてあげてね。


 ゴブリンちゃんのユサユサによって珍右衛門さんは目を覚ましたようだ。「うう~ん」とか言いながらながら上半身を起こした。声が渋い。顔を見ると、幸いなことに珍右衛門さんは僕の想像と違ってケツアゴのトンチ親父ではなかった。


 その代わりに首から上に豚の頭が乗っかっていたが。


「ぶひびぃぶうブヒぃぶふ!」


 そして声が森山周●郎そっくり!





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