006 これは運命だよ

 そして回転の中心を左足のかかとからつま先に移しそこから全身の力を……!


「ずぇんしんのちからぉハンマーに移して腕ぇを振りゅ切るぅうりゃあ~~っぁああっ!」

「ハンマーって言っちゃってるっす!?」


 僕はガチムチボディに秘められた全筋力を振り絞り、渾身の投擲を決めて秘本を投げ飛ばした。

 凄まじいスピードで空へ向かって秘本が飛びたつ。

 グッバイ!


 しかし僕の期待と裏腹に、秘本はビタンッと見えない壁にぶつかったかのように空中に留まった。

 なにごと?

 地上から3メートルほどの高さに浮かぶ秘本。


 一拍の間をおいて秘本は身悶え震えだした。本なのに身悶えるなんて、おそろしく分かりにくい本。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 そして段々と震えが大きくなるにつれて、なんと、秘本の表面に激しい稲光が走る!

 ええっマジかよコイツも? いままでにオルガズム的要素あった!?


「はは~ん、さてはこいつマゾだな?」


 腑に落ちた僕を尻目に秘本の装丁にかけられたゴツイ錠前が弾け飛び、秘められた力が解き放たれた!

 力の波動を感じて全身に鳥肌が立つ。よかったコイツファンタジーしてる。トラ子と違ってお漏らしじゃない。


 僕が安堵している間に、秘本の閉じられていたページがゆっくりと開かれていく。


「うわっち! 見たらダメっすよ。聞いてもダメっす。わーわーわー!」


 急に慌てだしたトラ子ことお漏らし1号が僕の背中に飛び乗って、背後から僕を目隠しした。そうやって目を塞ぎながら耳元でギャーギャー喚きだす。


 ちょっとー! 秘本ちゃんの秘密のアソコが見られないじゃないの!


 僕が軽く抵抗するとトラ子はズリ落ちそうになり、両足を僕の腰にがっしりホールドさせてしがみついてきた。逆だいしゅきホールドだ。キツそうだったのでオンブのように後ろに手をまわしてトラ子の尻をしっかり掴んで支えてあげた。

 偶然だ、他意はない。


 ……さて、いったい何が起きているんだ。

 さっぱり分からぬ。

 トラ子によって視界は塞がれており、喚き声で聴覚も奪われてしまった。

 ならば、僕は残された触覚と嗅覚と味覚によって状況を探るしかない。

 どれどれ。

 何も見えない暗闇のなか、自身の触覚に集中する。


 まず感じるのは、手の平に伝わるトラ子のむっちりとした尻肉の心地よさ。僕の手の平とトラ子の尻たぶがジャストフィットする。これは揉まざるを得ない。他に分かるのは背中に押し付けられたトラ子のムチッとした胸のふくらみだ。モチモチのお胸とその頂点のふたつのポッチから幸せを感じざるを得ない。うん、トラ子は肉感的なムッチリボディだな。とらじまいいにく。


 触覚を堪能したあとは、嗅覚を研ぎ澄ます。

 あぁトラ子いい匂いがするよぉお小遣いあげたいくんかくんか。


 そしてついに禁断の味覚――


「よっし。もう大丈夫っすね」


 シュタタっとトラ子が僕の背中から離れてしまった。えっ……!?

 僕は逆だいしゅきホールドによる幸せな束縛への寂寥感と、未知の味覚を試す機会を逃したことへの後悔によって、胸が痛んだ。キュン。

 

 だから、必然、僕は決意した。

 よし、もう1回あの本を投げ飛ばそう。


 決意を胸に空中を見上げると、しかし秘本ちゃんはお空に浮かんではいなかった。

 辺りを見廻すとポツンと地面に転がっていた。


 トラ子がヒラヒラ~っと駆けて行き、秘本ちゃんをひょいっと拾い上げて持って来てくれた。ついでにヘソだし貫頭衣の裾がヒラヒラ~っと揺れ、下乳が見えそうになる。


 トラ子は仕草や行動に小動物めいた可愛さがあるのだが、10アメショー以上の重さがある秘本ちゃんを軽々と持つ力があるようだ。可愛さと切なさと心強さとが同居していてあやまちをおそれずにはいられない。


 僕がトラ子の下乳に切なさを馳せていると、その下乳の持ち主が僕に秘本ちゃんを差し出してきた。

 差し出された秘本ちゃんを確認する。ご開帳していた秘本ちゃんの秘密の花園はしっかり閉じていて、貞操帯たる錠前もすっかり元通りになっていた。

 秘本ちゃんは絶頂しちゃう前に戻ったようだ。秘本ちゃんはムキムキ悪魔やトラ子と比べて後片付けができる良い子。好感度急上昇だ。


「秘本ちゃんは偉いね」

「いつの間に愛称で呼ぶようになったんすか。なにキッカケ?」


 僕は秘本ちゃんを受け取り、その表紙を優しく撫でた。

 キッカケなんて問題じゃないんだ。そこに愛さえあれば。マッチングアプリだろうが、大人のデリバリーだろうが、パパとしての活動だろうが、関係ないんだ。

 偶然お風呂屋さんで出会った男女が恋に落ちることもあるんだろう?

 それは運命と言えるんじゃないか。


「キッカケ? これは運命だよ」

「いや良いこと言ってる風に腐った理論を吐かれても。全部、金で買ってるんすよね」


 ヒドイ言い方をするんじゃない。それは対価じゃなく、誠意の表れだ。自分だってだいしゅきホールドで当ててんのよしてきたクセに、大人のお風呂屋さんを否定するなんて……んん?

 ……だいしゅき……ホールド? ――はっ!?

 僕はそれで思い出した。


「そういえば急に抱きついて来たりして、さっきのは何だったの? せっかく秘本ちゃんの秘宝館がオープンしたのに」


 団地妻みたく熟れた体を持て余したの?


「あー、あれは仕方が無かったんすよ。観察対象者が秘本の中身を見るのはヤバイみたいで。認識的パラドックスに嵌って永遠の陥穽に落ちていく、らしいんす。よくわかんないですけど」

「ふーん。なるほど、わからん」

「意識が合わせ鏡の中に入っちゃうみたいなもんらしいっすね」

「より一層わからんぞ。解説ベタか」

「もう! 頭の中が無限ループしてエンドレスエイトしちゃうってことっす! とにかくダメ!」

「急に砕けた説明になったな」


 無限ループしちゃうのか。頭の中が無限ループするってどういう状態なんだ?

 僕はすぐさまその疑問を行動に移した。

 それは、疑問に思ったら即実行、考えるな・感じろ、という父の教えを忠実に守る僕には無理からぬことだった。父は他には、ブッ殺すではなくブッ殺したが正解、とも言っていた。

 まあとにかく、そう思った時には反射的に僕は秘本ちゃんを無理矢理こじ開けて、僅かな隙間から中身を覗き見していた。


「あっ! ちょっとダメだってホントに!」


 秘本ちゃんの中にはこう書いてあった。


  ――急に砕けた説明になったな」


 無限ループしちゃうのか。頭の中が無限ループするってどういう状態なんだ?

 僕はすぐさまその疑問を行動に移した。

 それは、疑問に思ったら即実行、考えるな・感じろ、という父の教えを忠実に守る僕には無理からぬことだった。父は他には、ブッ殺すではなくブッ殺したが正解、とも言っていた。

 まあとにかく、そう思った時には反射的に僕は秘本ちゃんを無理矢理こじ開けて、僅かな隙間から中身を覗き見していた。


「あっ! ちょっとダメだってホントに!」


 秘本ちゃんの中にはこう書いてあった。


  ――急に砕けた説明になったな」


 無限ループしちゃうのか。頭の中が無限ループするってどういう状態なんだ?

 僕はすぐさまその疑問を行動に移した。

 それは、疑問に思ったら即実行、考えるな・感じろ、という父の教えを忠実に守る僕には無理からぬことだった。父は他には、ブッ殺すではなくブッ殺したが正解、とも言っていた。

 まあとにかく、そう思った時には反射的に僕は秘本ちゃんを無理矢理こじ開けて、僅かな隙間から中身を覗き見していた。


「あっ! ちょっとダメだってホントに!」


 秘本ちゃんの中にはこう書いてあった。


  ――急に砕けた説明になったな」


 無限ループしちゃうのか。頭の中が無限ループするってどういう状態なんだ?

 僕はすぐさまその疑問を行動に移した。

 それは、疑問に思ったら即実行、考えるな・感じろ、という父の教えを忠実に守る僕には無理からぬことだった。父は他には、ブッ殺すではなくブッ殺したが正解、とも言っていた。

 まあとにかく、そう思った時には反射的に僕は秘本ちゃんを無理矢理こじ開けて、僅かな隙間から中身を覗き見していた。


「あっ! ちょっとダメだってホントに!」


 秘本ちゃんの中にはこう書いてあった。


  ――急に砕けた説明になったな」


 無限ループしちゃうのか。頭の中が無限ループするってどういう状態なんだ?

 僕はすぐさまその疑問を行動に移した。

 それは、疑問に思ったら即実行、考えるな・感じろ、という父の教えを忠実に守る僕には無理からぬことだった。父は他には、ブッ殺すではなくブッ殺したが正解、とも言っていた。

 まあとにかく、そう思った時には反射的に僕は秘本ちゃんを無理矢理こじ開けて、僅かな隙間から中身を覗き見していた。


「あっ! ちょっとダメだってホントに!」


 秘本ちゃんの中にはこう書いてあった。


  ――急に砕け

「はいドーーーーーーーーーーン!!』


 ガヅンッという凄まじい衝撃と共に、!?

 何だ突然!?

 痛みで意識が朦朧とする。メチャクチャいたいよぉ……。


 降ってきた地面を被ったまま周りを見ると、涙でにじむ視界の向こうでトラ子が逆立ちしている。いや、逆立ちではなく、空から落ちてきた地面に天地逆転してぶら下がり、残心の構えをしていた。この子はコウモリの末裔かな?

 違うか? もしかして僕の方が逆さまになって地面にブッ刺さっているのか?

 しかし何故? 一体なにが起こっているんだ。

 激痛でぼんやりした頭のまま、答えを探すように視線を巡らせる。すると、逆立ち地被り状態の僕のローアングルから、トラ子の巻きスカートの中身が垣間見えた。

 ――っ!!

 急激に覚醒する僕の意識。コヤツ履いてな――!?


「見たっすね?」

「いや見てない! ちゃんと履いてました! 大丈夫です! 一筋のピンク!」


 僕は飛び起きて土下座をした。


「そっちじゃなくて秘本のことっす。だからダメって言ったのに」


 秘本? 見た?

 ちょっと何言ってるのかわかんないですね。

 なぜか記憶が曖昧だ。

 たしか、秘本ちゃんを投げ飛ばしたら急に震え出して、稲光がビカビカ~で錠前がバ~ンして、本がパカ~ンってなったらトラ子がガシッとしがみ付いてきて、尻モミモミぃの匂いくんかくんかぁで次はペロペロぉを……はっ!?


 なるほどそういうことか。


「さぁ秘本ちゃん。気を取り直して、もう1回飛ぼうか」

「ヤバっ。完全に途中の記憶を失ってるじゃないっすか……」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る