第10話

何故こんな状況になっているのだろう…と由紀乃は紅茶に口を付けながら思う


目の前にはそんな由紀乃をニコニコとした表情で見つめるレオニードの姿があった


「そんな怪訝そうな顔せんでもええやろ〜。ほんまかわええ子」


「はぁ…」


ずっとニコニコとしている彼が考えている事が読めず、由紀乃は混乱するばかりだ


「ほんで、アイツらとは何処で出会ったん?」


「森の中で迷っていた時です」


「へぇ、ええな。アンタはアイツらみたいな善人に拾ってもらえて」


レオニードは目を細めそう言った


それはまるで自分もそうであったらよかったのにと思う心が透けて見えた様だった


「…貴方は人格が壊されて兵器にされたと聞いたのですが」


「いや、そこまで壊されてへんで」


レオニードのその言葉に由紀乃は目を見開く


「…じゃあ、なんで貴方は自ら望んで人を殺すの?」


「…なんでやろうな。幸せそうなアンタには分からへんよ」


彼は由紀乃を嘲笑ったような瞳で見つめそう答える


まるで自分が不幸のどん底にいるかのように


そんな様子の彼に由紀乃は段々とイライラする


彼がどんな過去を持っているかは由紀乃には分からない


それでも無理矢理兵器にされ、苦しんだ4人に失礼だと思った


「…貴方がこの世界に来るまでの事や来た後にあった事は私には分からない。だって話してくれてないもの」


「話したって変わるもんじゃないやないか〜」


「変わらなくても今の貴方を変えれるかもしれないじゃない!」


怒ったように声を荒げた由紀乃


そんな由紀乃にレオニードは驚いたように目を見開いた


「…変えられる?アンタが?俺を?笑わせてくれるなぁ〜。相当自惚れてるでアンタ」


そう冷たく言い放ち、軽蔑と憎しみを込めた瞳でレオニードは由紀乃を睨み付けた


「そうやって決めつけて逃げてるんでしょ」


負けじと由紀乃も彼を睨み付けそう言い放つ


「ふ、はははははは!!!!ほんま、面白いやっちゃで!ええで、話たるわ」


レオニードは大声で笑い、何もかも諦めたように語り始めた


「俺は元の世界では虐められ、両親にも蔑まれて生きてきた。何度も死にたいと思ったわ…。そんでな、死のうと思って学校の屋上から飛び降りたんや!!!なのにこんな世界に飛ばされ、挙げ句の果てには兵器にされたんや!!!!兵器に作り替えられるときは死にたいぐらいの苦痛を味わった…。だけどな、そのおかげで幸せそうな奴らを殺す力を手に入れたんや!!!!」


泣き叫ぶようにレオニードは語る


「俺は世界をぶっ壊したかったんや!!!!これで元の世界に戻されたとしてもアイツらを!俺を邪険に扱い惨めに虐めてきた奴等を殺してやれる!!!!」


ギラギラとした瞳でそう言い切る


殺意と憎しみ、哀しみ


そんな彼に由紀乃は涙を流した


「なんで、アンタが泣くんや…?」


レオニードは驚きに瞳を震わせる


「私には貴方の苦しみの全ては分からない…。貴方を思って泣くことしか出来ない…」


「同情か…?そんなもんいらんねん!!!!」


レオニードは怒りに任せ由紀乃の首を絞めた


「っぐ、貴方は…、今も、苦し…んでる、のに…、泣かない…、じゃない、だから、私が…、代わりに、泣く、の…」


息も絶え絶えに由紀乃は哀しみの含んだ声で言う


レオニードから目を逸らすこともせず慈愛の満ちた瞳を向ける


そんな彼女にレオニードはだんだんと首を締める力が抜けていった


彼女から目が逸らせない


涙を流しながらこんな自分に笑みを向ける彼女にレオニードは、枯れ果ててしまったと思っていた涙を流した


首から手を離し、由紀乃を抱き寄せる


「ほんまは、誰かに共感されたかった…!辛かったねっていって欲しかったんや…!」


由紀乃を抱き付きハラハラと涙を流し、そう言う


「もう、憎しみに囚われないで…。どんなにここで人を殺したって貴方は救われないよ…?」


優しい母の様にレオニードの背中を撫で、言い聞かせる


「…はは、ほんまにアンタは不思議やな。元の世界にいた時にアンタと出会えたら良かったのに…!」


「…そうね、元の世界で出会えてたら何か変わっていたかもしれないね」


由紀乃がそう言うとレオニードはやっと心の底から笑えた


「俺な、元の世界では麗央っていうんや…。アンタにはそう呼んでほしい。なぁ、アンタのことはゆきって呼んでええか…?」


強請る様に、甘える様にそう言う彼に由紀乃は力強く頷いた

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