第8話

広めの湯船に浸かりながら由紀乃は大きく伸びをした


「はぁ〜…、やっぱりシャワーよりお風呂よね〜」


肩までお湯に浸し、これからの事を考える


前の街では騒動を起こしてしまったせいで元の世界に戻る為の情報が手に入らなかった


元の世界に帰れるのはいつになるのやらと由紀乃は大きくため息を吐いて、口元までお湯に浸した


ガラリとガラス戸が開く音に由紀乃は嫌な予感がする


「ユキノ、お湯加減はどうかな?」


「キャー!!!!」


咄嗟に湯船の縁に置いていたバスタオルで体を隠す


案の定入って来たのはフィリップだった


「叫ばなくてもいいだろう、ユキノ?オレと君の仲じゃないか!」


「いいから出ていって下さい!!!!!」


由紀乃がそう言いながらフィリップの方を向く

そして再び叫び声をあげそうになる


フィリップはタオル一枚腰に巻いているだけの姿だった


「な、なんで裸なんですか!?」


「ユキノはおかしな事を言うね?オレも一緒に入るから裸なんだよ!」


とてもいい笑顔でそう答えるフィリップに由紀乃は殴ってやろうかと思うも、タオルを押さえているのでそれも出来ない


いつもはローブと服に隠されている引き締まった彼の体に不本意ながらもドキドキと心臓は音を激しくさせた


早く誰か騒ぎに気づいてほしいと由紀乃は心の中で愚痴る


しかし、そうなってしまうと自分の裸も彼等の前に晒す事になる事に気付く


「一緒に入らなくていいので早く出ていって!!!!」


「んー、そんなつれない事言わないでおくれよユキノ…」


色気を含んだ様な表情でフィリップは由紀乃に近寄る


由紀乃は咄嗟に湯船のお湯を彼に向かって浴びせた


「ぶはっ、何するんだいユキノ!?」


頭からお湯を被ったフィリップは濡れた髪を掻き上げる

余計に色気が増し、由紀乃はクラクラした


このまま押し切られてしまう…!と危機感を抱いたその時救いの手が現れた


「フィリップ!!!!女子の入浴中に入るとは許せない事だぞ!」


ドア越しにファルコが怒鳴る


フィリップの視線がそっちの方を向いたのをいい事に、由紀乃は近くにあった桶を彼の頭に渾身の力で投げつけた


桶がクリーンヒットしたフィリップは、打ちどころが悪かったのかノックアウトされた


倒れたフィリップを確認し、タオルをしっかりと体に巻き付けた由紀乃


「ファルコさん、タオル巻いたのでこの変態を回収していって下さい」


由紀乃が冷え切った声でそう言うとファルコは、なるべく彼女の方を見ない様にしながらフィリップを回収した

意識を取り戻したフィリップはその後しばらく由紀乃に無視され、他の3人にはボコボコにされたのだった

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