第7話
騒ぎを起こした街から5人はそそくさと離れる
しばらくは自分達で果物を集めたり、魚を取らねばならないだろう
幸い寝る場所はフィリップの魔法で何とかなる
しかし、これからどうやって渡人である事を隠しながら旅をするかを由紀乃は悩んでいた
フィリップの魔法で髪色を変えても他の魔道士が彼のかけた魔法を解除してしまったら意味がないらしいのだ
やはりローブで頭をしっかりと隠す以外方法が無いことに由紀乃は大きくため息を吐いた
「ユッキノ〜、僕と果物探そっ!」
悩んでいた由紀乃に向かって無邪気にセルヒオがそう言い、彼女に抱きつく
フィリップがセルヒオを凄い形相で睨んでいたが、由紀乃は見なかったことにした
「うん、探しに行こう!」
由紀乃がそう答えるとセルヒオは嬉しそうに彼女の手を引き、森の中へと入って行く
最初にいた森よりも日差しがよく届き明るい森の中に由紀乃は安心する
色んな果物が実る木々がそこら中にあり、綺麗な湖もあった
「ユキノ、これ美味しいんだよ〜!食べて食べて!」
セルヒオがそう言い渡してきた果物は由紀乃の世界で言うバナナの様だった
皮を剥き、一口口に含む
ジューシーな果汁が口に溢れ、ほのかに酸味の効いた甘さが口の中に広がった
「美味しい〜!こんなに美味しい果物今まで食べた事ない!」
「えへへ、良かったよ〜!」
キャッキャと楽しげに果物を集めていると、突如セルヒオの表情が変わる
その途端大きな音と共に木の根っこの様な形をした触手がウネウネと現れた
「ひぃっ、気持ち悪い…!!!!」
まるで男性向けの同人誌に出てきそうな植物に由紀乃はサッと青ざめる
「ユキノ、逃げるよ!僕の攻撃はこのタイプにはあまり効果がないんだ!!」
「え、きゃっ!?」
セルヒオはそう言うと由紀乃を姫抱きし、駆け出す
必死にセルヒオの首にしがみ付く由紀乃
他の3人と比べて小柄でおっとりした口調だから忘れていた
彼も立派な男性である事に
由紀乃は思ったよりも筋肉質なセルヒオの体にドキドキと心臓が鼓動を早める
あっという間にフィリップが出してくれたログハウスまで戻ってこれた
だが、触手はまだついて来ていた
「ファルコ!お願いねぇ〜!!」
セルヒオがそう叫ぶと薪を割っていたファルコが瞬時に剣を出現させ、触手を切り刻んだ
「思っていたよりも核が近くにあった様だな」
斬られ灰の様に消えていく触手を見ながらファルコはそう言った
セルヒオにおろしてもらった由紀乃
しかし、まだドキドキとした胸は落ち着いていなかった
そんな様子の由紀乃にセルヒオはニッと笑い、彼女の耳にこう吹き込んだ
「僕だって男だよ?やっと意識してくれたんだね」
瞬時にセルヒオから離れ、彼を見る
そこには色気を含んだ笑みで由紀乃を見つめるセルヒオがいて、彼女は目眩がしそうだった
「おや、可愛らしく顔を真っ赤にしてどうしたんだいユキノ?」
フィリップにそう言われ恥ずかしくなった由紀乃はますます顔を赤く染める
「んー、実にいい顔だけどそれが他の男によって引き出されたと思うと妬けるな〜」
フィリップはそう言い、瞬時に魔法書を出すとセルヒオに雷を落とした
しかし、その攻撃を読んでいたのかセルヒオは軽々と避ける
「あはは、嫉妬深い男は嫌われるよぉ〜、フィリップ」
挑発する様にそう言うセルヒオ
その表情は口元は笑っているのに目が笑っていなかった
そんな2人の突然始まった戦闘に由紀乃は慌てふためく
止めなければと2人に駆け寄ろうとしたその時
ゴンッと鈍い音
キースがフィリップを、ファルコがセルヒオに拳骨を落としていた
「何やってんだよこの馬鹿共が!!」
「ユキノが怪我するだろう。他所でやるんだな」
キースとファルコに叱られ、2人は不貞腐れたようにそっぽを向いた
「喧嘩はダメですよ…?」
オドオドとした態度で由紀乃が2人にそう言う
するとフィリップはいつもの様なだらけた笑みを浮かべ、セルヒオも頬を緩ませた
「はぁ、オレのユキノは今日も可愛い…!」
「ユキノがそう言うならしょうがないよねぇ〜!」
そんな2人の様子に引きつった笑顔を浮かべ、由紀乃は小さくため息を吐くのだった
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