第3話

何とか落ち着いたキースとフィリップに由紀乃はやっと安心出来た


落ち着いたところで由紀乃はこの世界の事をまた詳しく聞こうと話を切り出した


「あの、この世界の事まだ分からない事だらけなんです…。教えてください」


「そう言えば説明の途中で狼男出たんだったな」


キースがそう呟く


「そうだったね。とりあえず場所を変えようか」


フィリップにそう促され、由紀乃が寝ていた寝室からリビングに移った


机に着くとフィリップが魔法で飲み物を出してくれた


「んー、何から話そうかな?まずはオレ達についてちゃんと説明しといた方がいい?」


「なんだ、私達の事は説明していなかったのか?」


「それならちゃんと説明しといた方がいいと思うな〜!」


ファルコとセルヒオにそう言われたフィリップは由紀乃に真剣な表情で向き合う


「もし、この話を聞いてオレ達から離れたくなってもオレはもうユキノを手放せないから…」


声のトーンが低くなり目からハイライトが消えたフィリップに由紀乃は表情を引き攣らせた


「じゃあ、説明するね。オレ達は戦争の為に造られた人間兵器なんだ。だからオレ達は今まで何人もの人を殺めてきたんだ、平和に暮らしてきたユキノには信じられないだろう?」


由紀乃はヒュッと息を呑んだ


フィリップは感情のない表情で冷たい瞳でそう語る


それが本当だと実感する様な声色でもあった


しかし、冷たい瞳の奥に哀しみが隠れている様に感じ、嫌悪は抱かなかった


戦争なんて由紀乃にとっては生まれる前に起こっていた事で、授業で平和について習う時に道徳の本で読んで聞いたことしかない事だ


でも、みんな人を殺したくて殺していたわけじゃないことくらい知っている


「フィリップさんは殺したくて殺していたんですか…?」


「…んー、造られた意味が殺す事だったからね。それ以外生きている意味なんて無かったからさ」


「キースさんは?」


「殺したくて殺すわけねぇだろ。殺さなきゃ殺されるんだからな」


「ファルコさんは?」


「…殺したくなんか無かったさ」


「セルヒオさんは?」


「殺さなきゃ処分されていたからね〜」


4人の話を聞いて由紀乃は表情を引き締め、力強くこう答えた


「なら、私はあなた達を軽蔑もしなければ怖いだなんて思わない」


由紀乃の言葉に4人は目を見開く


「確かにその手は人を殺してきたかもしれない。でも、無差別に殺すような人では無いと私は思うもの」


由紀乃はこう言葉を続け、ニコリと微笑む


「それにフィリップさん私にこう言ったでしょう?『そばに居る限り守り抜く』って」


フィリップは由紀乃にそう言われ瞳を震わせた後、ウットリと砂糖菓子が溶ける様に甘い表情を浮かべた


「あは、やっぱりオレはユキノの事手放せないよ…!」


あ、何か変なスイッチ入れたと由紀乃は浮かべた笑顔を凍らせる


助けを求める様に他の3人を見るもキースは顔を赤くし頭を掻き毟っていて、セルヒオはウルウルと瞳を潤ませながら甘い表情で由紀乃を見つめ、ファルコは涙ぐみながらはにかんだ笑顔を由紀乃に向けていた


…これは乙女ゲームでいうフラグに入ったというやつではと由紀乃は混乱した頭で思う


そして4人のフラグに入る様な事言ったか…?と考えるが思い当たる節が無い


チラッと再び4人を見る


自惚れじゃなければ4人とも恋する乙女の様な表情だ


テンパる由紀乃にフラグが完全に立った事が証明された


「…俺だってテメェを守ることぐらい出来るわ」


「人を殺めてきた私達を怖がらずにいてくれるなんてな…。君は優しい人だ」


「僕、ユキノを守る為にもっともーっと強くなってみせるからね〜!!」


それぞれ由紀乃に対して距離が近く、頭を撫でたり抱きついてきたり、そっと手を握ったりとまるで乙女ゲームの逆ハーの様である


由紀乃は思った


美形揃いでとても羨ましがられる状況ではある


しかし、彼女は平凡な日常を愛していた


平凡な日常に帰り、普通に恋愛がしたいのだ


そして、心に決めた


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