第2話

由紀乃は何故自分が渡人と呼ばれ、服を変えられたのかも分かっていなかった


もちろん魔道士キャスター狂戦士バーサーカーの事も


「あの、私が渡人ってどういうことですか?」


由紀乃がそう尋ねるとフィリップが優しく微笑み、説明してくれた


「渡人って言うのはこの世界とは別の世界から来た人物のことを言うんだよ。特にこの世界ではユキノの様な綺麗な黒髪なんていないからね」


フィリップはそう言いながら由紀乃の髪を優しく掬い、髪にキスを落とした


キザな行動だが彼がするとさまになっていて由紀乃は照れるばかりだ


「…それに渡人は器にピッタリだから狙われやすい。その黒髪も隠さなきゃダメだね…」


フィリップのその言葉にキースはギリッと音が鳴るほど強く歯軋りをした


2人がとても苦しそうな悲しそうな表情をするから、由紀乃は器がどういう事なのか聞く事が出来なかった


ふいにガサガサと音がなる


キースとフィリップの雰囲気がピンと張り詰めた


音のした方を見ると狼の様な頭で筋肉質な人間の様な体をした怪物がいた


「何…これ…」


「チッ、おいフィリップ結界張ってたんじゃないのかよ!」


「すまない、どうやら気を抜いていた様だ」


2人は由紀乃を庇う様に怪物の前に立ちはだかる


フィリップの手が光ると古びた本が現れ、同じ様にキースの手が光ると死神が持つ様な大鎌が現れた


「強化魔法かけとくよ、キース!」


「いらねぇよ!!!!オラァ!!!!」


キースが大きく飛躍し、軽々と大鎌を振るう


そんなキースに真っ正面から怪物は立ち向かってきた


避けもしない怪物にキースは笑いながら大鎌を振り下ろした


怪物は真っ二つに切られ、それぞれ左右に倒れる


吹き出した血、余りにも惨い光景に由紀乃はヘナヘナと倒れた

由紀乃が目を覚ますと見知らぬ部屋にいた


ここは何処だったかと記憶を辿る


脳裏に真っ二つになった怪物を思い出し、吐きそうになるのを必死で堪えた


「ユキノ、目を覚ましたんだね!良かった、突然倒れるからビックリしたんだよ!」


声のした方を向くとフィリップがドアを開いて中に入ろうとしている所だった


「あの…、さっきのって…」


「あぁ、あれは狼男ウルフマン。この森の中で1番多い怪物だね」


「この世界ではあんな怪物がいっぱい居るんですか…?」


「んー、そうだね。珍しくは無いね」


由紀乃はこんな世界に来てしまったことに恐怖を覚えた


普通に生きてきたのにどうして…と悲観的になる


フィリップは眉をハの字にしながら由紀乃の頭を撫でた


「ユキノはとても平和な世界から来たんだね…。怖いよね、でも大丈夫さ。そばに居る限りオレは君を守り抜くよ」


そう言ったフィリップを由紀乃は涙目で見上げる


するとフィリップはそっと由紀乃の顔に手を添え、彼女にキスを落とした


突然の事に由紀乃は頭の中真っ白になった


しかし、無意識のうちに由紀乃の手はフィリップの頬をビンタしていた


「〜〜いきなり何するんですか!?!?」


「んー、手厳しいなぁ…。キスして欲しそうな顔してたのに…」


「そんな事ない!!!!」


そんなやり取りをしていたらドアが開いた


「おい、うるせぇぞ。何してんだ」


キースが気怠そうに部屋に入ってきた


頬に小さな紅葉を付けているフィリップに全てを悟ったのかキースは彼の頭を強く引っ叩いた


「テメェ、ユキノに変な事したんだろ?正直に話したら半殺しくらいで済ませてやんよ」


「まぁ、変な事だなんてキースのスケベ!」


フィリップのその言葉にキースの怒りが爆発したのか大鎌を出現させた


その表情は笑っているものの、目が笑っていない


今にもフィリップを狼男の様に真っ二つにしそうなキースの様子に由紀乃は慌てた


「おい、何してるんだ!」


勢い良くドアが開き、金髪の男と小柄で深緑の髪の可愛らしい男が現れた


金髪の男はキースを抑え、深緑の髪の男はフィリップをなだめた


「止めんな、ファルコ!!!!コイツが悪いんだよ!」


「んー、確かに余計な事言ったかもしれないけど邪魔するキースも悪いよね?」


そう悪びれる様子もなく言うフィリップに由紀乃が声をあげた


「いや、どう考えてもフィリップさんが悪いですよね!!!!」


その声に金髪の男と深緑の髪の男がビックリした様な表情で見つめる


「その髪色、渡人だよねぇ〜!」


「渡人!本当に存在していたのか!?」


2人は物珍しそうに由紀乃に近付いた


「僕はセルヒオ〜!こっちのゴツいのはファルコだよ〜!」


「ゴツいって言うな…」


金髪の男、ファルコはゴツいと言われた事に項垂れた


深緑の男、セルヒオはケラケラと笑いながら由紀乃を珍しそうに見つめる


そんな2人を他所にキースとフィリップは今にも殺し合いを始めそうな様子だ


由紀乃はどうしようもない状況に再び気絶してしまいたい気持ちになった

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