第3話 「少しモヤモヤする」

 ここで私の高校生活について振り返ってみようと思う。


 高校生活と言っても、羽月との出会いくらいしか現状起こったことはないわけだけど。

 振り返りなんてそのくらいで充分だ。


 入学式の時、私の周りにはおかしなくらい人が寄り付かなかった。

 私の見た目がド派手だったら納得したけど、普通の黒髪ロングな一般人の格好をしていたから一応違和感はあった。さすがに「こいつら吸血鬼か?」なんて思うことはなかったけど。


 入学した後も、皆が凄く仲が良い中私だけぼっちだったから、自分が近づけないほど暗いのかと本気で疑ったけど、その心配は杞憂に終わって、私に初めての友達らしきクラスメートが現れた。


「はじめましてー、はじめましてだよね?」

「はじめましてじゃない?」

「やっぱりはじめましてか」

「うん」


 最初に思ったことはアホそう、だった気がする。

 その印象が合っていたか間違っていたかはまだ判断を下していない。まだ可能性がある。きっと。


 それから、他にも友達はいたっぽい羽月は、別にぼっちの私に構ってあげよう、みたいな雰囲気もなく、自然に私にも話しかけてくるようになった。


 話題はほとんど普通のことだけど、羽月の場合明るさがあるから大抵の話が面白く感じた。

 別にぼっちでもいいかと思い始めてた私がすっと馴染めたのは、単純に羽月に嫌味がなかったからだと思う。


 話しかけてやろうとか、この話を聞かせてやるよ面白いだろう? みたいな。

 そういう表には見えない傲慢な態度が羽月には全くなかった。


 話したいことを話してどっかに飛んでいく蜂みたいな生き物だったから、元々友達たくさんな人間でもなかった私にとってはありがたい友達だったんだと思う。蜂が話すかは置いておいて。


 そんな羽月は当然人気者、かと思いきや、私の印象ではそこまで人気者でもなかったりする。

 中学生までで得た私の経験では、羽月みたいな明るい人間は人気者になりがちなんだけど。現実ではそうでもない。

 羽月の場合は容姿も華やかだし。モテそうなものなのに。


 ただ、それについては吸血鬼について知ってから少しわかった気がした。ただの予想でしかないけど、大体の吸血鬼は片親が吸血鬼だけど、羽月は両親が吸血鬼だから、なんか家の事情があるとか。

 あそこの家はヤバいぞ、強いぞ、失礼なことできないぞ、みたいな。多分間違ってる。


 それでも、事実として、明るいのにそこまで友達に囲まれてない羽月がいるから、それは入学した時からわりと不思議なことの一つだった。

 いつか聞こうと思っていた時期もあったけど、よくよく考えると「明るいのに友達少ないよね」と聞くのはさすがに誰が相手でも失礼だと気づいたからやめた。


 でも羽月が友達に囲まれていないおかげで、その隙間に私が入れたんだろうから、そこは感謝している。

 心から感謝してるか? と聞かれたら怪しいところだけど、なんだかんだで私が羽月と話すことを楽しんでいるところを見ると、一人ぼっちの高校生活は想像以上に寂しいものだったかもしれないし。感謝はしてると言えばしてる。


 ただ、人間は欲深いらしくて、私もその人間の一人らしいから、きっと今の状況では満足できない日が来てしまうんだろう。


 友達百人は行かないまでも、もっと友達が欲しくなったり、羽月と話し足りなくなったり、羽月と常に一緒に行動したくなったりするんだろうな、と客観的に自分を見て思う。


 実は私は寂しがり屋の一族かもしれない、というのは最近気づいたことで、ぼっちを極めようとしていた頃の私はどこへ行ったのか、どこにいても羽月といることを想像している私がいる。


 それは、羽月に血を吸われてから特に起こる。


 何か変な効果でもあったんじゃないの? と聞きたくなるけど、それを具体的に聞くと私が羽月を好きになってしまった、みたいな勘違いに辿り着きそうで聞きたくない。


 別に身体におかしなことは起こっていないし、あれから羽月にも変わった様子はないし。

 私が抱きしめられた程度で気持ちが揺らぐ人間だったという説が今は濃厚。


 なんにしろ、私と羽月の関係は出会ってから今までほとんど変わっていなくて。


「おはよー羽月ぃー」

「おはよー」


 なのに今は、他の友達と変わらず過ごす羽月の姿に、何故だかモヤモヤする。

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