第26冊 アタシは認めねえ
なにが起きたか最初わからなかった。
ジェミーが消えて、代わりにアタシの手に握られていたのは、黄金に輝く肉断ち包丁だった。
「これは……」
『ちょっ、え、どういう事なのこれは!』
脳内で焦り半分怒り半分といった声でメリーが叫ぶ。どうしたのか確認しようとして、あり得ないことが連続する。
『お、おぉ〜? ここどこ? むむっ、なんだか雰囲気が違うねえメリーちゃん。メリーちゃんだけどメリーちゃんじゃないね???』
「な、なんでジェミーがアタシの中にいるの!?」
『訊きたいのはこっちよ! 何をしたの芽里!』
んなこと言われてもアタシにもわからん。
今わかるのはジェミーの武器であるはずの包丁をアタシが握っていて、それが金ピカになっていることだけ。これは―――。
『待って。なんで "本" が勝手に開いて……』
"本" というのはアタシとメリーが出会った時に開いた純白の一冊のことだろう。それが勝手に開いた。それはつまり。
「新しい力ね!」
『
『ほえ? うーん、なんだかよくわかんないけど。力になれるのなら貸すよメリーちゃん! 平らげちゃって♪』
やっぱり、今の状態では、ジェミーの
「“金の糸、金の
解けたポニーテールから黄金の肉断ち包丁に向かって伸びた髪の毛が巻きつき、宿り、包丁レベルの刀身が延長されて巨大な刀へと変わった。
「わかるわ。これなら、ヤツを斬れる!」
「なんなんだキサマァ。ニンゲン、じゃねーのかァ?」
「そんなこたあ、どうでもいいわ。さあ、反撃の時間よ。合わせなさいメリー、ジェミー!」
『わかっているわ!』
『はいはーい♪』
赤鬼が動くよりも速く、前へ出る。握りしめた黄金の刀が胎動する。面倒そうに腕を振り上げた赤鬼の急所が瞳に映ったのと、腕が一人でに刀を繰り出したのはほぼ同時。
「
刀が赤鬼の横薙ぎの一撃と衝突し、そのまま抵抗を許さずに断ち切った。
駆け抜けた姿勢のまま屋上の端に至るほどの勢いをなんとか殺して停止し、振り返る。
「なに、ガ……?」
ずるり、と。赤鬼の腕、肩の根本辺りから斬られた部分が―――落ちる。当の本人たる赤鬼は全く解せないという顔で瞬きをしている。痛みはないのか溢れる鮮血は気にしていないようだが、ダメージは入っているようだ。
だが今のアタシにはわかる。世界の全てを食材と見做して解体・捕食できるジェミーの “物語” を再現したのだ。
その結果、切り裂いた赤鬼の “物語” が、断片的ながら脳内に流れ込んできた。それを理解した上で、赤鬼に向き直ったアタシは言った。
「なあアンタ。そんなの気に入らねえよ」
「なニ? なにヲ急に、馴れ馴れしイ。なにヲ知ったと言うんだァ?」
「少しだけどさ。読んだ。 ”読んじまったんだ" 。アンタ……セイってヤツに裏切られたと思ってんだろ」
アタシがそう言うのを聞くや否や、赤鬼は信じられないスピードでこちらの懐に潜り込むと破壊的な掌底を叩き込んできた。
避けることもできずにモロに喰らったアタシはそのまま吹っ飛ばされて向かい側の屋上のヘリの柵に突き刺さった。痛みを堪えて起き上ろうとしたところで赤鬼の追撃。その一撃を斬り弾こうと黄金の刀を振り抜く。
「らぁっ!!」
「ちィ……」
切り結ぶ。切り結ぶ。さらに切り結ぶこと数度。打てば打つだけ赤鬼の、いや名はセキと言ったか、彼女の “物語” が脳内に割り込んでくる。
その上でやはり思う。アタシは。
「認めねえ。アンタのその在り方を、筋書きを。アタシは、認めねーッ!!」
「黙レ…!」
刀に神経を集中させる。ジェミーの “物語” の特性は、相手を理解すればする程に切れ味を増すこの斬撃。なればこそ、今のアタシならセキの核を狙える。
『ジェミー、芽里だけでは不安です。あなたも力を貸してください!』
『もちろん!』
腰溜めに構えた刀にアタシの髪が伸びてその刃に巻きつき同化、今までよりも長く伸びた光の大太刀を生み出す。それは校舎を取り巻く暗雲の天井にすら届く一振り。
「これがアタシたちの合体技!」
「貴様ァあ!」
激昂して突っ込んでくるの
「『『話は終わり。
閃いた黄金の斬撃が、見事、赤鬼を閉ざされた空間ごと見事斬り伏せた。
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