第8話 結界編

第1章。過去からの挑戦(1)



 カクシーユの街を出て、街道へ戻るためには右へ行かねばならないのだが、

ラティスは『左へ』とラファイアへ命じた。

ラファイアは、軽く頷きながら手綱を左へと引いた。、


「ラティスさん、気付いていたんですね。」


「当り前よ、私 ラティス船長にまかせなさい。

さあラファイア号、荒海に出るわよ!」


「え、鉄馬車に私の名をつけてくれたんですね。ありがとうございます。」


の名前を付けるのは、当然。」


「・・・・・・・」


ラファイアの笑顔が凍り付いている、これでは終われない。

ラファイアはラティスへの反撃にうつる。


「そう言えば、ラティスさん昨日の襲撃されたときの件ですが。」


「思い切り、ぶっ放して下さいましたね。どう考えてもあれ私を

標的にしてましたよね。」


「しかも、後ろにアマトさんもいたんですよ。」


「いや~。耳が遠くなった私の力の発動なんて、私より若くて美しい

ラファイアさんなら、簡単に無効化できるでしょう。」


ラティスの肩が震えている。笑いをこらえている。

やはり、思い切りぶっ放したんであろう。

ラティス様は、いつになく、すっきりした顔をしている。


今朝のじゃれ合いを、鉄馬車の屋根上で途中から聞きながら、

アマトはこういう平和な日が続いてくれる事を祈った。


・・・・・・・・


「ここですね、ラティスさん。」


鉄馬車を止め、ラファイアが確認をいれる。カクシーユの街から四半日の距離。


アマトも見てみる、普通の森が広がっている。

街道はもう少し先に行ったところで、山の端に突き当たり

行き止まりになっていることは、

ぎりぎりアマトの目でも見える。


「エリース。リーエ。」


ラティスは2人を呼ぶ。


「なに、ラティス。」


エリースは客車部分からドアを開けて降りてくる。リーエもそれに続き、

ユウイも窓から顔を出す。


「風の超上級妖精の能力の目で、ここからこちらの方の森を見て、なんか見える?」


と、ラティスは指を指す。


「ふつうの森にしか感じないけれど。」


風の妖精リーエも、顔を真っ赤にして挑んでみたが、やがて諦めて首を振る。


「超上級妖精の能力でも無理ですかね。」


と、ラファイアが嘆じる。


「何が感じるの、ラファイア?」


「結界の術式を感じるんですよ、それも古い時代の。

ラティスさんには結界の圧として感じるみたいです。」


「そんな物騒なとこ無視して、本道に戻ろう。なんならこの先の森を

私の絨毯電撃で破壊して、街道をつくっていってもいいわ。」


いや、それこそ物騒だろうとアマトがエリースに言おうとするまえに、

ラティスが、何かを見つける。


「結界の術式に鍵がかけてあってあって、その上に魔法文字が付与してある。」


「ラティスさん、なんて書いてあるの?」


アマトが興味にかられラティスに聞く。ラティスは横を向いてラファイアに言う。


「ラファイア、読んでみて。」


ラファイアが森の方に進み、小魔法円をつくり発光させ、

魔法文字を浮かび上がらせ、読み解く。


「『世にも冷酷で不細工な暗黒の妖精に告ぐ。私は、低能なお前に分かるように、

わざと易しく大きな魔法文字でこれを記す。

この程度の結界は私には朝飯まえだが、

心まで醜いお前には、この術式のさわりさえ解くこともできまい。

この術式をお前が見ていると思うだけで吐き気がする。

生涯お前は鏡をみずに過ごしたらどうだ。私の言うことがわかるなら、

尻尾をまいて妖精界に戻りやがれ。』です。」


先程の事もあり、ラファイアは満面の笑みだ。それにたいして、

ラティスの背後には燈黒色の光電が浮かび、火花を散らす。


「ラ・ファ・イ・ア!」


「いやだな、ラティスさん。術式に書いてある通り、

読んだだけじゃないですか。」


「感情がこもっていた!」


燈黒色の光電が、ラティスの両手からラファイアへ放出される。

無詠唱でなされた、激しい波動を伴った激流が、

ラファイアのいたところを飲み込み、背後の森へ到達・・・する前に

森の手前で消滅する。


「やはり、結界がありますね、ラティスさん。」


何事もなかったように、ラファイアはラティスの横に立っている。


・・・・・・・・


 余裕の態度で、結界の術式の解除に挑んでいたラファイアだが

しばらくして、匙を投げた。


「100の術式があって解いていくんですが、まず最初に入口にある

1つの術式を解くと残りの99の術式のどれにでも進めるんです。」


「そして術者が考える順番でいった時のみ、最終的に鍵が

解除される仕組みです。」


「無論その順番でいくと最速で解けるみたいですが、ラティスさん、

解けるのはいつになるか分かりませんよ。」


それに対し、ラティスは高らかに宣言する。


「やはり、こういう悪辣な知性に頼る奴の仕掛けには、

剣(魔力)で一刀両断するしかないわ。」


☆☆☆☆


「で、力を貸せというの。ラティス。」


エリースは、呆れて言う。ラファイアは天を見上げ、

リーエは山々を見つめている。


「あれは、暗黒の妖精への挑戦状。だったら、このラティス様が

受けてあげるのは、当然だと言っているのよ。」


アマトには読心の能力はないが、3人の顔色から、『また余計な事を』と、

思っているのが容易に読み取れた。

これは自分が悪役になって皆の意見ということで、

街道に戻るよう算段しないといけないなと覚悟した。

しかし、思ってないところからラティスに援軍が現れた。


「アマトちゃん面白そう。行ってみたら。」


客室の窓から、ユウイがニコニコ笑いながら声をかける。



第2章。過去からの挑戦(2)


 

 「まあ、このくらいの壁(結界)の破壊、本来なら私一人で充分か。」


とラティスが、声高々に宣言した。それに対してラファイアが、


「まあ、ラティス様、素敵です。どうぞ、どうぞ、ご存分にお力をおふるいに

 なって下さい。」


と笑顔で追従を述べる。リーエも満面の笑みで首を縦に振る。

だがどうみても、


『ほんとめんどくさい。一人で好きなだけやれば。』


という思いが、顔に現れているのが、アマトにもわかる。


「けど、功績を独り占めするのは悪いから、あんた達にも持ち分をあげる。

私は、寛大さと友愛の妖精だからね。」


と、すぐにラティスが切り返した。


そんなこんなのやり取りがあったが、結局、ラティスとラファイアの

2人の魔力で、結界を破壊する事に落ち着いた。

その間、エリースとリーエがユウイとアマトを鉄馬車ごと、多面体立体障壁を

構築して防御する。


恐らくこの結界には何らかの、迎え撃つ力があるだろうというのが、

このような結界を構築できる、真顔の笑顔に戻ったラファイアの見立てである。

魔獣・魔鳥の徘徊する夜は避けて、日の出とともに攻撃をする事にした。


☆☆☆☆


 夜の魔鳥キルギリウスの鳴き声が小さくなっていく。

空の色が、闇色から藍色にやがて青色に変わってゆき、山の端が橙色に浮かぶ。

日の出の光が、星と月の姿を消し、雲を茜色に彩る。開始の刻限だ。


風の超上級妖精の障壁の構築を確認して、2人の妖精が結界の前で宙に浮かぶ。

右上空にラティス、左上空にラファイア。


「ラファイア、今度タイミング間違えたら、後ろから刺すからね。」


「あのとき、タイミングを狂わせたのは、ラティスさんでしょう。」


「小さい事はいいの。私のアドリブに合わせれなかったお前が悪い。」


「今回はアドリブ抜きで、お願いしますよ、ラティスさん。」


ラファイアへの、朝のレクリエーションも終わったところで、

ラティスは、小さな魔法円を浮かび上がらせた。


魔法円は、上下左右斜めに分裂していき、接点を残しながら、

中央に5個・双側方に4個・双端方に3個・合わせて19個に増えていく。

それぞれの魔法円に魔法文字が浮かび、外周に二重の円を描き出す。


ラファイアも同じ象形を創り出す、ただし魔法文字の配置はラティスと対称。

ラティスは白銀色・ラファイアは白金色の、二つの魔法陣の表面が輝きだし、

大気が鳴動する、魔法円に閃光が煌めいた瞬間、


「は な て !!」


ラティスが声を上げる。

ラティスの魔法円から白銀の、ラファイアの魔法円から白金の光の奔流が弾けた。

それは結界の前で一つに重なり、更に大きな純白の光の錐と化し結界に激突する。

 

その激しい光により、可視化した結界の表面が、七色の光を帯び、

妖精からの攻撃を無効化しようと、脈動し揺らめく。


「とどかないか!?」


ラティスが呟いた瞬間、七色の光が歪み、結界の一部が弾けとんだ。

と同時に、結界に表面に魔法文字が浮かび、太陽の光を集約し始める。

不気味な軋み音が、大気をかき混ぜ、七色の光が踊る、

刹那、2人の妖精と多面体立体障壁に、黄金の光が走る。


「アマト!」


自身に放たれた、結界の攻撃を無効化しながら、ラティスは叫んでいた。


・・・・・・・・


 流石に、黄金の光撃も、超上級妖精の構築する、多面体立体障壁を

貫通することはできず、表面に摩擦光を残しながら、徐々に光は消えていった。


ラティスが、黒緑の髪を振り乱し、鉄馬車に飛び込んで来たとき、

既にラファイアがエリースに、エーテル注入の白光を照射していた。


「エーテルを急激に消耗して気を失ってますが、まず問題はないでしょう。

 アマトさんとユウイさんは、異常ありませんよ。」


超上級妖精リーエの姿はない。


「少しでもエリースさんのエーテルの消耗を抑えるため。

リーエさんは姿を消してます。」


と、ラファイアが付け加えて話す。


全員の無事を確認して、安心したラティスが、一息ついて、

客室の窓から結界の方向を覗き見て、結界の変化に気づいて言った。


「なんて結界なのよ。また、元の形に戻ろうとしている。

 ほんと、ラファイアみたいに意地汚いわね。」


「そのたとえ、必要ですか?」


照射を終えたラファイアが食って掛かる。白金の髪が窓からの風になびく。

だが、ラファイアも負けてはいない。


「ラティスさんみたいな、単細胞の脳筋ではなくて、結界自体に、

 修復と学びの魔法式が組み入れてあるみたいですね。」


「ラファイア、ちょっと表にでようか。」


収束不能になりそうなので、アマトが割って入り、

ラファイアに尋ねる。


「ラファイアさん、学びって?」


「結界の構築者の性格が反映しているみたいで、一度受けた攻撃に対して、

 対抗防御ができるようです。攻撃されればされるほど、強化されていく、

 厄介なものと言えばいいですかね。」


「たぶん、何百年にわたって、中途半端な攻撃を受けたんでしょうね。

 構築者が意図したものより、格段強力なものになっています。」


冷気が緩やかな渦をまいて、結界の裂け目から、流れ出しているように、

アマトには感じた。


しかし謎は残る。なぜ数いる妖精達のなかで、存在するかどうかわからない

エレメントの暗黒の妖精を挑発する魔法文字を付与したのか?

謎解きは中に進むしかない。


右手の指を左手で擦りながら、冷静になったラティスが話に加わる。


「ここから行くか退くかは、あんたにゆだねるわ。」


少し微笑んでアマトは、躊躇なく答える。


「行こう。」


自分の夢のためではない。未来という時間をくれたラティスのため。

この先も一緒に歩いていきたい同志。妖精との契約者というより、

ともとしての帰結。


けど、ユウイ義姉とエリースを巻き込むのは、我儘じゃないだろうか。

アマトが2人を振り返ったとき、


「義兄ィ、一言いってもいい。」


エリースが、深紅の髪をかき上げながら起きてきて、口を挟む。


「私も行く、けど残念ながら、義兄ィ達のためじゃないよ。」


「リーエとの精神の同調が切れる寸前、『行かないと』というリーエの

秘めた想いが伝わってきたから。私の大事なだからね、リーエは。」


それまで、ずーっと黙っていたユウイが話す。


「アマトちゃん、お義姉ちゃんも行くわ。楽しい事は分け合わないとね。」


やっぱり、ユウイ義姉ェの思考だけは解らない、アマトはそう思った。


☆☆☆☆


 『強力な仕掛けの後には、二の矢・三の矢があるが、

 強力過ぎる仕掛けには、次の矢はない。』


と、兵法書が説くように、結界を超えたあとには、次の防御網はなかった。

しかし、それ以上に難儀したのは、道そのものである、路面は凹凸が

激しく、草々や場所によっては、木々が生い茂り、倒木・落石は当たり前という、

廃道そのものであった。


軍隊の進軍さえ困難な道。

かまわずラティスが、片手を前に軽く突き出し、鉄馬車の前に魔法陣を構築。

その不気味な燈黒色に輝く正八面体は、

邪魔する木や草・岩などを消滅させていくだけではなく、

道そのものも平面に削っていった。


 休むことなく、鉄馬車を走らせている。

妖精契約をすると、水分を除けば、食事は10日に1度にとれば十分になる。

普段は味気ないと思えるのだが、こういう時だけは有難い。

しかし、これが一番重宝しているのが、戦場だというのが、

人間の御しがたいところだろう。


全く魔獣・魔鳥・妖魔の襲撃がない。たぶんラティスさんが、

完全に防御しているんだろうと、眠りに落ちつつ、アマトは思っていた。


・・・・・・・・


2日目に入ると、御者がラファイアさんから僕にかわった。理由は単純。


「ちょっと飽きてしまいました。アマトさんお願いします。動くための力は、

私の方で支配しますから。」


ということで手綱を渡され、ラファイアさんは客車の中で、

ユウイ義姉ェやエリースと、おしゃべりに興じている。

軽い笑い声が下から聞こえている。


「ところで、-ふしだらなーアマト。あんた、そんな事押し付けられるって、

ラファイアとどんな契約をしたの?」


御者台の隣で、暇そうに、肩肘つきながら、次々と前方の障害物を抹消してる、

ラティスさんに聞かれる。

-ふしだらなーの件では僕は絶対に無罪だ。しかし、あれ以来ラティスさんに

チクチクと、稀代の浮気者と責められている。


「『死なせはしませんよ』とファイアさんが言ったと思う、それだけ。」


「あんたそれ、無条件契約じゃないの。お人よしも、ここに極まりってとこね。

普通言うでしょう、


『汝・妖精よ、我を通して力を得る事を認める。かわりに、我が力を欲する時、

制限なく奉仕せよ。』


と、たった2文章よ、それが言えなかったの。だからラファイアにいいように

使われるんじゃない。あんた妖精契約史に残る馬鹿ね。」


けど、いいように使っているのはあなたも同じでしょう、ラティスさん。

側室をもつ貴族とか、愛人を抱える大商人とか、毎日どう切り盛りしてるんだろう

本当に教えて欲しい・・・。


それから、しばらく黙っていた、ラティスさんが、ポツンと話かけてくる。


「アマト、エリースに聞いたわ。あんた子供のころ、吟遊詩人が歌うような

英雄になりたかったんでしょう。」


その言葉で、僕は子供の頃の夢を思い出す。

小さいころ、吟遊詩人が街の祭りの舞台で奏でた、

白光の妖精ラファイスと暗黒の妖精アピスの戦いの物語や

風の妖精リスタルと火の妖精ルービス・水の妖精エメラルアの

戦いの物語を。

それだけでは足らず、義姉ユウイに寝る前に読んでもらった、

子供用に作り直した、妖精と契約者の絵本の世界も、頭をよぎる。

極上級(伝説級)の妖精と妖精使いの挿絵が蘇る。


「子供の時の話ですよ、ラティスさん。」


その後の、ラティスの呟きをアマトは聞いていない。


「あんたが、どうしても英雄になりたい、というんだったら力を貸してあげる、

 たとえ、ラファイアが途中で止めると言ってもね。しかし修羅の道よ。

 あんたは、何もかも殺しつくす、修羅になれるのアマト?」



第3章。過去からの使者



 3日目に入ったころから、

道幅は鉄馬車がすれ違えるほど広くなり、道も平坦に、落石・倒木はなくなった。

誰かが、道に手を入れ、整備しているのは明らかだった。


「後ろの方々、そろそろ、仕掛けてきますかね、ラティスさん?」


きのう一日喋り捲って、スッキリして御者姿に戻っている、

ラファイアがラティスに、警戒を促す。


「3人、いや4人に増えた、送り魔狼みたいについてくるわね。」


「こちらからいきますか。」


「アマトのヘタレが嫌がるからね、先制の一撃は。」


「へえー。あのラティスさんの言葉とは思えません。

熱でもあるんじゃないですか?」


「あんたと違って、私は、許しと寛容の妖精だからね。」


「それ、自分でいいます。ま、ぽかぽかと、いい陽気ですからね、今日は。」


「うるさいわ、ラファイア。あいつら後回しで、あんたと先にやり合っても

いいんだからね。」


「あ、ラファイア、右手奥、敵!」


思わずラファイアが右を向き、


「何もないですよ!」


と、顔を戻したラファイアの額に、ラティスは《パチン》とデコピンを浴びせる。

してやったりという顔で、客車の方を向き、


「アマト。エリース。ユウイ。リーエ。お客さんがくるみたい。注意して。」


と声をかけた。


・・・・・・・・


「デコピン・・・やられた・・・、デコピン・・・やられた・・・。」


ラファイアが呟いている。ラファイアも白光の妖精であり、自負もある。

魔法による攻撃なら、この超々至近距離からでも防御魔法で防いだだろう。


だが日頃、脳筋呼ばわりしているラティスに、子供でも騙されないような、

引っ掛けで、デコピンをやられたのに、いささか、いや相当にプライドが

傷ついたのである。


それを横にいるラティスが、会心の一撃に引っ掛かった、ラファイアの

間抜けぶりに、笑いをこらえている。それが、輪をかけた。


「その馬車とまれ。」


道の前方に、高速移動してきた、一部に指し色の黄色のある古式の鎧をつけた

30人程の騎士達のリーダー格の男が声をあげる。


「う る さ い !!」


ラファイアが、ブチ切れる。

ラファイアの前方に、白金の矢が大量に現れ、切れ目なく前方に拡散する。

騎士達の頭の上を、白金の光の奔流が流れ拡散し、森の木々融解させ、

光の濁流は天空へ消えていった。・・・・無詠唱・・・・・・だ。


『わが名はラティス、暗黒の妖精。我が進路を妨げるなら死を覚悟せよ。』


いつの間にか、鉄馬車の上にいたラティスが、拡散精神波で、大見えを切った。

それを聞いたラファイアは、


『美味しいところを持っていかれました。』


 と、今日2度目のやられた感を味わっていた。


☆☆☆☆


 鉄馬車の上空で、魔法円を構築していた4人の古式の略鎧の騎士たちは、

3重の燈黒色の輪・結界呪縛にとらえられ身動きがとれない。

これは、ラティスの仕置き。

ラティスの殺気がたかまり、空気が凍る。


「本当に、暗黒の妖精・・様・・でしょうか?」


前方の一群から、最も年嵩とおもわれる男が、腰の剣を外し、前に出てきて

ラティスに問う。


『我を証明するに、力を持ってさせるか?』


ラティスが、上空に漆黒の球を創り出す、球の周りに橙色の輪があらわれ、

球体面に沿って上下にまたは転回する。その虚球が虚音を伴ってしずしずと

動き出す。それは死の女神イピスの婚礼の入場を思わせた。

虚球が後方の峻岳に触れた瞬間、山は球面を拡大した形で消滅した。


「暗黒の妖精 アピス様の再臨なのか?」


鎧を着た者達は、妖精の持つ計り知れない力の前に、その場に立ち尽くしていた。


「ごめん、ラファイア、力を貸して!やり過ぎた。」


相変わらず、ポーズをとりながらも、ラティスが小さな声で囁く。


「大きすぎると思いました。今回だけですよ。」


『ラロ=ミカル=タヱ。』 ラファイアの短詠唱。


漆黒の球の左右に、白金の半球が現れる、半球の中心部が明るく輝き、

七色の光が黒球に噴き出していく、2つの半球が黒球の方向に寄っていく、

七色の光が黒球に近づくにつれ白光に変わっていく、白金の半球が

漆黒の球を包み込んだ瞬間、パッと消滅した。


「対抗消滅、気を使いました。はい、はい、ラティスさんあとはご自由に。」


「ラファイア、感謝!」


ラティスの前にいた集団は、一人残らず、跪き、頭を下げた。


「ドゥーム師の予言は成就した。」


だれかが、耐えきらず、涙声を漏らしていた。

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