第7話 復讐の追跡者たち編
第1章。分かれ道
「ラファイアさん、鉄馬車を止めて。」
ラファイス像の分かれ道から二度目の分かれ道に差し掛かった時、
アマトは御者台で、鉄馬車を操っている、ラファイアに声をかけようとした。
ラファイアが、明るく、先にアマトに言う。
「今度は間違いませんよ。ここは真っすぐでしょう。」
前の分岐路で間違えて、上へ向かう道ではなく、下へ向かう道を選んだため
危うく公都方面に逆戻りしかけ、ラティスに、えらく皮肉を言われたので、
今回は流石に慎重になっているなと、アマトは思う。
「次はそれでいいけど、次の次は右の道の方へ行って欲しいんだ。」
「帝都へ行く考えを変えて、王国へ行くのですか?」
「いや違う。なら止めてくれないかな。説明するから。」
話は少し前に遡る。
流石に2度も間違うわけにもいかないので、アマトが地図を見ていると、
ラティスが首を突っ込んできた。
「このカクシーユて街はなんなの。」
「温泉による療養の街。」
「かっては結構栄えていたんだ。しかし、周辺から、魔獣・魔鳥が逃げ込み、
現在は廃街寸前、と聞いたことがある。」
「魔獣らを掃討してしまえば、いいんじゃないの?」
「あの地域は、温泉で行き止まり。それ以外は街の背後に、
広大な黒い森があるだけなので、ほおって置かれた。
その内に魔獣・魔鳥の数が増え、手が付けられ無くなり、
誰にも触れられなくなったという事らしいよ。」
「今は魔獣・魔鳥掃討に賞金をだすより、戦の準備にお金をかけたいんじゃない。
それに現状、帝国と王国の緩衝帯にもなっているしね。」
「ふ~ん。けど温泉はあるのね。」
「聞いていた?魔獣と魔鳥が数多く生息していて、・・・」
「アマト。あんた3日3晩の恩をもう忘れた?
犬も3日養えば恩は忘れないというけど。」
「アマトちゃん、恩は返さないとね。」
と、それまで沈黙していたユウイが、的外れの同意をする。
この時エリースは寝ていて、起きて聞いて、ラティスに食ってかかったが、
『あれだけの緑電をぶっ放なしたんだから、キチンとお肌のお手入れを
しとかないと、後でシミになるわよ。』
と言われ、結局、丸め込まれてしまった。
話が終わって、後ろを向いたラティスの口が、
『ちょろいわね。』
と動いたように、アマトにはみえた。
☆☆☆☆
「ぐっ!」
アマトは、喉笛を魔狼に噛み付かれていた。喉笛だけではなく、
側方から右ひじに、後方から左膝に、すでに剣は右後方に吹き飛ばされており、
そして引き倒された。
「あ~だめね。あんた、もう17回目でしょう。魔狼の動きぐらい捉えないと。」
と呆れたようにラティスは言う。
「ラファイア光電!」
ラファイアの指から、光が舞い。アマトに牙を立てていた魔狼も、
周りを取り囲み隙をうかがっていた魔狼にも光電が降り注ぎ、
『ギャン』と吠えて離れ、逃げ去ろうとするが、
逃げ去ろうとする方向に、さらにラファイアの光電が舞い、
結局アマトの周りに戻されてしまう。
「はいはい、18回目。アマト剣を拾って構える。今回は槍か杖にしようか?」
☆☆☆☆
「アマトちゃんも、エリースちゃんみたいに、帝都の高等学院に通ったら。
聴講生兼掃除夫でもいいから。」
と、ニコニコと笑いながらユウイが言ったことからすべては始まった。
実際アマトは、帝都に行ったら、
ユウイの織物を売る、商売人をしようかと思っていた。
しかしこの考えをエリースに話したとき、
「アマト義兄ィが働くなら、わたしも高等学院にいかずに働く。」
と、言い出したため、だったらアマトも・・・という事になったのだ。
しかし、ノープル高等学院の初級妖精契約者の補欠枠試験で、
いかに上級妖精契約とはいえハルトに、一方的にボコられた現実を、
ラティスが問題にした。それに関してラファイアが、
「せっかく、魔獣さんや魔鳥さんがいっぱいいるところを通るんですから、
アマトさんを実戦で鍛えましょう。魔獣さんの動きに対応できたら、
高等学院の補欠試験レベルなら、対応できるんじゃないですか?」
と、とんでもない事を言い放つ。
「それよ、それ。アマトいいわね。」
それで、ラティスが鬼教官になっているところだ。
それに、エリースも実技で力の加減を覚えないと、
街中で超上級妖精契約者の力をぶっ放なし、
幾重にも結界に囲まれた武闘場を、吹き飛ばした事を再現するという事に
なりかねない。
それで、アマトだけではなく、エリースも訓練を行う事になった。
街道を右に曲がり、境界(ここから魔獣・魔鳥の群生地)の町と言われる、
ヤープルを通過すると、
徒歩や少数での鉄馬騎乗者や警護のない鉄馬車の通りは全くなくなった。
人に見られる心配がなくなった事から、風の超上級妖精リーエも常時姿を現わし、
エリースに手取り足取り、力の発動を教えている。
近距離用の風の真空刃迅・中距離用の極音波振動による破壊振動音波。
長距離用の緑電豪流。自分を中心に全方位の任意の相手に攻撃する
拡散電撃・絨毯電撃など。
エリースはそれぞれ数度に渡る試射だけで、微妙な調整は必要だったが、
まるで以前から知ってたように、自分のものとしていった。
アマトもラティスもラファイアも、その才能に唖然とするしかなかった。
やはり、風のエレメントへの親和性もさることながら、
リーエさんとの相性が最高なのかもしれないと、
アマトは思った。
さて一方のアマトだが、風の妖精リーエの音の探知・
白光の妖精ラファイアの光の探知・
暗黒の妖精ラティスの空間の探知などで察知した魔獣の、
(エリースの絨毯電撃で、森の中から街道に追い出した)
相手をさせられていたのだ。
初日は、魔熊・魔虎・魔猪の前にアマトを立たせたのだが、
それらは力技を主体とする攻撃でこれでは試験対策にはならない、
ということで2日目から、対象は魔狼にかえられた。
・・・・・
『確かに、ラティスさんの防御結界が完璧とは言え、
魔狼の腐った口や溶解液の濁った匂いは、
防げない。これは堪らないな。』
と、ぶさくさ心の中で唱えながら、
アマトは18回目の魔狼の攻撃に備えて剣を構える。
しかしあざ笑うように、視覚の外から、一匹の魔狼がアマトに飛び掛かってきて、
また喉笛に噛みつかれ地面に叩きつけられた。
・・・・・・・・
二つの月が穏やかに周囲を照らしている。
ラファイアにとっては、鉄馬車を操るのは、夜の闇も障害にならないので、
夜間に移動している。
今、アマトは、鉄馬車の屋根に草布を敷いた露天の寝所で、
泥のように眠っている
ラティスとラファイスは御者台に、ユウイとエリースは鉄馬車の座席に
厚めの草布敷いて休んでいる。
眠れないのか、エリースが御者台に登ってきた。
しばらく黙っていたが、意を決してラティスに尋ねる。
「義兄ィはどうにかなりそう?」
「厳しいわね。あれで通るんなら、帝都の高等学院は、
程度が低すぎるんじゃない。」
「帝都の高等学院にも、補欠試験があるように祈るしかないんじゃないですか。」
と、ラファイアも手綱を捌きながら、話に加わる。
「なぜ、自分も商売人になると言ったの?」
と先日の事を、ラティスはエリースに尋ねる。
「アマト義兄ィに商売人ができると思う?商売も剣を使わない戦い。
負けて、その時は命を奪われなくても、負け続ければ、
暮らしが維持できなくなって終わりが来る。」
「戦いと結果の間に、時間差があるだけ、
義兄ィはそれに気付いてない。」
「辛辣ねエリース、義兄貴でしょう。」
苦笑いをしながら、ラティスが言う。
「義兄ィの剣は本当にどうのもならない?」
と、再びエリースが尋ねる
「ブレイは、まだ槍か杖の方がいいと言っていたけど、
それもたぶんダメね。魔狼を相手にしている時でさえ、優しいのよ剣筋が。
殺すという意思が感じられない。」
「けど、なぜ高等学院への入学ですか、高等学院卒業後は、
ほとんど騎士さんか兵士さんでしょう。」
と、ラファイアも興味深く、エリースに尋ねる。
「儀仗兵というのがあるわ。儀式用の兵隊さん。今、帝都は祭礼都市だし。」
「ああ、それもありね。」
「けど、これは建前。本当は義兄ィを夢に近づけてやりたいんだ。」
「小さい時の義兄ィの夢は、吟遊詩人が唄うような騎士になることだった。
けど、エーテル量がない事がどういうことか、義兄ィ本人がわかってきて、
段々と言わなくなって、
誇りとか、ううんもっと大事なものとかが、毎日削り剥がされていく感じで、
妖精契約日直前の無理した明るさは、見てて辛かった。」
「ラティスが妖精契約してくれた事で、夢への一本の細い糸が繋がった。
どこで切れるかわからないけど、納得できるまでやって欲しい。」
「儀仗兵の指揮をとるのは、選ばれた騎士だからね。」
柔らかい表情で、ラティスが呟く。
「ユウイも同じ思いがあるようね。ほんと、アマトは幸せな奴ね。」
その言葉に、もうひとりの契約した妖精であるラファイアも頷く。
そんな話があった事とは知らず、アマトはすぐ後で爆睡している。
寝顔には残念ながら、苦悶の色が浮かんでいる。
魔狼に喉笛を噛みちぎられた夢でもみてるようだった。
第2章。温泉宿泊の夜
「これよこれ。たまらないわ~。ね、ラファイア。」
「もう私たちには、これしかないですよね、ラティスさん。」
2人の妖精の陽気な美しい声が、後ろの岩場の向こうから聞こえてくる。
「アマトちゃんも一緒に入ったら。」
「ユウイ義姉ェ。馬鹿な事はいわないで。」
「いいじゃない。兄弟だし。」
「そういう問題じゃない。」
「変なエリースちゃん。」
その会話に、2人の妖精も絡む。
「いいんじゃない、エリース。アマトの朴念仁にその裸身を見せつけたら、
ちょっとは変わるかもよ。」
「そうですよ、エリースさん。私たちは目をつぶっていますので。」
「義兄ィ。本気にしてこっちへ来たら、電撃でマジ殺す。」
「じゃ、アマトには、究極の防御結界を張ってやるので、
エリース、矛と盾の勝負しようか?」
4人が、楽しく騒いでる時、アマトは真剣を持たされて、
リーエと一緒に不審者が来ないように、
露天風呂の回りの見張り番をさせられていた。
カクシーユの町も、もう3軒しか温泉をやっておらず、戦争が近いとの事で、
貴族・騎士階級の泊まり客はおらず、一般の下級帝国民の泊まり客も少なかった。
アマト達は一番奥の宿に泊まり、その宿には、他の泊り客もおらず、
7つの露天風呂は貸し切り状態だ。
「こんな山の中で、誰がのぞくというんだよ。」
と、アマトは呟いていた。アマトにはわからないが、
おそらく3人の妖精の結界が張られているはずだし、妖魔でさえ
近寄れないだろうと思う。
アマトも早く温泉に、はいりたかった。
今日も昼間は魔狼との訓練をしたのだ。魔狼の色んな腐った匂いが、
自分に体に染み込んでいるようで、気持ちが悪かった。
一緒にいるリーエも気の毒そうな顔でアマトを見ている。
四方向にリーエの作り出す淡い光が、優しくアマトを照らし出している。
・・・・・・・・
リーエが前を指を指す、蜃気楼のようなものが浮かびだし、
次第に像をはっきりさせていく。
「わ!」
浮かびだしたのは、風呂から上がり脇の石に腰掛け、足だけ湯につけて涼む
エリースの裸身だった。
「義兄ィ・リーエ!」
像のエリースが睨む。次の瞬間、凄まじい音がして、アマトは気を失っていた。
意識が戻ってくる、ユウイの心配そうな顔が、焦点を結んだ視界にみえる。
両脇には、ラティスとラファイアが座り、治癒の魔法をかけていた。
「エリースさん。アマトさんが気が付きましたよ。もう無事です。
心配はしなくていいですよ。」
と、ラファイアがエリースに声をかける。
少し離れたところで、心配そうな顔をしていたエリースも
その言葉でほっとした様子だったが、
アマトと目を合わせると、一端横を向き、睨みつける。
「エリース。アマトの裸も見たんだからお互い様、許してやれば。」
と、ラティスが言う。アマトは薄い草布が下半身に置いてある状態の、
ほぼ裸という自分の状態に気付き赤くなる。
エリースとユウイは、大きめの草布で胸のあたりから膝上まで隠している。
ラティスとラファイアが一糸まとわぬ姿だという事に、今更ながら気づいて、
露天風呂から出ていこうと、焦って立ち上がろうとして、
アマトは湯船に頭から落ちた。
・・・・・・・・
アマトは一人で湯船に浸かっている。先ほどの事を思い出していた。
『義兄ィがかわいそうで、元気づけてやろうと思って、
あんな事をしたというの。』
エリースが頭から湯気をだして、リーエさんに怒っていたな。
『義兄ィに、そんな元気づけはいらないから。今度やったら一生、
私の中にいてもらうからね。』
リーエさんは流石にしょげていた。ただエリースが本気で怒ったら、
口をきかなくなるので、今回も2日もすれば、元に戻ってくれるだろう。
アマトは今までの経験から思う。
しかし、あれはリーエさんの完全な善意?から起こした行動、
やはり妖精さんの精神構造はわからないなとも思う。
ラティスさんもラファイアさんも全く裸身を隠そうとしなかったし、
今までの言動からいえば、
《何みてんのよ》と向こうの露天風呂まで蹴り飛ばされる感じなんだがな。
月と星をみながら考えていた。
☆☆☆☆
2日目は、朝も早くから、アマトとラティスとラファイアは
街の外へ出かけている。
一つの理由は、ユウイも相当なだめてくれたのだが、エリースの怒りが、
昨日の今日で、いまだ収まらず、その空気から逃げ出してきたという
情けないもので、
もう一つの理由は、かってアマトにラティスが試した事を、
妖精を変えて行ってみようかと、いうことである。
街から直に見えない、山影にはいったところで、ラファイアが光折迷彩を解き
本来の姿に戻る。そして、ラティスが行ったように、
攻撃・防御・治癒・索敵・念動・高速移動等をアマトにやらせてみる。
しかし、色々なやり方で試してもやはり、全く発動できない。
散々やったあと、ラファイアが、ラティスに
「ラティスさんとは、昔、滅し合いの闘いをしましたよね、
その時の事を考えると、まさか、こんな気持ちになると思いませんでしたけど、
ラティスさんを尊敬しますよ。こんな無反応な人と契約をしてて、
よくブチ切れませんでしたね。」
と本気でぼやいた。
第3章。追跡者の正体
明日は帝都へと旅立つので、結構長い時間、アマトは湯船にいる。
遠くに、夜の魔鳥キルギリウスの鳴き声が聞こえる。
あのあと、ラティスとラファイアの双方から手ほどきを受け、
あの手この手で、力の発現を試してはみた。終日あれだけやれば、
初級妖精契約者でも、火花の一つも出ようというところだが、
全く何の発動もなかったのだ。
二人の妖精が、
「「私たち完全に妖精界の笑いものね。」」
と落ち込んでいるのを見て、それ以上にアマトは恥ずかしく、情けなかった。
お湯に浸かりながらも、自分の両手を、手のひら側・手の甲側と見て、
片手を水平に上げたりして、聖呪も唱えてみたのだが、何も起こらない。
『自分は本当に、ただ妖精契約をしているだけの奴なんだな。』
と、重い現実がのしかかる。
自分の思いにとらわれていたせいで、気付くのが遅れたが、
湯面に奇妙な波紋が広っている。
アマトは前方に殺気を感じ、風呂から上がろうとする。体が動かない。
一重の魔法円ー結界呪縛ーが、アマトの周りに構築されていた。
「ほう、気付いたの、ゴミムシ君。」
聞いたことがある声が耳に届く。
「ロトル?街道で死んだんでは?」
「幽霊と思ってるの、受け~る。これだから無エーテルのゴミムシ君は。」
一つの月が雲間から現れ、まわりの景色を照らす。
露天風呂の向こうに、柿色の略式鎧に黒いインナーの、ロトルが姿を現す。
宙に浮かんでいる。だが、以前のロトルと雰囲気が違う。
「その鎧はコウニン王国の・・・。」
「おやおやゴミムシ君、この鎧の事を知ってるの。という事は、
カイムの先公を殺ったんは、やっぱりゴミムシ君達だったのね。
コウニン王国のゴキブリ共も、無駄足じゃなかったわけだ。」
「ひとり生き残って?けど、なぜコウニン王国の?」
「フッ。モブロ・ソノロの間抜けは、ゴキブリ共の最初の一撃目でボン!
ズーサ・スーマの奴らは、せっかくオレ様がゴキブリどもを制圧し、
取引してやったのに、『王国にはいきたくない。』なんて、
言っちゃったわけよ。」
「そんでゴキブリ共が、『我らの仲間になるなら、誠をみせろ』
なんて言いいやがったので、
まあ、オレがこの手で遠い国に送っちゃったわけ。
オレ様は地位と金をくれれば、帝国でも王国でも構わんし~。」
アマトは動こうとあがく、
「無理・無~理~。人生最後の贅沢が露天風呂の貸し切りというのも、
ゴミムシ君にはできすぎ。
あの妖精を待っているのなら、無駄・無~駄~。
ゴキブリ共が遠くに引き付けているからね。もう間に合わな~い。」
「ゴミムシ君の首を持参すれば、エリースちゃんも隙ができちゃうだろうから、
そこを一撃と。
お姉さんユウイとか言ったっけ、オレは年上が好みなんだ。
精神支配してオレの妾にしてやるから、心配しないでね、ゴミムシ君。」
「さあ、死ねや。」
ロトルの手から、4つの、緑に輝く真空刃迅がアマトの首に跳んでいく。
その瞬間に、アマトの前後左右に白金の光球が現れ、真空刃迅をかき消す。
ロトルは、間髪入れず、破壊振動音波を光球めがけて打ち出すが、何も起こらない。
「アマトさんは、馬鹿だとは思いますが、ゴミムシではないですね。」
「それに、私と契約した人です。」
アマトの前に、ラファイアが現れる。彼女も宙に浮かんでいる。
口調ははいつも通り軽いが、
後ろ姿には、怒りの背光が張り付いている。
「ラファイアさん!」
「アマトさん結界呪縛も消しました、けど動かないで下さい。」
次の瞬間アマトの視界は、緑色一色に変わり、周りの空間に雷光も輝いた。
「俺様の全力の緑電奔流も効かない。バケモンか、お前は。」
ロトルは叫ぶ。
「こんなに、美しくて優しい妖精をつかまえて、バケモンとは失礼ですね。
怖い化け物なら、ほらあなたの後ろに・・・。」
「誰が怖い化け物だって。ラファイア。」
いつの間にかロトルの後ろ上空に、怒り心頭の妖精が宙に浮いている。
「あら、そんなことは言ってませんよ。ラティスさん耳が遠くなったんですか?」
ラティスの柳眉が上がる。
次の瞬間アマトの視界は、橙色と橙黄色の2色に変わり、激しい雷光が煌めく、
眼を開けていられない。
『ラティスさん攻撃する相手が違うんじゃないですか?』
アマトは、目をかばいながらも思った。
ロトルは、何も言わず2人の妖精に、再び全力の緑電奔流を放ち、
隙をみて逃げにはいる。
「次はおぼえてろよ!」
薄笑いをうかべ、ロトルは呟く。渾身の高速移動状態に入る。
しかし、次の瞬間、彼は地面の上に叩きつけられていた。
全身に激痛が走り動けない。しばらくして、
彼のまわりを魔狼が取り囲んでいく。
アマトに手を出した人間を、暗黒の妖精ラティス・白光の妖精ラファイアが
見逃すはずはない。
☆☆☆☆
一人の男が、カクシーユに向かう街道の道端に焚火をたいて、休んでいる。
「この時間になっても帰ってこんか。上級妖精契約者といっても、
まだガキだからな。」
と、その男、コウニン王国クリル大公国方面工作部支配人のグ・ルーは、
カクシーユ方向をみながら、一人呟いて、考えていた。
< 作戦は失敗したが、オレの心は晴れ晴れとしている。
オレは才気ある配下が嫌いだ。
講師としてクリルに潜り込ませたカイムなどはその筆頭だ。
奴は、潜入工作員の仮面にしかすぎないはずの、講師という仕事でさえ、
周囲の耳目を集めていた。
だからオレは、本国の指令の意図を挿げ替えた。
今回の指令は、以下の2点だった。
①潜入工作員たるカイムの速やかなる回収
②上級妖精契約者の勧誘或いは暗殺。
だがオレは②の暗殺の部分が最も本国が望んでいるかのようにふるまった。
カイムは死んだ。
今、配下共も、ロトルとかいうガキも、この時間にも帰らない、死んだか。
ま、仕方ない事だ。
オレは、今の地位を掴むまで、上司いや同僚にでも
世辞・追従を重ね続けた、気分のいい奴だと
思われるのに苦労したのだ。
オレの配下になる奴が、オレの靴の下を舌で舐めるくらい、
オレを敬わなければならない。
それができない配下は擦り潰されるのは当然。
あとの事は、副支配のセ・ルーに、『いったよな。』て押し付けて終わり。
念を入れてもう少し、いたぶって、責任を押し付けるか。>
「こいつ屑ですよね。これでもこの辺を統括している男なんですよね、
ラティスさん。」
「ま、組織にいる人間に、こういう奴は多いわ、ラファイア。
こういう奴だから私の精神支配で簡単に、
ベラベラしやべってくれたんだけどね。」
2人の物凄く美しいものが、自分を見下ろしている。ここはどこだ?
グ・ルーは焦った。いつのまにかオレは、いまの事をしゃべっていのか。
最後の記憶は・・・。
・・・まだガキだからな。』と言ったあと、
何か恐ろしいものが2つ、焚火の反対にあらわれた。
そうだ、そうだった、思い出した。それから記憶がなくなっている。
グ・ルーは体を動かし逃げようとする、ピクリとも動かない。
「さて、あんたはやってはいけないことをした。
私の契約者のアマトに手を出した。」
「その報いは受けないとね。今からあんたがやる事を、教えといて上げる。
あんたはこの件はこれ以上追いかけても損害が大きいから中止をと、
文字通り体を張って、本国に主張する。」
「それが終わったら、あんたの敵対する組織に、
あんたの組織の内部情報を流し続ける。
あんたは、それが絶対の正義だと疑いもしないわ。」
グ・ルーは背中に冷や汗を流した。そういう裏切りものの最後を聞きもしたが、
実際その目で見てもきたのだ。
「あらあら楽しそうね。じゃあんたの今の記憶を眠らせてあげる・・・・。」
と、ラティスは右手をグ・ルーの額にあてる、黒い魔法円が現れる。
グ・ルーの首がガックと折れる。それを見ていたラファイアが、
「わ~、ラティスさんえぐいです。アマトさんが見てないと、
昔のラティスさんみたいな事をしますね。」
「は、ラファイア、どの口が言うのよ。この男のいまわの瞬間に、
今の記憶を取り戻す魔力を、こっそり行使したくせに。」
「ハハハ、気付いてましたか。さすが、ラティスさん。」
2人の妖精の姿がかき消すようにきえる。
グ・ルーの目が光を取り戻す。何もなかったように、
最後の考えの部分をなぞりだす。
あとの事は、副支配のセ・ルーに、『いったよな。』て押し付けて終わり。
念を入れてもう少し、いたぶって、責任を押し付けるか。
オレはこんなところで終わるはずが、ないのだから・・・・・・。
アマトに手を出した人間を、暗黒の妖精ラティス・白光の妖精ラファイアは
見逃すはずがない。
第4章。妖精たちの心情
アマトには、昨日の襲撃で、しばらくは暗殺者の再度の襲撃は
ないように思った。
『戦力の逐次投入は愚者のやる事』という真理は、暗殺という卑怯な事でも
当てはまるのではなかろうかと考えたからだ。
昨日は、ここいらで動員可能なすべての人間をつぎ込んだと。
しかし、ロトル。強大な力を手に入れ、プロの暗殺者を退けたことから、
血に酔いしれ溺れてしまったのだろう。あの歪んだ顔と表情に、
今更ながらアマトは恐怖を感じていた。
そのような事をアマトが考えているときに、エリースは、
温泉での事など頭から消えて、義兄アマトと義姉ユウイの心配をしていた。
アマトからロトルが言っていたことを聞いて、エリースには、どうしても、
コウニン王国の暗殺者達が襲ってきたのは、任務の完遂というより、
復讐の意味合いが大きいのではなかろうか、という思いにとらわれたからだ。
自分だけなら、超上級妖精の力も発動できるし、それにリーエもいる。
義兄アマトも2人の妖精がいるといっても、
もし隙をつかれれば昨日の事のようになるかもしれない。
ましてや義姉ユウイは、何の護りもないし、
いつまでも自分が一緒にいれるわけでもない。
一方的に仕掛けられた理不尽なのに、
結果、復讐の連鎖に巻き込まれることになった。
エリースは、激しい怒りと同時に、底知れぬ恐怖に襲われていた。
「エリース!」
ラティスが、悩んでいたエリースに声をかける。
「もうしばらくの間は、昨日のような事はおこらないわ。心配しなくていい。
私とラファイアで、キッチリ型にはめてきたからね。」
「ありがとう、ラティス。けどまた・・・。」
「まああんたは、超上級妖精の力があるとしても。
アマトとユウイの事でしょう。
妖精にとって契約者は大事な人。アマトが心から大事にしている、
あんたもユウイも、私とラファイアにとって大事な人よ。」
「昨日の言い訳をいわせてもらうと、奴らが街に入る前から、
奴らの事は感知してたわ。けどね、
私たちは契約してしまうと、契約者の人格に影響されてしまうの。」
「あんたには言うけど、私もラファイアも本来の私たちなら、
アマトの安全のために、街の一つ、消し去ることに
なんの躊躇もしないわ。」
「けどアマトの人格は、魔狼を殺す事さえ厭う、やさしいもの。
だから、ギリギリまで手を出すのを控えていたの。
けど、それが心配させちゃったみたいね。」
「今度から、あんたもアマトもユウイも知らないうちに、
処置してやるからね。」
「「ごめんなさいエリース」」
美しく優しい声が重なる。
「な、ラファイア!」
「なんですか、ラティスさん自分だけいい子ぶって。」
光折迷彩を解いて、ラファイアが現れる。
「聞いてたの?」
「『・・・契約者は大事な人。・・』あたりから。」
「お前一遍、マジ殺す。」
「だから、ラティスさん、お互いアマトさんと契約してる時は、
無理ですって。」
「なんなのよもう、この不条理は。」
ラファイアは、自分を睨んでいるラティスを無視して、
エリースに語りかける。
「エリースさん、ラティスさんが言っている事は、私もそうですよ。
あなた方は大事な人。2度と今回のような事はさせません。」
「ありがとう。ありがとう。ラファイアさん、ラティスさん。・・・」
「エリース。いざとなったら、コウニン王国の王を〆に行くよ。
そんな奴らは他人の首がいくつ飛ぼうが、全くなんとも思わないけど、
自分の指先が怪我したぐらいで、大騒ぎをするような
カスに違いない。」
「あんたが将軍でいい、私はあんたの剣になってあげる。
これをラティス、妖精の名誉にかけて誓うわ。」
「わたしもですよ、やりましょう、わたしはエリースさんの
矛になりますので。わたしラファイア、妖精の名誉にかけて誓いますから。」
エリースは、自分の肩にかかる重圧を、2人の妖精の、
『あなたの重圧を少しでも軽くしてやる』という気持ちを聞いて、笑ってみせた。
けど心の中は嬉しさに泣いていた。
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