6話

「まさか、こんなに早く故郷に帰ることになるなんてね」


 陽も登りきらない明け方。ようやく薄ぼんやりと白んできた空を見ながら、クインが呟く。

 持っていく荷物は最小限。出発する時間については村人には誰にも伝えていない。リークテッドに向けてただひたすらに移動するだけなのだから、リアの姿は馬車を引くための馬ではなく、すっかり馴染み深くなってしまった黒毛の魔物の姿となっていた。


「本当に、誰にも言わずに来てよかったんですか?」

「人が集まったら、その分ソータが苦しくなるだけよ。それに、またすぐ戻ってくるのだもの。ね?」

「え? ああ、うん」


 歯切れの悪い颯太の返事を聞いて、クインの目が細められる。


「……どうしたの? もしかして、また何か反映して……」

「あー……違う違う。そうじゃなくて」


 頬を指先で掻きながら、颯太は唯一、見送りに来てくれた二人を見る。


「……なんだ、その不服そうな顔は」

「不服というか……わざわざ無理して見送りに来なくてもよかったのに、とは思ってます」


 まだ陽も昇らない早朝でありながらも、狩猟者の二人、オルヴァーとヘレンは揃って門の前まで来てくれていた。そのこと自体はありがたいことだとは思っているが、出発の準備が整ったらこちらから顔を出して、怪我人の負担を減らすつもりだったのに、と。いらぬ手問を取らせてしまって心中複雑ではある。


「足は大丈夫ですか?」


 黒毛の魔物の姿のまま、リアが愛らしい声でヘレンの肩を借りつつも立つオルヴァーに問いかける。魔物(の姿をしたリア)に気遣われる経験に多少驚きつつも、オルヴァーは苦笑を浮かべた。


「問題ない。こうして肩を借りれば歩くこともできる」

「なんで肩を借りてる側がそんな得意げになってるのよ。こいつやせ我慢してるだけだからね。せっかく見送りに行くんだから、無様な姿は晒したくないだけなのよ」


 赤裸々に心情を暴露されてか、オルヴァーの表情が不満げに曇る。最初こそはその渋面を怖くも感じていたが、今となってはただ単に照れているだけなのだとわかって、いっそ微笑ましくも感じていた。


「わざわざありがとうございます。本当に、お二人にはなんとお礼を申し上げればいいか……」

「やめてやめて。お礼を言いたいのはこっちの方なんだから」


 礼儀正しく頭を下げようとするクインに対して、ヘレンは空いた手を振りながら答える。


「確かに最初に助けたのはあたしたちかもしれないけど、その後はずっと助けられっぱなしだもの。あなたたちがいなかったら森の異変も解決できなかったし、ゴーストの存在にも気づけなかった」


 そうしてヘレンは、クインとリア、その間にある空間へと目を向ける。


「あなたには、特に助けてもらっちゃったね」


 依然として、ヘレンはには颯太の姿を視認することはできていない。それでも、視線は、意識は、颯太へと向けられている。


「まだちゃんと君の姿を見たことはないけれど。素敵な男の子だってことはわかってるから……がんばってね」


 姿が見えないというのに。今この瞬間に、たとえ颯太が乱心して殴りかかってきても、その姿を捉えることすらできないというのに。

 全幅の信頼と激励を、ヘレンは笑顔に乗せて颯太へと送る。


「……あまり気の利いたことは言ってやれないが」


 自身の口の上手くなさを理解した上で、オルヴァーは颯太の目を見据える。


「おまえは強い。それは、もう十分に知っているだろう」


 言葉とともに、力強く鋭い視線を受けて、颯太の身は震える。


『……はい』


 魔法を使い、ヘレンにも聞こえるように返し、颯太は振り返ってリアの背に乗る。クインはその颯太の後ろ側に乗り、彼の腰に手を回した。

 黒毛の魔物が立ち上がる。思っていたよりも視界は高くなって、少しだけ驚くも顔には出さない。


「気をつけてね」


 ヘレンが最後に投げかけた言葉に、三人は頷いた。

 そうして、黒毛の魔物は駆け出した。戻ることはないと思っていた場所に向けて。

 止めなければいけない相手を、止めるために。





「……ねえ、オルヴァー」

「どうした?」

「もしかしてソータくん。リアちゃんが走り出すとき、『ひえっ』ってビビったような声出してなかった?」

「……ああ」


 苦笑でもなんでもない、心から楽しそうに目を細めてオルヴァーは笑う。


「次に会うときは、おまえにも見えているかもな」





「思いのほか早いな!」


 黒毛の魔物と変じたリアの全力疾走に、初めてその背に乗った颯太が悲鳴染みた声を上げる。速度だけならば車の方がずっと速いはずだが、全身に感じる風の強さと乗り心地の悪さが恐怖を煽る。

 とはいえ、背後にはクインがしがみつくように後から腰に手を回しているのだから、颯太がしっかりと踏ん張っていないといけない。


「もう少し緩めますか?」

「……いや、このままで行こう。悠長にしてられる場合でもないしな」


 リアの気遣いを断って、颯太は気を引き締める。


「……本当に大丈夫?」

「そんなに心配しなくても……そこまで信用ないか俺」


 背後から聞こえたクインの問いに、颯太は苦笑を浮かべる。


「大丈夫だよ。俺自身が大丈夫って思ってるし。それに、二人が大丈夫って思ってくれるなら、なおさら」


 自分が、水際颯太が、ゴーストが。それがどういった存在なのかを思い知ってからというもの、他者の認識の影響を受けるという意味をよくわかってくるようになってきた。

 現に今、二人が颯太の言葉を聞いてくれたその瞬間。感じる風や不安定な姿勢から伝わってくる恐怖が和らいでいる。

 身も蓋もない言い方をすれば、ゴーストは思い込みによって変わる存在だ。人だと思えば人に。化け物だと思えば化け物へと。自分の意思だけではなく、周囲の意思を反映してしまうところが、節操のない部分ではあるが。


「たぶん、見えているってのが重要なんだと思う。二人が俺を見えているから、二人からの意識をより反映しやすいし……俺しかあいつは見えていなかったから、俺の意識をあそこまで反映した」


 同じ人の姿で、同じ世界からやってきたはずなのに。あのゴーストはこれまで会った誰よりも中身が壊れて、化け物のようになっていた。意思疎通ができてしまう以上、ただの魔物よりもずっと性質が悪い。


「だから、俺が相手をするべきなんだと思う。一度あんな無様に逃がしておいて信用ないかもしれないけど……俺さえしっかり意識できれば、あいつはただの人間だ」


 唯一視認できる颯太が恐怖に負けず、そうしっかりと意識さえできれば。何度斬りつけても死なず、怪力を併せ持つ化け物はいなくなる。


「……うん。そこに、異論はないわ」

「姿が見えない以上、僕たちが前に出たって仕方がないですもんね」


 二人の同意を得られたことにより、颯太の中でより強い自信となってその考えが根付く。我ながらチョロい存在に成り果てたものだな、と思いつつも、信頼できる二人の期待を反映できる自分が、どこか誇らしくも思う。

 魔物となり駆けるリアの速度は、馬車を引きながら歩いた馬の時と比べ物にならないぐらいに速い。

 考えていたよりもずっと早く、リークテッドへと辿り着くことができた。

 ……ずっと早く、辿り着けたと思っていた。


「……ひどい」


 リアから降りたクインが、手を口に当てて顔をしかめた。

 もう手遅れだった。そう、思えてしまうほどに壮絶な光景が広がっている。

 大国リークテッドを覆う防壁を通るための大門。平時ならば大国を守護するために聳えるその門は、無残なまで砕かれていた。

 まるで巨人がその大きな手で押し壊したかのような、巨大な何かが突撃したかのような。どちらにせよ、その破壊の跡は明確な異常として目に飛び込んでくる。

 颯太は奥歯を噛みしめ、リアの体から飛び降りた。その勢いのまま、その無残に砕けた門を抜け、その先の光景を見る。

 ……予想していなかった。そんな言い訳染みた感想を、今更抱くことなんてできない。

 鍛えられた人間の体を容易に握り潰せるほどの膂力を持った者が、誰にも見えずにただ暴力を振り撒けば、十分に起こりえる惨状だ。


「そん、な……」


 同じように駆け寄ってきた二人も、その光景を見て、息を呑む。

 門を抜けた先に広がる家々。その建物が、まるで道の中心を荒れた突風が駆け抜け、その脅威を容赦なく受けたかのように。路地を作る石畳の道路が所々剥がれ、砕け、飛び散っている。路地に広がる屋台や露店も例外ではない。

 きっと、その傍にいたであろう人々も。


「……まだ、そんなに時間は経ってないみたい」


 顔をしかめ、それでも冷静に辺りを見回したクインが言う。

 周囲には怒号とうめき声が上がり、目を背けたくなる光景が広がっている。もしゴーストがもっと前からこの国に辿り着いていたのならば、ここまでの惨状が広がったままではないだろう。


「怪我人は……多いけど。大丈夫、見た限りじゃ、亡くなってる方は――」


 死人が出てなければいいということではない。クインは自分の言葉を止め、首を振る。颯太も、クインも、リアも。今この場で、痛みと突然襲いかかれた混乱と恐怖に戸惑う彼らの元へ駆け寄りたい衝動を堪える。

 この場所だけではない。破壊の跡は、一直線に伸びている。大国の中心には、その中心にあるに相応しき建物が聳えている。


「急ぎましょう。私たちが城に行ってゴーストを止めないと、救助に人を回すこともできないわ」


 紛れもない正論を聞いて、颯太もリアも頷いた。冷徹に聞こえかねないクインの言葉は、本質は何よりも優しく正しい。この場で三人ができることなど、高が知れている。

 自分たちがなぜこの国に戻ってきたのか。その目的こそが、彼らをいち早く助けるための何よりの手段だ。


「ごめん。ちょっと迷った。急ごう」


 唇を一度強く噛み、颯太は迷いを捨てる。そうして一歩踏み出して。

 砕けた石畳を踏んだ音に、誰かが気づいた。

 最初はたった一人だけだった。突然の敵……いや、敵なのかすらわからない。正体不明の惨事に見舞われた人々の中の一人が、立てられた物音に気づいて視線を向けた。


 そうして、颯太と


「――あ」


 一人が気づき、二人が気づいた。連鎖するかのように、いくつもの視線が颯太へと向けられる。

 突然の惨劇に対して理不尽にも巻き込まれ、助けを求める人々の意識が向けられた。

 この状況を打破し、自分たちを救ってくれる。そんな、都合の良い存在を求める人々の意識が向けられた。


「ソータ!」

「ソータさんっ!」


 頭を抱え崩れ落ちる颯太に、二人が手を伸ばしてその体に触れる。誰よりも近くで誰よりも水際颯太の存在を想う二人がいても、

 ――数百を優に超える、人々の願望が覆い尽くす。


「ああああああぁぁぁ!」


 統一感など欠片もない、バラバラの理想像。窮地に対して都合よく現れ、信頼を集め一瞬で現状を打破してくれる英雄。

 人々が各々抱えるその理想像は、どれをとっても水際颯太に似つかわしくない。

 自分たちに近しい髪の色で背は高く、見るだけで安心感を与える体躯に、自信に満ち溢れた優しい眼差し。そんなものは一例に過ぎない。多種多様の、ありとあらゆる様々な英雄の姿が、期待となってぶつけられる。


「やっ……め、ろ!」


 心の中で、不安には思っていた。

 ゴーストという存在が、周囲の期待や意識を反映してしまうあやふやな存在ならば。助けを求めるの人々の前に自分が現れたら、どうなってしまうのか。

 その答えが、颯太へと容赦なく向けられる。


「助けてくれ!」


 民衆の一人が声を上げる。心からの懇願は、まるで打ち寄せる強い波のようであり。


 ――水際颯太を殺す、否定の祈りに他ならない。


「ぐっ、あ、っ、ああああああぁぁ!」


 颯太を颯太として見てくれるクインがいなくなった森の中。あの時、リアとヘレンからのみ意識が向けられた時ですら、自分を保てずにいた。

 ならば、街中から向けられる期待に対して、たった一個人の意識がどこまで立ち向かえるのか。

 消える。

 颯太は確信する。水際颯太という一人の人間の意識は、数百、数千をも越えかねない期待に応えられるほどの器など持ち合わせていない。

 自分の中に確実に存在していなかったとわかる記憶が、まるで最初から存在していたかのように頭の中に居座ろうとする。経緯が、経験が、それを踏まえた自分への教訓が、ありもしないエピソードが颯太の中に別の何者かへの骨子として形成されようとする。

 それはまるで、ここにいる誰もが、おまえの存在なんて望んでいないのだと、叫ばれているようで。


「いや、だっ……!」


 放り出されて、彷徨って。ようやく、居場所を見つけたんだ。どれだけささやかでも、ありがとうと言ってもらえたんだ。

 ――あなたはここにいていいのだと。自分がいることを、手を握って喜んでもらえたんだ。


「それすら、奪われて、たまるか……!」


 歯を食いしばり、頭を抱え、それでも、抗う。

 たった数日。半年にも満たない。それでも、抗って生きてきた軌跡を、奪われたりなんてしてたまるものか。

 ――その抵抗を、肯定するかのように。


「――――!」


 長く。そして、重い咆哮が、全ての希望を絶つかのように街中に響き渡った。

 聞くものを震え上がらせる敵意の咆哮。その声の主は、英雄の隣に立つにはあまりにも似つかわしくない、恐ろしい黒毛の魔物。

 一瞬にして戻る静寂。誰もが、突然声を上げた魔物の姿を見て、恐怖を抱く。

 意識が、魔物へと集中する。


「ソータ!」


 たった一人だけが、苦しむ少年の名前を呼ぶ。


「ソータ! しっかりして!」

「クイ、ン……」


 この世界で初めて、目を合わせて手をとって、自分の存在を認め、喜んでくれた少女が。

 颯太の存在を認めてくれたあの夜と同じように、手をとって目を――合わせた。


「あなたはあなたよ! 他の誰かじゃない! あなたはミナギワソータというたった一人の男の子で、私の――」


 黒くしなやかな髪を地に着け、黒く澄んだ瞳に涙を浮かべ、ただ一人、水際颯太へと語りかける。


「私の、ただ一人の、お節介な――」


 握られる手を、颯太は強く握り返す。

 依然として頭の中には縁もゆかりもない、存在すらしなかったはずの誰かの理想像が湧いてきたとしても。


「……ありがとう。もう、平気だから」


 彼女と、目が合っている。お互いを、見ている。

 それだけで、水際颯太は水際颯太のまま、ここにいられる。

 頭の中に平然と居座ろうとしてくる、覚えのない記憶。水際颯太を追いやり、望む存在へと挿げ替えようとする意思。

 それは、周囲の期待に応えようとする、マナによるものだ。マナは颯太へと収束し、ありもしない記憶と経験を植えつけようとしてくる。

 期待も、頼んでもないエピソードも。努力と苦悩の末に掴んだありもしない栄光も。

 なんだって、水際颯太には必要ない。


「……おまえら」


 必要ないから放り投げるように、空に向けて右手を広げる。


「どいつもこいつも、うるせえええええええ!」


 心優しい英雄ならば絶対に口にしない言葉を、心の底から張りあげた。

 颯太の叫びに呼応するかのように、マナが上空へと集まり、大気を振るわせるほどの爆音で破裂する。

 一瞬にして舞い戻った静寂。その中心に立つ少年は、大きく息を吸って――


「今更っ、俺を見てるんじゃねぇ!」


 唖然とする民衆に向け、叫ぶ。


「一ヶ月も俺を無視して、あげくにはゴーストだの災厄だの異端者だのそういう扱いしておいて! 今更! 俺に助けなんて求めてんじゃねぇ! 都合良過ぎなんだよ! 厚かましいにもほどがあるだろ!」


 黒い瞳を潤ませて、うわずった声色で、泣きそうになるのを我慢しているかのような少年が叫ぶ。


「俺がどんなに叫んでも、助けを求めて、ここにいるんだって証明しても! おまえらはずっと、怖がって、気味悪がって、無視して、逃げたくせに!」


 一ヶ月間。孤独に耐え、存在を証明しようと躍起になって、そのたびに恐れられ、疎まれて。


「俺はおまえらが恐れてきたゴーストだ! ずっとずっと無視してきたゴーストなんだよ! おまえらを助けるためにやってきた英雄でも救世主でもなんでもねぇ!」


 善行ならば受け入れてもらえるかもしれないと夢見て、人知れず重ねてきて、それすらも、明るみになれば忌み嫌われて。


「俺は何一つだって忘れてないからな! ここで暴漢を取り押さえても、盗人をとっ捕まえても、崩れそうになった荷物を押さえたりしても、おまえらは全部無視するか怯えて逃げ回ってただけじゃねぇか! 今更どの面下げて俺に助けを求めてんだ!?」


 あんたたちが手を伸ばして助けてくれと叫ぶように。

 こっちだって、助けを求めて手を伸ばしていたというのに。


「俺は今、俺の横にいる二人の味方であって、おまえらの味方なんかじゃねえ! ここに来た理由だって私怨だ! おまえらには少しも関係ない!」


 横に立つ少女の、人でなしの父親をぶん殴りに来ただけだ。される筋合いもない信頼も期待もうっとうしい。


「俺はおまえらの大嫌いな薄汚いゴーストで、平々凡々を絵に描いたようなただのガキなんだよ! 助けなんて求めてるんじゃねぇ! そんなことする暇あったら自分でさっさと瓦礫どけるなり怪我人運ぶなりしろ! バーカ!」


 最早ただの罵倒と成り果てた言葉の羅列。およそ英雄や救世主が口にすることものではない罵詈雑言。でもそれが、水際颯太が口にするべき言葉であり、彼の本心だ。

 この世界に放り出されたときとは真逆の気持ちで、叫ぶ。


「俺を見るな! 俺に期待するな! 俺は、俺のしたいことをするだけだ!」


 好き勝手自分の言いたいことを叫んだ颯太は、一度大きく息を吸う。肺に吸い込んだ空気を、その動作をした自分という存在を今一度強く意識する。

 頭にこびりついた憶えのない記憶を、無視できるだけの自分を意識する。


「リア! クイン! 行くぞ!」


 傍に控えてくれていたリアに飛び乗り、颯太はクインへと手を伸ばす。彼女の黒い瞳と目が合って、彼女の手を握る。

 君がいる。君が見ている。

 それだけで、水際颯太は、水際颯太としてここにいれる。

 たとえどれだけの期待に押し潰されようとも、その視線さえあれば、最後まで駆け抜けられるだろう。

 颯太とクインを乗せたリアは、道を開けろと言わんばかりに吼える。耳を劈く音に怯えてできた道を、石畳を剥がすかのような勢いで走り出した。

 まるで英雄に似つかわしくない言動をしていった彼を、街中の人が呆けた様子で見送る。

 期待を裏切られたような感覚が、誰にもあって。

 ――それでも、彼ならきっとなんとかしてくれるのではないかと、淡い期待だけは誰にも残っていた。

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