4章 たったそれだけでよかった物語
1話
最初に断ち切ったのは、痛覚だった。
あの時。あの森で。もうどこにもいなくなってしまった彼の姿を何度も思い出す。忘れようと思ったこともない。
きっと、忘れようと思っても、無理だろうなってわかっていた。
「……もう、我慢の限界です」
そう、リアが私の顔を見て口にしたのは、彼が姿を消してから何年後のことだっただろうか。
「クインさん。もう、諦めましょう。これ以上……自分を歪めていくあなたを、見ていられない」
消えてしまった彼を探すために、私はマナ溜まりがあったあの森に家を作り、そこで暮らしていた。森一帯のマナを蓄えやすい土壌は、私の魔導の研究にうってつけだったし、何より……彼が姿を消したこの地を、離れたくなかった。
「歪めていく……って。ひどいなぁ。これでもまだ、保てている方だと思ってるんだけど」
時間はいくらあっても足りないぐらいだった。マナとは何か。それが可能とする事象は。消費したマナはどこに行くのか。そもそも無限に存在するものなのか。有限だとしたら、それはどこから来るのか。魔法には、魔導には、何ができるのか。
いなくなってしまったソータは、何が原因でいなくなったのか。
どうして、ソータは私の前に現れてくれたのか。
わからないことが、解明していないことが多過ぎる。もしかしたら……なんて憶測はあっても、それを確定させるための証拠がない。
ずっと森に籠って、リアに生活と研究を支えてもらって随分と経つけれど、わかったことはあまりにも少なかった。
誰もそれが正しいと教えてくれない。元々研究とはそういうものだと割り切っても……時折、全てが間違っているのではないかと不安に押し潰されそうになる。
いくつ季節が巡ったのだろう。時間の流れなど、どれだけの間、考えてすらなかったのだろう。
「もう、嫌になっちゃったかな」
その不安が、言葉となって漏れ出てしまう。リアにとっては、私よりもずっと不安だったはずだ。嫌になっても仕方がない。私はリアに対して言うことを聞かせる強制力なんて持っていないだから。
リアは首をゆっくりと振って、私を見る。
その顔は、記憶に残っている光景よりもずっと、大人びた表情をしていて。
「僕も、ソータさんに会いたいです。でも、クインさんが、あまりにも……」
私があまりにも、なんだというのだろうか。
「……私?」
聞き返し、自分の顔を指さそうとして。
――もう、右手が腐り落ちてなくなっていることを思い出した。
「……ああ、そっか。そういえば、もう、ダメになったんだったね」
五感のうち、何よりも先に遮断するべきだと思った痛覚。体の限界は痛みを伴って、思考を邪魔してくる。だから、何よりも優先して排除しなければいけなかった。そのせいで、今みたいなだらしない様を見せてしまった。
……言ってしまえば、すでに私の体に必要な五感など存在しない。触覚も、味覚も聴覚も。視覚は……あった方がいいのだけれど、眼球がいつまで残っているかもわからない。
「歪めるって、そういうことね」
生きている肉体、とはすでに呼べない。あれから何年経ったのか、もう思い出せないし、この体からしてすでに通常の人間が生きていられる時間をとっくに過ぎているのだろう。
魔導によって歪められた肉体と、精神。成長を止めることはできても、劣化を止めることはできない。あくまで魔導は、その生命が可能な範囲のことしかできないから。
「確かにこんな姿見られたら、ヘレンさんに怒られちゃうかも。女の子が、そんなみっともない姿しちゃダメよ、って」
「……ヘレンさんも、ずっと前に亡くなっています。二人のお孫さんも……もう、二年前に」
「……そ、っか」
ショックは、少ない。というよりも、知っていたことを思い出したかのようで。
「クインさん。もう、やめましよう」
「……それだけは、絶対に嫌」
リアが私を思って、自分でも言いたくない提案をしてくれていることはわかっていた。でも、それは嫌だ。
「だって、ソータは、確かにいたのだもの」
もうソータのことを憶えているのは私とリアだけで、他に確たる証拠なんて何一つない。この世界において、ミナギワソータという存在がいたということを証明できるものなんて、何一つ残ってなんかいない。
なら尚更、やめることなんてできない。諦めることなんて、できやしない。
「方向性は見えてきてる。あとはそれを可能にする魔導の構築……そして、覚悟と、あなた次第」
ゴーストが単なる感応性の高いマナの塊であるのならば、魔導でそれに近い存在へと変化させる術式を作ればいい。そして、ゴーストは認識者の望む姿に、存在に自らを変貌させる。
そこに、どれだけの不可能があろうとも。異世界の存在を、この世界に確立させることだって可能なのだから。
きっと、遠く離れたあなたにだって、会いに行ける。
「ああ、でも。こんな姿、ソータには見られたくないな。でも、リアにはもう見せてるから、この前提は変えられないし……視認できないように、できるかな。ふふっ、なんだか、本当にゴーストになるみたい」
未来への展望を話すとき、どうしたって心は浮き立つ。その瞬間のために、無限にも思える時間の苦しみと、もう今は感じることさえない体の痛みに耐えてきたのだ。
「クイン、さん……」
「ほら、リアも笑って。それに、もう敬語はやめてって言ったじゃない。私の都合で何年もあなたを付き合わせてしまってるのだもの」
「……いや、僕は、僕が手伝いたくて、一緒にいるんだよ」
そう、無理矢理にでも笑って口にしてくれるリアに、いったいどれほどの感謝があるのだろう。自分でも、もうよくわからない。
「……ありがとう。嬉しくて、抱きしめたくなっちゃうけど……この体じゃ、ダメだよね。もし会えても、ソータだって嫌がるだろうし」
「僕は気にしないよ。それに、きっとソータさんも。あの人は、クインさんにはひたすらに甘かったし」
「……そう、かもね。でも、できれば、見せたくはないかな」
口ではそう言っても。ソータに見てもらいたいと思う歪んだ自分がいる。
あなたに会うために、こんなになるまで頑張ってきたんだと。自分の歪んだ体を、見せ付けてしまいたいと。
「……本当は、あなたにだって、見せたくはないんだけどね」
そうして、私は腐敗した体で笑う。
これは、私がソータにもう一度出会う前のこと。
彼を見て、彼を知って、彼の存在を焼きつけるように憶えるための、軌跡。
私が知らない彼を。私が知っている彼を。全て。全て。余すことなく知るための。
それが、私にできる、あなたへの最後のお節介なのだから。
*
村から少し離れた、雑草が薄く茂る森の中で、向かい合う男が二人。
二人は向かい合いながらも、視線が合うことはない。
短く、緊張を吐き出すように息を吐き、覚悟を吸い込むように息を吸う。
『……行きます』
颯太は体内のマナを音に、声に変換して響かせる。その緊迫した声色を聞き、鋭い目つきを油断なく走らせる青年、オルヴァーが頷いた。
「――っ!」
一歩、強く前に踏み出す。けれど地面を蹴り上げる音は、ない。
楓太の足を覆うように変質したマナの膜は音を吸い取り、周囲に一切響かせない。騎士として、狩猟者として研鑽を積んできたオルヴァーにはその疾走は余りにも遅く、拙いものだ。
けれど、その姿を視認できなければ目で追いようがない。
「風よ、弾けろ!」
まるで命令するかのような颯太の言葉に、体内のマナが過敏に反応する。オルヴァーの右側に収束したマナは言葉に従うかのように空気へと変質し、音を立てて弾け飛ぶ。
その空気が弾け飛び、音を出すその前にオルヴァーが木剣を振るう。その軌跡に楓太がいようがいまいが、一撃で叩き伏せるかのような気迫の一線。だが当然、颯太には当たらない。
風を炸裂させたその瞬間、颯太は飛び跳ねるようにその逆側、オルヴァーが振るった軌道の反対方向へ。そしてすぐさま体勢を立て直し、拳を握り締めて疾走する。
「――取った!」
剣も、オルヴァーの視線も反対側。完全なる背後からの奇襲。勝利を確信して思わず零れた歓喜の声も、オルヴァーの耳に届くことはない。
「甘い」
届いていないはずなのに、まるで答えるかのようにオルヴァーが眩く。
剣筋は止まらずに描かれる。靴底を地面に擦らせ、軸とした回転斬り。当たれば確実に怪我をするかのような一振りが、止まることなく背後まで軌道を描く。
「ひぃっ!」
足を止め、体を反らさなければ側頭部に一撃食らっていた。その無理な体勢を払うかのように、地面に沿うような低い蹴りが颯太の足にぶつかり。
「このあたりか」
オルヴァーの振り下ろした木剣の切っ先が、地に背をつける颯太の眼前でピタリと止められた。
『……なんでわかるんですか』
「勘だ」
短くも、妙に説得力のある理由を聞いて、颯太は見えもせずとも両手を上げる。
『……参りました』
マナ溜まりによる森の異変を解決し、颯太以外の誰の目にも映らなかった、不気味な男と目が合ってから二日後の朝のことだった。
*
あの不気味な視線を、目を合わした時の怖気は忘れることはできない。
……が、警戒心を持ったまま丸々二日ほども経てば、自分でもどう心に落とし前をつければいいのかわからなくなっていた。
「まず、魔法を使った誘導と実際の攻撃に移るまでが遅い。同時に行うほど間を与けないようにしなければほぼ無意味だ。それにどうせ音を立てるなら炸裂音ではなく聞こえるか聞こえないかほどのか細い音を立てろ。意識を向けさせる分には大きい音の方がいいだろうが、あからさまにおまえが通常立てる音ではないのが丸わかりで最早誘導の意味を成していないぞ」
『はい。なるほど。おっしゃるとおりです。はい』
「……どうして正座してるの、ソータ」
模擬戦、というにはあまりにも一方的かつ一瞬で終わった戦闘が終わり、講評を受けているところにやってきたクイン。
彼女の視界にはしっかりと姿が見えている颯太に向けて、オルヴァーがクドクドと喋っているように見えるが、それ以外の颯太を視認できない人から見れば……これまでオルヴァーが築き上げてきた信頼が崩れかねない光景だ。
「傷は治ってはいるけど……練習は仕方ないとはいえ、正座なんかして足に負担かけないで欲しいわ」
「普通に座ってるものがと思ったが……足を崩してかまわないぞ」
『なんかこう、気分的に正座して聞いた方がいいかなって気がして』
頭を掻きながら立ち上がる颯太。表情は笑っていても、どうしたって周囲に視線を配り、またあの不気味な男がどこかにいないかと探してしまう。
森の異変が解決され、喜んだ村人たちがはしゃぎ回っていたあの夜から二日後の朝。一人の村人が何者かに暴行された経緯は、解決しないままだった。
それも仕方のないことだ。その瞬間を目撃していたのは颯太しかおらず、隣にいたクインも気づいてはいなかった。
あの黒く淀んだ瞳と髪を持つ、薄汚れた衣服を身にまとった男のことを、颯太以外に誰も気づくことはなかったのだから。
村には「ゴーストが現れた」という噂だけが流れ、颯太やゴーストの真実を知る者からすれば落ち着かない雰囲気がある。
「しかし……見ていましたけど。オルヴァーさんの技量は凄まじいですね。見えもしない相手に、よくもそこまで立ち回れますね」
「……最初から見えない相手だとわかっていれば、対応もできる」
クインの心からの賛辞を、オルヴァーは涼しい顔で受け止める。
「背丈の高さも聞いている。音もしないとなればあとは土の動きや風の流れを読むだけだ……対処法を知っているからこちらも優位に動けただけで、初見の相手ならばまず戦いにすらならない。だから……そう落ち込むな」
周囲に気を配るのに集中して返事をしなかったせいか、颯太が気落ちしてるのだと勘違いしたオルヴァーが気を使うような口ぶりで言う。
「……落ち込んでるの?」
顔を覗き込むように近づいてくるクインに、颯太は慌てて手と首を振る。
「違う違う。落ち込んでないよ。というか、勝てると思ってなかったし」
「勝てると思ってなかったって言ってます」
「勝つ気もない腑抜けた精神で模擬戦に付き合わせたのか……?」
『違いますそういうつもりじゃないですむしろ背後を取った時は完全に勝ったつもりになって心がはしゃぎました』
座り直して頭を下げる颯太。その動作が見えてないにせよ、響いてくる声色で颯太が慌てているのを悟り、オルヴァーは不満げに鼻を鳴らす。
「つもりではなく、勝った時に初めて喜べ。相手に刃を突き立てて、倒した姿を確認してからだ……あれだけのことをやってみせたのだから、もうその覚悟はあるだろう」
今でも思い出そうとすれば容易に頭を過ぎる、大量の野犬に刃を突き立てた感触。その感触を手が、腕が、頭が思い出して、颯太の意識は冷える。
「まだ体も本調子ではないはずだ。気概はあるのは結構だが、休めるうちはしっかりと休んでおけ」
そう言って、オルヴァーは広場を立ち去っていく。残された颯太とクインは目を合わせて、二人同時にため息を吐いた。
「……やっぱり、集中できてないよね」
クインに確認の言葉に、颯太は悩みながらも頷く。
二日前のあの光景を、颯太はクインとリア、そして冒険者の二人に隠すことなく伝えていた。まず、自分の見間違いかもしれないという前提の上でだが、脅威が迫っているかもしれない以上隠し通しておくことにメリットなどない。
「リアにも村の周囲を警戒してもらっているけど、ソータが見た相手がゴーストなら……もしかしたら、私たちには見えないかもしれないものね」
他者の認識、強い願望によって姿を変える不定形のマナの塊。それが水際颯太であり、ゴーストの正体だ。
本来ならば意識し、望まれない限り視認などされない。もちろん颯太自身、自分以外のゴーストの存在など欠片も望んではいなかった。
でも、心のどこかで、敵意を持って見つけ出したいと望んでいた存在はいる。
「……今更、見つけてもどうしようもないんだけどな」
国の王妃である女性を汚し、一人の忌み子を産み出す原因となった存在。
血縁上はクインの父親であるゴーストを、見つけ出して殴り飛ばしたい気持ちは、意識しないだけでずっと心の内に燻っていたのかもしれない。
「仮にだけど……もし俺が見つけたゴーストが、君に関係あるゴーストだったら、どうする?」
「どうしよっか。会いたく……はないし、逃げちゃおうか」
あまり悩んでる様子もなく答えるクイン。そのあっけらかんとした様子を、颯太は意外に思いながら口を開く。
「そりゃ会いたくはないだろうけど、気にもならない?」
「気にはなるけど……ソータがもし私の立場だったら、会いたいと思う?」
「……思わない、なぁ」
マイナス面の感情しか持ち得ない相手だ。冷静に考えて、会いたいと思うわけがない。顔を合わせたところで恨み辛みしか出てこないし、相手次第では身の危険を呼び寄せるだけだ。
「昔は、会ってみたい、なんて思っていた頃もあるけど。事情とかそういうのを理解した今となっては、そんな野蛮そうな人、顔も見たくないわ。ソータに会うまでは、ゴーストってみんなそういう存在なのかとも思ってたけど、そこはまぁ、個人差があるのでしょ?」
「個人差……っていう表現が正しいかよくわからないけど。俺みたいに不慮の事態でたまたまこの世界にやって来たってだけなら、善人も悪人もいるんだろうな」
自分のことを善人と称するほど颯太の面は厚くはないが、それなりに真っ当な人格を持ち合わせているはずだ。
自分が死んだことに気づかない魂が、たまたまこの世界にマナとして蓄えられ、自意識により形作られた。それがゴーストの正体なのだが、その存在はひどく曖昧で、不安定だ。
どれぐらいの頻度でこの世界にはゴーストという不安定な存在が生まれているのか、それは颯太もよくわかっていない。とはいえ、決まった周期でポンポン生まれていれば、この世界にもっと混乱を招いているはずだ。
偶然に偶然を重ねた、イレギュラーな産物なのだろうと、颯太は勝手に結論付けているし、その結論をクインも否定しなかった。
「仮にソータの見たそのゴーストが私のお父さんだとして……ゴーストって、単身でそんな長い間存在できるものなのかしら」
「どう、だろう。少なくとも俺は……君に見つけてもらえていなかったら、もう生きてはいなかった気がする」
誰からも見られず、気づかれず、相手にもされず、恐れられるだけ。そんな生活を何日も、何ヶ月も、何年もしていれば。どう考えても、いつかは壊れる。自分を保っていられず、自意識によって存在を確立しているマナの塊は容易に霧散するだろう。
仮に存在できていても、そのゴーストは、すでにまともとは言えない。
歓喜の暄騒に紛れ食べ物を奪い、不審に思われれば見知らぬ相手の腹部に容赦なく蹴り抜く。
それらを一切、なんの躊躇もなく行える。その胆が据わった悪行を平然と行える精神。
そして何より――
「あの笑顔は、まともじゃないよな」
颯太を見つけた時の、ニタリと浮かべられた笑み。咄嗟に目を逸らし、見なかったことにしようとしても、どうしたって頭に焼きついている。
あれは、狂気だ。狂っていた。心を壊し、どうにかなっていなければ浮かべられない笑みだった。
あの笑顔に、瞳に一瞬でも目が合った瞬間に感じた怖気を、どうしても颯太は拭い去ることができない。
「ソータさん、クインさん」
名前を呼ばれた二人が振り返り、視線を下ろすと足元に一匹のリスの姿があった。ちょこんと後ろ足だけで立っていて、円らで愛らしい目はしっかりと二人を見ている。
「リア、おかえり。どうだった?」
リアと呼ばれた小さなリスは、しゃがみこんだクインの差し出された手に飛び乗る。
「村の周囲にはおかしなものはなかったですし、森の中も異変はありませんでしたね。マナ溜まりにあった分のマナが森の中で拡散していて、歩いてるとちょっと落ち着かないぐらいでしようか」
「……わかっちゃいるけど、すごいメルヘンな光景だよなこれ」
手に乗せた小動物と会話をする少女。字面だけ見ればメルヘン極まりない光景だが、異世界に放り出されて早二ヶ月近く。今更驚くようなファンタジーでもない。
触れた生き物のマナを読み取り、そのとおりの姿を再現できる幻獣の娘、リアは、リスの姿のまま愛らしく颯太へと視線を向ける。
「ソータさんが見かけたゴーストが僕の目には映らない可能性もありますが……森の中で誰かが生活しているような様子もないです」
クインの手から肩へと飛び移るリア。その動作はあまりにもリスそのままで、それでいて流暢で丁寧な言葉遣いをするものだから違和感がすごい。
小動物の姿となり、森の様子を見に行っていたリアからの報告を受けて、二人は揃って腕を組んで悩みだす。
「もうどこかに行ったか、そもそも俺の見間違いか」
「見間違いなら一番話は簡単なのだけれどね。どちらにせよ、そろそろ私たちもこの村から離れないと」
颯太の怪我も、軽い模擬戦をこなせるほどには回復している。森の異変を解決した功績を持つクインたちも、自身の黒い髪や瞳を隠すためにこれまでずっと人前ではフードを被り、訝しく思われながらも歓迎されていたが、そろそろそれも心苦しい。
怪しい女性一人旅にしか見えなくも、暖かく迎えてくれた村には感謝しているし、いらぬ迷惑はかけられない。
「……今日、二人の式を見たら、出発しましょうか」
村のある方角を見て、クインは寂しげに微笑みながら口にする。
森の異変が解決されてから二日後。今日は、村人が待ちに待った記念の宴であり。
村を救った旧知の友である、二人の狩猟者の結婚式が行われる日になっていた。
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