第17話 行先は暗い
また悪霊かと、ブロムは舌打ちした。
魂狩りの人手不足で、どれだけ悪霊が増えているのか。
しかし、意識を尖らせたブロムに、悪霊の気配は感じられなかった。
「なにも、感じないが」
訝しく問いながら、内心、恐れと不安が胸中を渦巻いていた。疲労と加齢により、そこまで感覚が鈍っているのか。グランの魂を見つけ浄めることも出来なくなってしまうのか。このような状況で、もし、悪霊との戦いで再び死を迎えたら、それこそ未練を膨らませ、同業者の手を煩わせてしまうのではないだろうか。
ふたりの魂狩りに同調して、サンディも三角の耳を動かす。
風が枝葉を揺らす。遠くで近くで、虫が鳴いている。頭上には一面の星空が広がる。居住区から距離のある山中を統べるのは、静寂だった。
「気のせい、ですかね」
詰めていた息を吐き、バードは指先でこめかみを掻いた。
「さっきの悪霊、自分が相手した中で最強だったんですよ。強烈すぎて、やだなぁ。神経質になってんのかな、俺」
すみません、と頭を下げながらも、まだどこか落ち着かなく視線を巡らせていた。その様子が不憫になり、ブロムは小枝を折って火に焚べた。
「確かに、新参者の相手にしては強過ぎた。ギルドの見立て違いか」
「どうなんでしょうね。最初の一撃で浄めていればそうでもなかったんでしょうけど、途中、いきなり強くなって」
「いきなり?」
眉を顰めるブロムに、さすがのバードも表情を引き締めた。
「ギルドでも、注意するよう言われました。ここんとこ、寄せられる情報より強い悪霊が増えているそうです。それも、戦っている途中に、いきなり強くなるらしいんです」
冷静に思い返せば、ブロムが浄めた昼間の悪霊も、崖から落ちて、急速に動きが速くなった気がする。こちらの疲労や肉体の痛みによる錯覚かと思っていたが、もしかしたら、あれもそうだったのかもしれない。
「厄介だな」
「まったくです。ブロムさんが通りかかってくれなかったら、俺、もう一回死んでるとこでした」
再度頭を下げるバードに、サンディが一声吠えた。
「そうそう、わんこも、ありがとうな」
グル、と喉を鳴らし、心なしか抗議している様子のサンディに、ブロムは頬を緩めた。
「サンディ、だ」
「おっと、失礼。サンディ様。先程は助けてくださり、ありがとうございます」
慇懃に頭を下げ、バードは干し肉を差し出した。サンディは胸を張って座ると、ゆらりと砂色の尾を振り、悠々と干し肉を囓り始めた。
ふわふわした背を手癖で撫でながら、ブロムは夜空を見上げた。
この惑星の魂に、なんらかの異変が起きている。悪霊も魂狩りも、良くない流れに巻き込まれようとしているのか。
(#novelber 17日目お題:錯覚)
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