第9話 消える魂狩り

 回り道をして寄ったギルドで魔石の鏡を鑑定した職員は、重く頷いた。

「で、その人は、仲間とはぐれたって言ってたんだね?」

 ブロムが肯定すると、厚いレンズの眼鏡を外して目の間を揉む。

「最近、姿を消す魂狩りの報告をちらほら見かける。たいていは単独行動だから、 一般民からのもので、尾ひれ背びれが付いているのかと思ったら。そうか、これは、上に掛け合って調査してもらった方がいいな」

 半ば独り言のように低く言うと、データを見てブロムへ鏡を差し出した。

「ご遺体は、回収に行く。この鏡は、使いなさい。もしかしたら、今からの案件で、あると便利かもしれない」

「いいんですか」

 魔石の採掘量は少ない。人工的に作ることもできない。ある意味貴重な道具だ。

 だが、職員は目を潤ませ、鼻をすすった。

「ああ。本来なら、もっといい道具でレベルアップ可能な力を持っているんだから」

 そして、盛大なくしゃみをすると、恨めしそうに、足元にじゃれつく毛玉を見やった。

「はい、これで終わり。すまないが、獣毛アレルギーでね。早くそれを連れ出してくれないかな」

 慌てて毛玉を拾い上げると、ブロムは一礼してギルドを出た。

 目的の町に着いたのは、辺りがすっかり暗くなってからだった。今から町に入っても宿は取れないだろう。野宿をするなら、裏路地より城壁の外の方が容易い。

 藍色の空を見上げると、今しがた光り始めたひとつ星が瞬いていた。

 野営の火を前に、ブロムは考え込んだ。

 姿を消す魂狩り。

 老人と相棒が赴いた地点は、彼が倒れていた地点からだいぶ離れていた。無意識に彷徨い歩いた結果とは思えない。途中、何度か船を乗り継がなければならない行程だ。

 悪霊の仕業にしても、そのような強力な悪霊の存在をブロムは知らない。それに、常に惑星内を監視している悪霊探知石が反応を示すはずだ。ギルドに報告が入っていないということは、悪霊の力とは考えにくい。

「厄介だな」

 呟くと、サンディは三角の耳をピンと立て、舌を出して振り返る。何を言っても常に笑っているように上がる頬を、もにゅもにゅと指で揉む。途中の川で洗ってやったので、毛並みは柔らかく、滑らかだった。

「便利かも、か」

 荷物から取り出した鏡を、角度を変えて眺めた。片手にすっぽり収まる円盤状の魔石を磨き、金属の枠と持ち手をつけたものだ。枠や持ち手に装飾はない。

 悪霊の正体を映すと老人は言ったが、これが役立ちそうな次の任務とは、どのようなものなのか。

 少なくとも、いい予感はない。

 星を見上げるブロムの短い髪を、夜風が冷やしていった。



(#novelber 9日目お題:ひとつ星)

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