第3話 魂狩りになった経緯
道の両側は、次第に木が増えていった。足元で、乾いた落ち葉が音を立てる。街道は手入れの行き届いた林をぬって先へとのびていた。
分岐ごとに、行先を刻んだ金属製の道標が立っている。そのいくつかをやり過ごし、ひとつの分岐でブロムは太い道へと曲がった。魂狩りのギルドがある方向だ。
腕の中では、毛玉が規則正しく膨張と収縮を繰り返していた。閉じた口の端が心なしか上がっているように見えるのは、口の縁が黒い犬の特徴ゆえか。晩秋の夕闇を運ぶ風に冷やされた体表で、そこだけがほっこりと温かかった。
昔は、家で鳥を飼っていた。卵と肉が目的の家畜であったが、時折、気性の大人しい個体を腕に抱いた。肌をくすぐる柔らかな羽根の奥からジワリと感じる体温を、ふと思い出す。
仔犬の大きさと重さは、ちょうどあの時の鳥と同じだろうか。いや、当時のブロムはまだ小さく、か弱かった。鳥はもっと軽かったかもしれない。
落ち葉を踏む音に、ブロムは久しく忘れていた、家族との平穏な暮らしを思い出していた。
生活するのに困らない程度の豊かな家庭で、両親と兄、双子の姉妹、母方の祖父母と家畜で、楽しく暮らしていた。
生活が一変したのは、仕事で乗り込んだ船の墜落事故だ。
研究室の新技術開発も最終段階に入り、開発チームの一員として、テスト飛行に臨んだ、その船が離陸直後に墜落した。
この事故で、たくさんの仲間を失った。結婚を目前にした恋人もいた。
そして、ブロム自身は、一度心臓を止めたものの、蘇生した。
そのことが、大人しい研究員だったブロッサムを
この惑星の人類は、死して蘇生すると他の浮遊する魂を感じられるようになる。その力は惑星のために行使を求められ、半ば強制的に魂狩りに任命された。
一般社会は蘇生した者を気味悪がって受け入れない。蘇生者が選ぶ道は、絶望して自らもう一度死ぬか、魂狩りとしてはみ出し者同士のギルドに所属するかのどちらかしかなかった。
ブロムは、迷った末、魂狩りの道を選んだ。
墜落事故現場に葬いの花を捧げた際、命を落とした仲間の魂が、未練を抱いて浮遊しているのを見てしまったのがきっかけだった。
彼らが悪霊化した時、せめて、自分の手で浄めたい。それが、あの事故でただひとり生き残った自分の宿命のように感じた。
今まで斬った悪霊の中に、仲間の成れの果てもいくつかあった。ギルドで情報を収集し、仲間と思しき魂が浄められたことも確認した。
しかし未だに、もっとも救いたい魂、婚約者だったグランらしき魂の話は聞かない。
新技術の提唱者で、最もあの研究に執着していた彼が、未練を抱かないわけがない。悪霊化し、理性を失った彼が、他の人を傷付けるのを見たくなかった。
枝から舞った落ち葉が、鼻先をかすめた。
思考から戻ったブロムは、悪霊の気配に足を止めた。
近い。だが、見渡してもそれらしき姿はない。たまにすれ違う人が胡散臭そうに避けていく。
気のせいだっただろうか。
歩き出そうとした刹那、落ち葉が降ってきた。
上だ。
(#novelber 3日目お題:落ち葉)
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