第23話 運命の衆院選

 そして、終に、決戦の衆議院選挙当日となった。九州の被災地は一ヵ月間投票は延期されていたが、大勢は今日決まるはずである。

 華子は、京都の病院に寄って京吾の元気な顔を見た後、すぐに東京の選挙事務所へと戻った。ここは、民衆党の本部にもなっている。 

「西郷幹事長、留守番をありがとうございますた。ご実家の方も見て来ましたが、大きな被害はありませんでした。奥様始め、社員の方々も元気で被災者の支援に奮闘されています。素晴らしい奥様ですね」

「恐れ入ります。皆さまのご支援に、九州の一員として心から御礼申します」

 西郷は深々と頭を下げると、華子はその手を取った。

「さあ、衆院選の投票日です。今回の私達の行動が、どう評価されるか。勝負です!」

 華子は力強く言って、西郷に微笑みかけた。



 午後八時を過ぎた頃から各局テレビで開票速報が始まった。投票所の出口調査で票読みした各局では、既に、当確が何人も出始めていた。

 開票が進むにつれて、民衆党の当確者も五人、十人と増えていったが、自改党も善戦していて、抜きつ抜かれつを繰り返していた。


 東京の華子の選挙区では、開票が進むにつれ、日虎との接戦が展開されていたが、最後には、僅差で華子の当選が決まった。日虎は選挙区では落ちたが、比例区で救われた。


「一条華子、当選万歳!」


 党首である華子の当選が決まった事で、民衆党本部では歓喜が爆発した。それを合図に、全国でも自改党との接戦を制し、次々と当選者が出たのである。

 華子が、にこやかにバラの花を当選者の名前の上に着けていくと、歓声が上がりフラッシュが瞬いた。



 結果、民衆党は二百二十議席 自改党は百八十議席で、民衆党の大勝利となった。


「華子様、おめでとうございます!」


 西郷が、華子の手を取り、拝むようにお辞儀をした。男、西郷の目に涙が溢れ、言葉が続かなかった。 

、歓喜が爆発した民衆党本部では、いつまでも万歳の声が轟いていた。


「国民の皆様を信じて訴え切った結果だと思います。これで日本は変わります。お約束通り国民主体の政治を行います!」

 テレビのインタビューで、華子は力強く抱負を語った。


 敗残の将、日虎総理はマイクを向けられると、

「どうなっても知らんぞ!」

 そんな意味不明な捨て台詞を残し、苦虫を噛み潰したような顔で椅子を蹴り、会見場を出て行った。


 華子は、党首として多数のテレビ出演などを熟して、一段落した時は既に夜が明けていた。


「京吾、起きていた? この勝利はあなたのお陰よ、本当にありがとう」

「華子様の人徳だよ。僕も嬉しい」

 電話越しに、京吾の元気な声を聴いて、華子は疲れが吹き飛ぶ思いがした。 

 

 一月後、九州被災地の投票が行われ、殆どの議席を民衆党が確保した。華子は二十七歳という若さで女性初の総理大臣に指名され、終に、一条政権が誕生したのである。

 親任式は皇居で行われ、華子は父である天皇より直接任命書を手渡された。

 天皇の目が「よく頑張ったね」と語っているのを、華子は笑顔で返した。



 華子の総理としての忙しい日々が始まった。彼女は、京吾を京都から東京の病院に転院させて、毎晩、顔を見に行った。医師の話では、あと一月の入院が必要とのことだった。

「華子様、総理になって忙しいんでしょう。母も付いてくれていますから、僕の事は心配いらないですよ」

「そうはいかないわ。夫が入院してるのに妻が知らんふり出来ないでしょう」

「僕たちは夫婦だったんだね。皆が貴女の事を奥様、奥様というもんだから思い出しちゃったよ。でも偽装の夫婦だったんだね」

「……確かにそれも真実だけど、もう一つの真実をあなたは思い出していないわ」

「もう一つの真実?」

「そう、私と京吾が心から愛し合っているという真実よ」

「僕と華子様が愛し合っている?……」

「無理しなくてもいいわ、少しづつ思い出しましょう。私達が本物の夫婦である事は間違いない事なんだから」

「うん……」

 京吾の記憶は完全に戻っておらず、華子はそれがもどかしかった。一時的な記憶喪失であるにせよ、京吾の中に、愛する自分が居ない事が辛く寂しかったのだ。

 今まで頑張れたのは、京吾の愛に支えられていたからだと、華子は今更ながら感じるのだった。 


 民衆党は衆議院では過半数を取ったものの、参議院では七十二議席で第二党である。

 こうしたねじれ状態の中でも、法案は最終的に衆議院の採決が優先されることから、華子は、一つ一つの法案を、時間はかかっても着実に通していった。

 そんな折、警護長のスミスから、日虎が不穏な動きをしていると聞かされた。

 華子が総理になってからも、スミス達と松下、梅川、竹田の八人は、警視庁の警護課に所属し、SPとして華子の警護の任に就いていたのだ。


 京吾がアメリカから呼んだ海兵隊仲間には、スミス達五人の他に十数名が、京吾をサポートする影の軍団として活躍していた。彼らは、今も日虎の動きを監視していたのである。

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