第21話 狙撃
その頃、京都駅上空に向かう所属不明の一機のヘリコプターがあった。
「仲間からの連絡はあったか?」
助手席に乗っている大柄の鋭い目をした外国人が、パイロットに声を掛けた。彼は大型の狙撃用ライフルを抱いている。
「一条華子の現在位置はここです」
パイロットは、画面に映し出された京都駅周辺の映像を指差した。
「よし、準備はOKだ。一気に京都駅前を低空で飛んでくれ!」
「ラジャー。目的地到達迄二分。狙撃チャンスは三秒です!」
「任せろ!」
男は窓から銃口を出して、狙撃態勢に入った。
京都駅前では、華子の街頭演説が終わりに近付いていた。上空を旋回していた報道のヘリが去って、スピーカーから流れる華子の声だけがひと際大きく響いた、その時だった。
突然、所属不明のヘリコプターが、右前方のビルの谷間から爆音と共に姿を現すと、その爆音を聞いて、華子の演説を聞いていた人々が一斉にヘリの方に振り向いた。
ヘリの中からライフルを構える男の姿が、マイクを手にした華子の目に入った。
男が構えたライフルの照準器の中心に、華子の顔が捉えられた。
「ジ、エンド」男は、そう呟いて引き金を引いた。
「危ない!!」
ライフルが火を噴くのと、京吾が華子の前に躍り出たのが同時だった。
京吾と華子が倒れ込んだのを見て、辺りは騒然となった。松下隊長らが二人に駆け寄り、壁を作って次の攻撃に備えた。
ヘリコプターは、そのまま高度を上げ、去っていった。
ヘリの助手席では、スナイパーの男が眉間から血を流して絶命していた。ビル屋上に待機していたスミスの部下がライフルで狙撃したのだが、一瞬遅かった。
「京吾! 京吾!」
華子が、自分の上に覆いかぶさってピクリとも動かない京吾を揺り起こそうとするが、彼は目を覚まさない。華子は京吾の頭から血が滴り落ちているのに気付いた。見ると、ヘルメットの後部に弾丸が突き刺さっているではないか。
「京吾! 大丈夫なの? 京吾!」
「いかん、救急車だ! 華子様を建物の中へ!」
松下隊長の指示で、京吾に縋りつく華子を無理やり引き離したスミス達は、パニック状態となった群衆を掻き分け、駅の建物の中へと彼女を避難させた。
京吾は病院へ運ばれ、緊急手術を受けた。弾丸は、防弾ヘルメットを突き抜け頭蓋骨を割って止まっていた。弾は大口径の特殊な強化弾で、通常のヘルメットなら、頭を貫通して即死だっただろう。
手術は何とか成功したものの、意識は戻らなかった。医師は今夜が山だと告げた。
病院へ駆けつけた華子は、彼の手を握ったまま動こうとはしなかった。
「華子様、私が変わります。少し休んでください」
令子が懇願したが、華子は耳を貸さなかった。
そして、夜が明けた。華子は身動ぎもしないで、相変わらず京吾の手を握り締めていた。
「……僕の手を握っているのは誰? 母さんなのか?」
不意に、掠れた京吾の声がして華子は我に返った。
「京吾! 気が付いたのね。私よ、華子よ。良かった……」
華子の目に涙が溢れた。
「華子様? 真っ暗で何も見えない世界で僕は彷徨っていたんだ。誰かが僕を呼んでいた。必死で声のする方へ行くと白い手が見えた。その手を握るとすごく暖かいんだ。幸せな気分になって目が覚めた。そうか、あれは、華子様だったんだね。ありがとう」
急にしゃべりだした京吾。最近では、「華子」と呼び捨てるのに何かよそよそしい。華子は直ぐに医師を呼んだ。
「頭をやられていますからね。記憶が定まっていないんでしょう。時間と共に戻ると思います。この調子なら順調に回復するでしょう。もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
華子の目から再び涙が溢れた。
「華子様が僕の為に泣いてくれるなんて夢みたいだな。僕は幸せ者だ」
京吾は、相変わらず自分の世界の中で遊んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます