第20話 衆議院緊急解散

 京吾が、華子の警護に復帰した事で、最強助っ人の皇蘭はお役御免となった。

「京吾。華子さんをしっかり護りなさい。仲良くね」

 彼女は、京吾の肩をポンと叩いて微笑んだ。

 京吾は、皇蘭がいなければ、華子を護りきることは出来なかったと、深々と頭を下げて彼女を見送った。


 この日、日虎総理は、参院選の結果を踏まえて、今の状況で民衆党に時間を与えては、増々支持者が増えると判断して、参院選が終わった今が好機と、衆議院を緊急解散した。


 参院選を必死で戦って来た華子たちは、引き続き、一ヵ月という短期間で衆院選を戦わなければならなかった。民衆党の三百名の候補者は既に決まっていたが、具体的な選挙の戦いは皆無と言ってよかった。

「参院選の結果を見ても、私達に風が吹いて居ることは間違いありません。期間は短いですが、この機を逃したら日虎はどんな手を使ってくるか知れません。次は無いと思って下さい。この日本の国を救うのは私達民衆党以外ないのです。断じて勝とうではありませんか!」

 全国の衆議院候補者三百名と参議院議員の七十二名を前にして、華子は獅子吼した。

 衆院選には華子も東京から出馬していて、同じ選挙区には、宿敵日虎総理も出馬していたのである。

 選挙の戦いが始まると、華子は、最初に東京の自分の選挙区で街頭演説を行った。東京の中心街での街頭演説会には多くの人が足を止めて聞き入った。切々と訴え、時にはユーモアを交えながらの華子の話は、聞く者の心をつかんで離さなかった。

 彼女はこの日以降、党首として全国を回り、自分の選挙区に入る事は無かった。この日から、華子の怒涛の一ヵ月がスタートしたのである。


 

 一方、自改党による陰湿な攻撃も熾烈を極めた。彼らは、でっち上げた民衆党の候補者のスキャンダルを週刊誌や新聞に載せて、そのイメージを失墜させようとしたり、全国の民衆党の候補者事務所への放火や嫌がらせを、執拗に行ったのである。

 又、大企業に手を回して、自改党に投票しなければ解雇するなどと、社員への締め付けを行なった。

 ある会社では、臨時ボーナスの名目で社員に金をばらまき、投票を強要するなど、なりふり構わず、大金が飛び交った。

 自改党の議員達も、今の民衆党の勢いに恐れをなし、必死だったのだ。


 日虎は、それでも手ぬるいと、民衆党を応援する会社や知識人を、国家権力を駆使して徹底して叩いた。この為、表立って民衆党を応援する人は影を潜め、華子は苦戦を強いられた。何処へ行っても人が集まらないのである。

 だが、華子は負けていなかった。懸命に街を流し、祈るような気持ちで一人の人に訴えていった。又、ネットやテレビを使って応戦していったのである。


 衆院選公示の日、華子たちは京都駅前で街頭演説をするため京都へと向かっていた。列車の中で、京吾が物憂げに言った。            ????

「今日は、何だか胸騒ぎがするんだ。演説を中止には出来ないかな?」

「危険は覚悟の上よ。公示日の第一声で躓く訳にはいかないわ。でも、市民を危険に巻き込む訳にはいかないから、万が一を考えて出来るだけ短時間で終わるようにしましょう」

「京吾、先発隊のスミス達が、周辺のビルなどを徹底して調査しているから、爆発物や狙撃の心配は無いと思う。まさか、ミサイルは撃って来ないだろう」

 松下隊長が割り切れぬ表情の京吾に言った。

 まもなく、列車の窓の向こうに、京都タワーが姿を現した。


 京都駅に着いた華子は、駅前広場に止めてあった街宣カーに乗り込んだ。人通りは多かったが足を止める人はまばらである。華子はマイクを取って颯爽と第一声を放った。

「いよいよ公示日を迎え本格的な戦いがスタートしました。残り二週間足らずで日本の未来が決まってしまいます。我が民衆党は、政治を民衆の手に取り戻すために立ち上がりました。断じて勝って、日虎政権を倒し、皆さまの為に働いて参りますので、どうか宜しくお願い致します!」

 華子の良く通る声が拡声器から流れ出すと、忙しそうに通り過ぎようとしていた人達が、一人二人と足を止めて華子の姿を探した。

 頭上には、華子の街頭演説の取材なのか、日日テレビと書かれたヘリコプターが、一機旋回していた。

「スミス、ビルの屋上からヘリの様子を双眼鏡で確認してくれ!」

 華子の傍に寄り添いながら、京吾は防御を固める事に余念が無かった。


 この後、京吾の胸騒ぎが的中することになるとは、華子たちは知る由も無かった。

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